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[マス倫全国大会]時間かけても実態伝える 実名報道の意義を議論

 マスコミ倫理懇談会全国大会初日の9月28日、「実名報道の意義」をテーマにした分科会では、相模原市の障害者施設殺傷事件を取材した記者らが討議した。日本の社会では被害者の実名を報じる意識について共通理解がないとの指摘があり、時間をかけてでも実名報道を追求し実態を伝える努力が必要だとの意見が出された。

 昨年7月の相模原市障害者施設殺傷事件で、神奈川県警は殺害された女性10人にA~J、男性9人にK~Sのアルファベットを当て発表した。負傷者は男女別の人数のみ明らかにした。記者クラブの申し入れに対し、県警は「プライバシー保護の必要性が高い。遺族から強い要請があった」と繰り返した。県警は今回に限ると説明しているものの、神奈川の鈴木達也編集局次長兼報道部長は「他県への波及を懸念している」と話した。

 鈴木氏は「被害者の名前を出す必要性について日本の社会は明確な答えを持っていないのではないか」と提起した。実名入りの訴求力ある記事で理解を得ることに加え、反対論の背景にある集団的過熱取材への懸念解消が課題だとした。

 NHK横浜放送局の松井裕子ニュースデスクは「被告の言い分ばかりが伝わり、差別拡大につながったのではないか」と述べた。匿名で報じたことが影響したとみる。

 今年1月、遺族や施設関係者への取材を基に、犠牲者の生前の姿を紹介するウェブサイト「19のいのち」を開いた。遺族の反対もあり氏名は載せていない。顔写真もイラスト化した。

 事件から1年後、遺族の了承を得て2人のイラストを写真に切り替えた。松井氏は「時間がかかっても、遺族の理解を得て実名で伝えたい」と語った。

 東奥の菊地幹整理部長は今年8月、青森市の女子中学生がいじめを訴え自殺した事件について報告した。

 事件を受け、青森県内の写真コンテストで少女が写った写真の最高賞内定が取り消されたと報じると、匿名を希望していた遺族が「実名と写真を掲載してほしい」と訴えた。

 写真には笑顔の少女が写っていた。自ら命を絶ったのは撮影日の10日後。「短い人生の急転を伝える迫真さがある」「『波風を立てない』と賞を取り消した主催者の決定を、写真を見て考えてほしい」と判断し、写真と実名を掲載した。菊地氏は「『遺族の意向が変わったから』ではなく、報道機関として実名に切り替える理由を徹底的に議論することが必要だ」と語った。

記者研修で意義浸透を ニュースは歴史の第1稿 共同・澤氏

 「ニュースは歴史の第1稿」であり「ニュースの主人公は普通の市民」―。分科会では共同の澤康臣・特別報道室編集委員が実名報道が根付く欧米メディアの報道例を紹介した。日本の匿名志向は際立って高いとし、まずメディアの側が記者研修を通じ実名を伝える意義を浸透させることが必要だと述べた。

 日本の匿名志向を表す例として、ウィキペディアの「アルジェリア人質事件」(2013年)の記載を挙げた。「日本語版には被害者の実名はないが、英語版には載っている」。14年の情報通信白書によると、ツイッターを匿名で使う人は日本では75.1%で、英米は3割強。澤氏は「日本は匿名の割合が突出して高い」とし、実名報道に違和感を覚える人がいるのもこのためだと指摘した。

 米コネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件(12年)で、米ニューヨーク・タイムズは児童を含む27人の犠牲者の名前を一面に大きく掲載した。澤氏は「被害者の名前を社会の共有知識とし、みんなで哀悼するためだ」と解説。他のメディアも、エボラ熱に感染した看護師を実名で伝えるなど「普通の市民がニュースの主人公だという意識がある。ジャーナリズムは歴史の第1稿という考えが確立している」と指摘した。

 日本で実名報道の意義を浸透させるには、研修を通じ「その必要性について若い記者が『腹に落ちる』ようにすることが重要だ」と提起した。

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