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[盛岡でマス倫東北地区大会] 遺族らの掲載許可に苦慮 事件・災害の実名報道で議論

 マスコミ倫理懇談会東北地区大会が10月27日、盛岡市のホテルメトロポリタン盛岡ニューウイングで開かれた。事件の被害者、災害犠牲者らの実名・写真を報じる際の配慮について議論した。遺族取材で、当人の親、配偶者のどちらから掲載の了解を得るべきか迷いが残るケースや、災害が家族の人間関係に影を落とし、掲載の承諾を得るのが難しくなっている例が報告された。新聞・放送社などから42人が参加した。

 東奥社会部の佐々木大輔記者は、青森市の女子中学生が自殺した昨年8月の事件で、約2か月後に実名と写真を掲載した経緯を語った。遺族の要望や写真が持つ訴求力などを「総合的に考えた」と述べた。参加者からの「新聞社が実名掲載の責任を負えるのか」との問いには「遺族の了解がなければ掲載は難しい。現場の記者は遺族の同意がよりどころだ」と答えた。

 岩手日報の川端章子報道部次長は東日本大震災直後の避難者名簿掲載について「漢字が分からない人もいた。この時は裏付けよりも人々が求めている情報を優先した」と振り返った。公表されなかった行方不明者の氏名について、家族の51.6%が「公表してほしかった」と答えたアンケート結果(今年1~2月実施)も紹介した。

 岩手日報の川村公司取締役編集局長も会場から議論に加わった。2011年から続ける震災犠牲者の顔写真掲載では、当人に最も近い人の了解を得ることを徹底する。記事中でも説明しているという。父親の承諾を得て娘と孫2人の写真を掲載した際、入院中だった娘の夫から「自分に問い合わせがなかった」と抗議を受けた例を挙げ「どちらが最も近い人だったのか。災害犠牲者の報道ではより丁寧な取材が必要だ」と話した。

 河北報道部の菊池春子記者も、災害犠牲者の実名・写真掲載について同意を得る難しさを指摘した。

 仙台市で被災地支援に取り組む人を取材した際、写真の掲載許可を求めると「石巻市にいる自分の兄弟には知られたくない。載せるなら石巻に届かない夕刊に」と言われたという。津波で子供2人を亡くした兄弟との関係がうまくいっていないから、との理由だった。「震災で家族を亡くし、対人関係が変わった人も多い。実名や顔写真掲載の了解を得る作業が単純ではなくなっている」と語った。

 進行を務めた立正大の徳山喜雄教授は「実名報道に関する意思決定の過程が読者に伝わっていない」と提起した。新潟大の鈴木正朝教授は「新聞社は事例を類型化し、実名報道に対する方針をウェブサイトや社説で説明すべきだ」と述べた。

21人の実像を社会に共有 豪雨不明者報道で報告 西日本・古川記者

 「行方不明者の人となりを社会に共有することで、災害の悲惨さを伝えたい」。西日本社会部の古川努記者は、7月13日付朝刊で九州北部豪雨の行方不明者21人(当時)の氏名や顔写真を報じた際の思いをこう語った。当局の発表がない中、情報の確度に応じ表記を変えるなど表現にも配慮したと述べた。

 豪雨被害を追う記者の約半数で取材班を組み、家族や知人に不明者の氏名や生年月日を確認した。古川氏も父の発見を待つ2人の娘に話を聞いた。土砂に埋もれた実家の捜索にも立ち会ったという。

 当局は犠牲者の氏名や年齢、住所は発表したものの、不明者については集落別の人数しか明らかにしなかった。しかし「狭い地域なので容易に特定できた」(古川氏)。

 掲載に当たっては表記の基準を設けた。漢字の字体、生年月日を肉親に確認できた人は漢字表記とし、年齢も載せた。知人や同僚から情報を得た場合は片仮名表記で、年代の記載にとどめた。顔写真は肉親の了解を得た人のみ公開した。

 西日本の購読者が多い地域だったこともあり、取材はしやすかったという。古川氏は「だからこそ被災者の言葉を伝える責任がある」と述べた。

 九州北部豪雨では今も4人の行方が分かっていない。氏名は依然公表されていないという。

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