2017年 4月4日
業界の過重労働改善を

利用者に意識変革を促す

 インターネット通販の普及に伴う取り扱い貨物の急増とドライバーなどの深刻な人手不足によって、宅配業界がサービスの抜本的な見直しを迫られている。最大手のヤマト運輸は宅配の取扱総量の抑制と、27年ぶりとなる宅配料金の全面的な値上げに取り組む。配送時間帯指定を見直すほか、全体の2割を占めるとされる再配達の有料化の可能性も検討し始めた。同業他社も料金見直しなどに動いている。

 社会的なインフラとして定着している宅配サービスの大幅見直しは、ネット通販をはじめとする関係業界のあり方を変えるとともに、利用者の意識や生活のあり方にも影響を与えそうだ。長時間労働の常態化という日本のサービス業に共通した問題に対して、改善への大きなきっかけにもなる。ヤマトの動きを受けて3月に各紙に掲載された社説を点検してみた。

仕事減「異例の要求」

 宅配業界の現状について、中日・東京は「いつでも欲しいものが注文一つで玄関先まで届く。食料や日用品、書籍にスキー板...」「そんな便利な日常を支えている運送や配達の現場では、長時間労働が常態化している。昼食もとれない、残業でもさばききれない。これはどこかがおかしいのではないか」と疑問を呈する。

 ヤマトの労使は貨物量の抑制に向けた取り組みに合意したが、中国は「賃上げではなく、仕事減らしという異例の要求である。現場がいかに深刻であるかをうかがわせる」と指摘。朝日は、サービス残業が常態化していたとされるヤマトについて「働き手へのしわ寄せがあったのなら、大きな問題だ」と批判し、「ただちに改め、再発防止に取り組むべきだ」と訴えた。

 宅配便貨物の年間取扱個数は昨年、38億個を超え、このうちヤマトのシェアが5割近い。最大手の同社は近年、取扱個数が過去最高を更新し続けているが、こうした状況について南日本は「ライバルの佐川急便が企業間の荷物に注力し、日本郵便は手紙などと一緒に運べるのに比べ、非効率感は否めない」とも指摘する。

 宅配業界の構造的な問題について、読売は「デジタル社会の進展で注文方法が格段に便利になっても、配達現場は、あくまで人の手で品物を届けるアナログの世界である」とした上で、「宅配便を今後も続けるには、適正価格を反映したサービスへの転換が求められる」と主張する。通販業界に対しても「料金値上げに応じるなど一定のコストを負担せねばなるまい」と注文を付けた。

 今後、宅配業界は実態に即した料金値上げやサービス多様化を迫られる。産経は「度重なる再配達には、一定の手数料の徴収なども検討に値する」と指摘。また、これまでの発想を変えて、「配達時間を指定せず、1回で受け取った人にはポイント付与で優遇するなど、料金メニューの多様化にも工夫を凝らしたい」と訴える。

企業間の連携も提案

 このほかにも宅配業界の人手不足や長時間労働の改善に向けた前向きな提案が相次いだ。日経は「企業間連携も一段と進めたい。異なる宅配便会社が共同で配達したり、駅やマンションに受け取り用のロッカーをもっと設けたりすれば、利用者にも便利になる」と指摘。「人手不足を物流のイノベーションにつなげたい」と主張する。宅配ボックスは首都圏、関西など大都市圏の駅やマンションで利用が広がりつつあるが、デーリー東北は「ボックスの大きさ、施錠の仕方など規格を統一しなければならず、利用を拡大するには課題もある」と一段の努力を求めた。

 福井は宅配各社の各地での取り組みに触れ、「岩手県ではバス会社と連携し、路線バスを利用して宅配物を運ぶ『貨客混載便』を運行。また新潟県の第三セクター鉄道会社や都心の地下鉄会社と協力して、乗客と一緒に宅配物を運ぶ『貨客混載列車』の試験運転も行っている」とモデルとなりそうな具体例を紹介している。配達だけでなく物流全般の効率化について、北日本は「荷物の仕分けにIT(情報技術)やAI(人工知能)、ロボットなどを活用することも有効」と指摘した。

 宅配業界の新たな取り組みを求める一方で、便利さを当たり前と考えがちな利用者自身に意識変革を求める声も多い。毎日は「だれかに過重な負担を強いて提供されるサービスは長続きできない」「業界や通販会社が持続可能な宅配のあり方に取り組むだけでなく、便利さの恩恵を受ける利用者の意識の転換も必要だろう」と強調する。静岡は「配達時間内に帰宅できそうもない場合には、あらかじめコンビニ店受け取りにしておくなど、消費者側も再配達を減らす工夫ができることを認識しておきたい」と、利用者一人一人の心掛けが重要であることを訴えた。(審査室)

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