2016年 5月10日
司法の揺れに懸念も

住民の不安に応える対策を

 九州電力川内原発1、2号機の運転差し止めを住民らが求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は住民側の抗告を棄却した。関西電力高浜3、4号機の停止を命じた大津地裁の決定とは対照的な結果となった。宮崎支部は、福島第一原発事故後に原子力規制委員会が定めた新規制基準について、最新の科学的、技術的知見を踏まえていると評価。新規制基準そのものに疑問を呈した大津地裁とは大きく判断が分かれた。今後も各地で、住民らによる運転差し止めの仮処分の申し立てが続くとみられるが、司法はどのような判断を下すのか。宮崎支部が抗告を棄却した4月上旬の各紙の社説を点検してみた。

現実的な判断

 高裁宮崎支部が新規制基準について最新の科学的、技術的知見に基づくとしたことに、読売は「伊方原発訴訟で、専門的知見に基づく行政の判断を尊重した1992年の最高裁判決に沿った考え方だ」と評価。原発の安全性の判断で社会通念を重視していることに注目し、「安全確保には限界があることを踏まえた極めて現実的な判断」と指摘した。

 産経は「高裁が示した判断は今後、新規制基準を評価する一定の指針となろう」と前向きに評価したうえで、新規制基準や規制委の判断に対する評価が「裁判所や裁判官によってこれほどばらばらである現状を正常といえるのか」と批判。「最高裁は、国のエネルギー政策や温暖化対策も揺るがす司法の混乱を収めるべく、改めて明確な見解を再提示する必要があるのではないか」と問題提起した。

 各裁判所の司法判断が食い違っていることについて北國は「新基準の合理性や施設の耐震性といった、優れて高度な専門領域に踏み込んで正しい判断を下すのはかなり難しい」と、高度な専門領域で司法判断を下すことの限界を指摘した。司法判断によって原発政策が揺れ動くことに対し、県民福井は「司法のさじ加減で、原発が動いたり止まったりすれば、広義のリスクが高まる」と懸念を示した。

 原発の新規制基準に不合理な点はないとした宮崎支部の判断だが、毎日は「過酷事故に備えた住民の避難計画や火山対策に対する同支部の判断には疑問が残る」として、事故時の避難計画がきわめて重要であることを指摘した。そのうえで、「(避難計画策定は)新規制基準に基づく規制委の安全審査の対象ではない。計画に実効性を持たせるには、避難計画も審査対象とすべきだ」と主張する。

 宮崎支部は、避難計画がないわけではないとして、住民の人格権の侵害には当たらないとした。しかし、周辺に桜島などの火山がある川内原発の避難計画の不十分さについて、朝日は「福島の事故では、多くの住民がスムーズに避難できずに混乱に陥った。その現実を十分に考慮した結論とは思えない」と批判。佐賀は玄海原発を引き合いに出して、「住民への避難場所の周知や、原発5~30キロ圏住民への安定ヨウ素剤の配布手順など、福島の原発事故から5年たつが、やるべきことができていないのが現状だ」と厳しく指摘した。

噴火の検証に疑問符

 もう一つの大きな争点だった火山対策について、京都は「原発の運用期間中に破局的な噴火が起きる根拠は薄いとして新規制基準を追認した形だが、住民の不安は到底払拭(ふっしょく)できない」と批判。中日・東京も「巨大火山と共生する住民の不安には、まったくこたえていないと言っていい」と問題にした。

 川内原発周辺の破局的噴火について低頻度とみなされたことには、高知が「噴火の時期や規模を的確に予測することは、現在の火山学では困難ともされる」「低頻度と断じる姿勢には東日本大震災の教訓からも違和感が残る」と指摘。愛媛も「『想定外』の自然災害が福島の事故をもたらした教訓を、あらためて見つめ直す必要がある」と強調した。神奈川は「住民側が提起した、各地の原発で観測された基準地震動を超える揺れや巨大噴火が近い将来起こる可能性について、詳細な検証がなされたのかどうか」と疑問を呈している。

 三権分立が原発再稼働の壁になっているとの声に対し、福井は「(立ちはだかるのは)5年たっても収束しない福島の過酷な現状とさらに高まる災害リスクではないか」と訴える。南日本は「(運転)差し止めの訴えが却下されたからといって、安全が確保されたわけではない。電力会社や国などは『再稼働ありき』に走らず、住民の不安や疑問に向き合うべきだ」と主張。西日本は「今回の決定で住民の原発に対する不安が解消されたわけではない。九電は今後も真摯(しんし)な姿勢で原発の安全対策に取り組むべきだ」とクギを刺した。(審査室)

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