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「曖昧なままでは発展しない」 東大大学院山口いつ子准教授 事前抑制の法理を解説 マス倫研究会

 マスコミ倫理懇談会全国協議会の第10期11回「メディアと法」研究会が7月11日、新聞協会会議室で開かれ、東大大学院の山口いつ子准教授が「司法的事前抑制の合憲性―インターネット時代の表現の自由と名誉・プライバシーとの間の調整」と題し講演した。米英の例を引きつつ、出版を事前に差し止める「事前抑制の法理」について解説。和解での決着により法理が曖昧なままになるケースが多い現状について、「判決文が表に出なければ、学者はその理由をチェックできない。法理の発展にも役立たないし、メディアも世の中にアピールできないのではないか」と述べた。

 山口氏は、事前差し止めが検閲に当たるかどうか問われた北方ジャーナル事件の最高裁判決(1986年)を説明。判決では、事前差し止めは検閲に当たらないとした上で、新たに表現に対する「事前抑制」の概念を示した。「厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容され得る」としている。

 米国では、事前抑制について「ほぼ絶対的な拒絶を堅持している」と話す。その背景として、事前抑制の禁止こそが、合衆国憲法に定めるプレスの自由の核であるとされており、71年のペンタゴン文書事件判決などを例に「表現の自由の憲法上の保障について、根拠や理論の豊かな蓄積がある」とした。

 一方英国は、差し止め命令を「公正かつ便宜」な場合に一定の制限下で認めている。名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害など、事案によってさまざまな違いがあるものの、差し止め命令の発令自体の公表をも差し止める「超差し止め命令(Super Injunction)」が近年相次ぎ、大きな議論を呼んだとの現状を紹介した。

 山口氏は、日本でも差し止めの許容例が増えているなどの傾向を挙げた上で、「インターネットなど、新たなメディアの特性をどう判断基準に組み込むかが問われている」と指摘。差し止め事案の多くが和解や取り下げで本格的な訴訟にならない状況が進む中、「判断の結論を丁寧に理由付けなければならない」と、審理を尽くす必要性を強調した。

 講演後の質疑応答で共同の佐々木央編集委員は、新聞社などが差し止めを受ける一方、ネットでの書き込みなどについて同様の措置を講ずるのが難しい現状を踏まえ、「米国の『ほぼ絶対的な拒絶』の方が、法の整合性がとれているのではないか」と話した。山口氏は「法理としてはすっきりしているが、被害者救済の観点で疑問がある。メディアの役割に社会的合意がある米国だからこそ、許容されている」とした。その上で「英国では、いわゆる大メディアだけが差し止めを受けるのは、社会的責任や期待の差とされている」と説明した。

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