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被害の全容つかみ報道を 熊本でマス倫研修会

被災地取材の課題を議論

 マスコミ倫理懇談会全国協議会は2月15日、災害報道をテーマに研修会を熊本市のホテル日航熊本で開き、熊本地震から得た情報発信や被災地取材の課題について話し合った。特に被害が大きかった地域に報道が集中したことを踏まえ、メディアが被害の全容をつかむ取材に力を入れるべきだとの意見が出された。行政だけでなく被災者支援に当たる非政府組織(NGO)も取材源として活用してほしいとの要望も上がった。

 研修会は災害支援団体ジャパンプラットフォームとの共催。報道や行政、NGOの関係者ら約110人が参加した。

 大西一史熊本市長は地震発生後、ボランティアの募集告知や給水所の案内、水道管の破損状況に関する情報収集などにツイッターを使った。その後、被災者5千人を対象にアンケートを取った結果、大半の人が新聞やテレビから情報を得ていたことが分かったという。大西氏は「各紙が避難所に新聞を届けてくれたのはありがたかった。今後、災害時の避難所への新聞提供を公費などで賄う協定も考えたい」と話した。

 一方で取材では一部の避難所に集中したり、夜間の取材や報道ヘリコプターの騒音で困惑した住民もいたりしたと指摘した。「益城町に記者が集中し、同様の被害があった熊本市南区城南町では報道陣の姿を見なかった」との声も寄せられたという。大西氏はメディアに対し「被害の全体像をつかむことを意識してほしい」と要望した。

 熊本日日の小多崇社会部次長は「4月16日の『本震』で被害が広域にわたり、全容を報じきれなかった。じくじたる思いがある」と語った。益城町や南阿蘇村などに重点的に記者を配置したため、取材が不十分な地域が出たと振り返った。これを踏まえ熊本日日は昨年7月の連載「連鎖の衝撃 メディア編」で、過熱取材の影で報じられなかった窮状があったことも含めて検証した。

 小多氏によると、地震後に全国から詰め掛けた報道陣は500人以上。集団的過熱取材に陥り「連載では地元紙として避難所などでの取材態勢を調整しきれず、課題が残ったと指摘した」という。

 避難所の運営などを支援したジャパンプラットフォームの阿久津幸彦国内事業部長は、災害支援団体などを対象にしたアンケート結果を紹介。メディアに対し「課題を先読みして報じてほしい」「災害弱者のことをもっと取り上げてほしい」といった声があったと述べた。日頃からメディアが支援団体と連携することで、こうした要望を災害報道に反映できるのではないかと呼び掛けた。

 会場からもセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの田代範子氏が「メディアのNGOへの信頼度が低いのではないか」と提起。「私たちも現場で活動している」として、被災者の現状を知る一次情報源として取材してほしいと語った。

緊急度に応じた発信が重要 法政大・藤代氏、災害時のデマ対策で講演

 「ネット時代の災害報道―時間推移と情報の優先順位」と題した分科会では法政大の藤代裕之准教授が、災害時にインターネット上にあふれる情報の真偽を報道機関や専門家らが検証し、緊急性に応じて優先順位を付け発信する「情報トリアージ」が必要だと提案した。

 米大統領選では偽ニュースが話題となった。藤代氏は、日本では大きな災害時にデマが流れる傾向があると述べた。熊本地震後、ツイッターに投稿された救助を求めるつぶやきの中には虚偽の情報も含まれていた。

 藤代氏は「ネット上の情報に誰も責任を持っていないのは問題だ」と指摘。人命救助や安全な場所への避難が優先される発災直後は、メディアが専門家や行政と連携し緊急性の高い情報に優先順位を付けて発信してはどうかと提案した。「正しい情報が拡散すればデマは沈静化する」と述べた。

 福島テレビは、東日本大震災後に「情報トリアージ」チームを設け、ツイッターなどネット上に流れる情報を分析。取材すべきトピックを精査した。報道部の坂井有生アナウンサーは「地震や津波の被害状況などは優先順位を付けることができた。しかし原発事故の情報は専門家の仮定や極論に基づく書き込みが多く戸惑った」と話した。

 藤代氏は「ソーシャルメディア上でどれほど話題になっているかを勘案し、場合によっては無視するという選択肢もある。極論を取り上げて混乱を招くことの方が危ない」と応じた。

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