新聞について聞きました!著名人インタビュー

弱者に優しい税制実現へ声上げて 2014年4月

島田順子・ファッションデザイナー

 私がフランスに初めて来たのはドゴール大統領時代の1967年。アルジェリア独立(62年)で移民が増え、就労ビザがなかなか出なかったのを思い出す。一度帰国して出直すと、今度は5月革命と呼ばれる学生運動のうねり。激動の時代だった。当時の日本円は格段に弱く、何も買えないぐらいの物価だったが、ヌーベルバーグの映画に憧れ、パリの空気を吸うだけでも良いと思っていた私は怖いもの知らずだった。

 今はパリで1年の大半を過ごし、仕事などで日本に年6~7回帰る生活を送っている。両国の暮らしを比べると、物価の差はほとんどなくなったものの、フランスの税負担の大きさを感じることもある。日本では消費税増税が話題だが、フランスでは既に(消費税に相当する)付加価値税が定着し、税率も20%と高い。

 フランスでは医療や公教育が無料に近く、病気で入院したり、子育てをすると、高い税金がここで使われているのかと実感できる。 また本当に生活に必要なパンやバターに軽減税率(5・5%)がある。マルシェ(市場)で買う野菜や肉類も税率は低く定められており、日本から戻ると割安に感じる。新聞(2・1%)や本(5・5%)などにも軽減税率があるが、これは誰にでもニュースを知り、知識を得る権利があると考えられているから。私はインターネットやテレビ、ラジオを利用するが、仏主要紙2紙も購読し、主張の違いを比べるのを楽しみにしている。世の中の流れを知ることは、フランスや日本だけでなく、世界のどこへ行っても大事なことだ。

 フランスでは観劇(5・5%)や美術館の入場料(10%)にも軽減税率があるが、これには文化を大切にする国柄が関係している。私のパリ郊外の自宅の地下に古い礼拝堂が見つかった時、政府が改修費を負担したことからも、この国の姿勢が分かる。

 実は日本で税率が均一ということに以前から違和感があり、抗議運動を起こそうと密かに思っていたほどだ。世の中の平等を考えると、物によって異なる税率をかけることは必要だ。豊かな人たちが高い物を買って多くの税金を払うのは当たり前。逆に、もしフランスでパンやバターも高級品と同じ税率なら、何事も主張の強いフランス人のこと、きっと反対運動が起きていただろう。弱者に優しい思想があるからこそ、今の制度が成り立っている。日本人は控え目だが、税率が上がるのなら、消費者は、まずそこを主張すべきだと思う。

島田順子(しまだ・じゅんこ)
1941年千葉県館山市生まれ。杉野学園ドレスメーカー女学院デザイナー科卒業。67年に渡仏し、パリの百貨店「プランタン」研修室などを経て81年に独自ブランドを発表、パリ市内にデザイン事務所設立。2011年にパリコレクション60回目。12年、仏芸術文化勲章「シュバリエ」を受章。昨年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京五輪招致委員会が着用した公式スーツも監修した。