11月 3日付 自由貿易圏 期待と懸念

「GDP押し上げ」「格差拡大」

 環太平洋連携協定(TPP)が難航の末、ようやく大筋合意に至った。本格的な貿易自由化時代に突入するが、大幅な関税撤廃による波及効果への期待が大きい半面、農業分野では反発も強い。大筋合意直後の10月6~7日を軸に各紙社説の論調をまとめた。

在京紙、概ね「恩恵」評価

 大筋合意について、在京紙では評価する見方が多い。

 日経は「12カ国の経済規模は世界の4割弱を占める。世界最大の自由貿易圏をつくる道筋ができた」と強調。日本についても国内総生産(GDP)を2%分押し上げるとの試算を示す。読売も「発効すれば、多くの農産品や工業製品の関税が下げられ、公平で透明性の高い包括的な貿易・投資ルールが整備される。経済活動の自由度が高まり、生産拡大や雇用創出など、様々な恩恵を享受できよう」と前向きに評価する。

 これに対し、東京は「自由な経済活動を放任すれば弱者は追い込まれ、経済格差は拡大して対立が深まる」「TPPのもう一つの顔は経済のブロック化、保護主義への傾斜という危険な顔だ」などと、「負の面」を訴える。

 地方紙では厳しい反応が多い。▽「国内外の情勢次第では交渉やり直しという選択肢もあると考えるべきだ」(中国)▽「地方創生に逆行する愚策だと断言したい。(略)国会の承認がなければ、TPPは発効しない」(宮崎日日)▽「農業の保護を求めた国会決議にも明らかに反する。(略)各方面への悪影響が排除できない以上、協定を承認することは許されない」(琉球)―といった具合だ。

国際競争への不安

 地方の反応が厳しいのも、農産品ではコメや牛肉など「重要5項目」が関税化をほぼ回避したものの、8割で関税がなくなり、熾烈(しれつ)な国際競争にさらされることへの不安や懸念が強いためだろう。

 コメどころでは「新たに無関税枠が設けられ、価格競争が激しくなる可能性がある。コメ農家は、高齢化や需要量の減少に加え、新たな困難に直面したと言える」(新潟)と警鐘を鳴らす。北の酪農王国で「酪農は二重の打撃を受ける。関税引き下げで輸入牛肉が増えれば、乳用種の肉用牛が値下がりする。バターなどの輸入枠設置で輸入が増えれば、生産増加に懸命な酪農家の意欲を奪いかねない」(北海道)と憂えれば、砂糖が主力の最南端でも、「沖縄の離島は、サトウキビに依存しているところが多い。(略)もし関税が撤廃されたり大幅に引き下げられたりすれば、壊滅的打撃を受ける」(沖タイ)と悲鳴をあげる。

 逆に、これを機に「強い農業」「強いモノづくり」を目指す地方もある。静岡は安倍晋三首相が記者会見で取り上げた特産のお茶を引き合いに、「高品質化やブランド化で競争力を高め、海外輸出を視野に販路拡大の調査や研究に官民挙げて取り組んでもらいたい」と要望する。北國も、眼鏡の福井・鯖江ブランドを例に、「中小企業や地方が主役に躍り出るのであれば、北陸の事業者にとってもTPPを生かさない手はない」と意欲を示すが、「強い農業」論に対しては異論も多い。信濃毎日は「中山間地など条件が不利な農業の切り捨てにもつながりかねない。(略)農業の衰退は地方の衰退を招く。多種多様な農業の維持は不可欠だ」と、「弱者」への目配りを説く。

政府は「負の部分」説明を

 今後の焦点は、情報公開と政府の説明、そして国内対策だ。交渉過程では、手の内をさらせば不利になるとして各国とも秘密主義に徹した。大筋合意した現在、中央・地方を問わず、政府に対し「国民生活に関わる問題だけに『負の部分』も含めて十分に説明し、国民の理解を得なければならない」(神戸)と求める点で一致する。

 国内対策では、来年夏の参院選をにらみ補助金の増額要求が高まるのは必至。朝日は、1990年代のウルグアイ・ラウンド合意を受け総額6兆円の対策費を投じたのを教訓に、「その多くは農業関連の土木事業で、競争力の強化に必ずしもつながらなかった。同じ過ちを繰り返す余裕は、借金が1千兆円を超す日本の財政にはない」と戒める。震災地への配慮も不可欠だ。福島民友は「政府を挙げて県産農産物の風評払拭(ふっしょく)を優先すべきだ」と訴える。

 一方、中国とどう向き合っていくのかという論点も抱える。産経は「共産党独裁体制下で恣意(しい)的な経済運営が目立ち、法の支配も不十分だ」とし、「それで透明性の高い自由市場を築けるのか」と疑問を投げ掛ける。これに対し、毎日は「TPPは排他的な経済圏ではないはずだ。存在感を高め、公平で透明なルールに基づく高水準の自由貿易圏に中国を取り込んでいくべきだろう」とする。国益を見据えた論議が望まれる。(審査室)

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