2016年 3月1日
幕引きは許されない

徹底的に疑惑の究明を

 甘利明経済再生担当相が1月28日、週刊誌が報じた金銭授受疑惑で辞任した。経済政策「アベノミクス」の司令塔で、環太平洋連携協定(TPP)の交渉役として政権の屋台骨を支えていた甘利氏の突然の辞任表明だった。安倍内閣を直撃した「政治とカネ」問題に、主要紙は一斉に厳しい論調の社説を掲載した。

 週刊文春の報道によると、千葉県白井市の建設会社が県道工事をめぐって都市再生機構(UR)とトラブルになり、建設会社の総務担当者が甘利氏の事務所に相談。補償金を受け取った謝礼として総務担当者が13年8月に500万円を甘利氏の公設秘書に渡したほか、甘利氏本人にも13年11月と14年2月に計100万円を渡すなど、秘書への接待を含めて計1200万円を提供したとされる。

 甘利氏は記者会見で、大臣室と地元事務所で現金を受け取ったことを認め、政治献金として適正に会計処理したと説明。秘書が受け取った500万円のうち、300万円は秘書が使い込んでいたことを明らかにした。

説明責任を果たせ

 朝日は「安倍首相が続投させる考えを繰り返す中での突然の、そして釈然としない辞任劇である」とした上で、「閣僚を辞することで疑惑に幕を引くことは許されない」と主張。産経は「閣僚を辞任しても、説明責任は果たされていない。自身、『調査は途上だ』とも述べている。道路工事をめぐる建設会社と都市再生機構などへの口利きの有無や、現金の授受や過剰な接待の趣旨についても明らかにしなくてはならない」と指摘した。

 大臣室での現金授受にも衝撃が広がった。福島民報は「現金入りの袋は菓子折りとともに紙袋に入っていたという。今どき、まだこんなことが行われていたのか、と驚く。高潔さを求められる政治家として倫理的に認められる行為ではない」。山陽は「国政の中枢の大臣室で、こうした怪しさが伴う現金の授受が当たり前のように行われていたとすれば、驚くしかない」とした。

 秘書の監督責任を強調しての辞任について、河北は「自らの違法性は否定し、秘書については不明をわびる。閣僚辞任という形を整えつつ、秘書に不始末の責任を押し付けた印象を拭えない」とした。

 高知も「一連の疑惑について、甘利氏は政治家としての『美学や生きざまに反する』と述べて辞意を表明した。そんな『きれいごと』で幕引きするわけにはいかない」と疑問を呈した。西日本は「秘書は国費で給与が賄われる公設秘書だ。甘利氏が監督責任に言及するなら、議員辞職にも値する背信行為ではないか」と指弾した。

首相の認識を問う

 安倍首相の責任を問う論調も多かった。

 毎日は「『政治とカネ』をめぐる閣僚辞任は第2次安倍内閣発足から4人目だ。安倍晋三首相は甘利氏の続投を容認するような答弁をしていたが、これでは事態の認識が問われる。首相の責任は重大である」と強調した。

 北海道は「首相は甘利氏辞任について『任命責任は私にある。国民に深くおわびしたい』と述べた。だが、ことは政治への信頼の問題である。言葉だけでは国民は納得しまい」と論じた。

経済・農業政策に懸念も

 日本経済や農業政策への影響に言及した社説も目立った。

 読売は「農業の市場開放などでフロマン米通商代表部(USTR)代表と渡り合い、昨年10月の大筋合意に貢献した。それだけに、甘利氏の辞任は安倍政権の重大な危機と言える。第2次内閣以降、小渕優子経済産業相ら3閣僚が『政治とカネ』の問題で辞任しているが、今回の影響は格段に大きい」と指摘した。宮崎日日は「大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)交渉では先頭に立っていただけに、詳しい内容と今後の展望を知りたい本県の農業関係者らにとっては戸惑いが広がっている」と懸念を示した。日経は「世界経済の先行きが不透明なさなか、アベノミクスの司令塔である経財相の役割はきわめて大きい。後任の石原伸晃氏はよほどの覚悟で臨まねばならない。閣僚交代が日本経済のブレーキにならないようにしてもらいたい」と注文した。

 今後の疑惑解明について、中日・東京は「いまだに政治はカネで動かされているのか、国民の疑念は募る。国会は関係者を証人や参考人として呼び、徹底的に究明すべきだ」と主張した。山梨日日は「甘利氏は公式サイトで、先祖は武田信玄の親戚で武田二十四将の重臣、甘利虎泰だと記している。戦国無敵と言われた武田軍で、常に先陣を切った猛将である。潔くも見える甘利氏の辞任劇だが、これで一件落着とすることはできない」と戦国武将になぞらえ、真相究明を訴えた。(審査室)

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