2008年 6月10日
地域で奮闘する医師を描く

岐阜「命をつなぐ」

「元気」をくれる連載である。昨年十二月末日から始まり、第一部『明日へ』(八回)、第二部『患者』(九回)は医師や患者の姿を通して岐阜の医療現場を浮き彫りにする。

地域に密着して奮闘する医師がいる。高山市丹生川町にある診療所の所長は自らハンドルを握り、広大な山村を看護師と車で走り回る。患者の九割は高齢者。「背景にある『家族』を見たい」と往診を続ける。関市の洞戸診療所は地区唯一の医療機関。自らも胃がんで入院を体験し、「医療は科学だけではない」と再認識した所長は、医師と患者が互いに理解し合いながら病気と向き合う医療の実現を目指す。

症状に適した病院を選ぶのに苦労する患者にとって、橋渡し役を務めてくれる町医者の存在は貴重だ。岐阜市の開業医もその一人。大学病院の勤務医時代は専門性を高めることに力を注いだが、今は子どもからお年寄りまであらゆる患者を診る。県立下呂温泉病院では、明日の地域医療を担う研修医たちが「患者が暮らす地域環境を見ることの大切さ」を学ぶ。

能動的な患者も登場する。高山市で農業一筋六十年の男性は胃がんを克服した。「畑で汗を流すのが生きがい」。農業という居場所があることが手術後の健康回復に役立った、と医者は言う。乳がんを体験した中津川市の女性は患者の会の県支部を立ち上げ、検診の重要性を訴えて街頭に立つ。

連載は夜間救急の急増で「眠れない小児科」や後任所長が見つからずに閉鎖した診療所など厳しい現実も描く。だが、それだけを伝えればいいのか。取材班キャップを務める報道部・小森孝美記者は「志を持って頑張っている医師がいることを知ってほしい。患者も受け身ではなく、考え、行動する患者になってほしい」と語る。そんな取材陣の思いを込めて、第三部は最新医療を追う予定だ。(審査室)

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