2011年 2月15日
時過ぐれば実らず

信毎「勧農鳥(ホトトギス)の憂い―農再生へ 自由化時代」

勧農鳥はホトトギスの異名。田植え期に響くさえずりを「田を作らば作れ 時過ぐれば実らず」と聞き、農業を奨励する鳥としたのが由来だ。その農業は今、環太平洋連携協定(TPP)に象徴される貿易自由化の波に直面している。「『時』が過ぎて手遅れになる前に、今後も『実り』を続けていく方法を長野県内の農業の現場に寄り添って考えたい」という社会面企画を新年から連載中だ。

第1部「木島平の葛藤」は、コメの香港輸出を始めた新潟県境の人口約5300人の村。PRに出かけた青年は関税ゼロの香港で、米国米が日本米の半値、タイ米や中国米はその3分の1という圧倒的な価格差に驚く。日本の他県産米との競争も激しい。関税撤廃後の日本の姿を垣間見て「今のままでは駄目だ」と思う。

村は以前から減農薬栽培に取り組んでいるが、高品質なコメ作りには時間がかかる。農家にはTPP論議のスピードは速すぎる。一方で「いつまでも自由化をやり過ごせるのか」と、絶対反対の農協に疑問の声も出る。

第2部「中山間地の現実」は、山里の農業の厳しい実態に焦点を当てた。広い農地が確保できない地域にとって「希望の星」だった野菜の種栽培も、農家の高齢化などで衰退する一方だ。栽培を中国の農家に委託する試みを始めた採種場社長は、中国の活気と日本の衰退を身にしみて感じる。ただ狭い棚田や牧場をよりどころとし、「風土に沿った農業」を追求することで希望をつなぎ留めようとする人々も存在する。

「時代の流れで自由化は避けられないとしても、強い農業だけ考えた論議ではだめ。農業の多種多様な側面を踏まえた上で、その将来像を考えていきたい」と報道部の中谷圭治次長。稲田俊、東条勝洋、熊谷直彦、松田望記者らが担当。6月末まで続く。(審査室)

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