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2011年 5月24日
凄まじい競争と向上心が土台

北國「風景 工芸王国」 

加賀友禅、九谷焼、輪島塗―。石川県は「工芸王国」だ。3人の芸術院会員と9人の人間国宝。計12人は京都府の13人に次ぐ。なぜ巨匠を輩出できるのか? ともすれば「加賀百万石、前田家以来の伝統」で済まされがちな分厚い工芸の土壌を改めて見つめ直すロングラン企画だ。

元日に第1部「巨匠たちの素顔」をスタート。これまでに第2部「流れは脈々と」、第3部「すそ野は広く」、第4部「苦難を乗り越え」の合計68回を連載した。

金沢の邦楽家杵屋喜澄(きねやきすみ)さんは、ちょっとした集まりにも加賀友禅の帯を締めて出掛ける。直せば半永久的に使える輪島塗は「人間より寿命が長い」と塗り職人の川嶋竹夫さん。切磋琢磨(せっさたくま)する職人、さりげなく工芸品を使う市井の人々を丹念に追う。

芸術院の新会員は、会員の投票で選ばれる。候補者は、「1票」のため会員へのあいさつ回りが欠かせない。東京にアパートを借りて拠点とし、手土産には輪島塗を用意する。中傷文が出回ったことさえある。だが、こうした確執に満ちた人間ドラマを否定的に紹介するのではなく、その凄まじい競争と向上心こそが、工芸王国を支える土台だ、と見る。

2007年の能登半島地震、08年のリーマンショック以降の経済の低迷で、09年度の県内工芸品36品目の総生産額はバブル景気に沸いた1990年度の3分の1に減った。海外に販路を広げ、立ち直りかけた矢先の東日本大震災。消費の先細り、後継者不足。悩みは尽きない。

「厳しい競争の中で上をめざす仕組みがあるから、工芸王国が発展してきたことを地元の人にも知ってほしい」と高見俊也編集局次長・文化部長。今月12日から第5部「結集軸として」が始まった。シリーズを通して文化部の宮下岳丈、社会部の宮本南吉両記者が担当。(審査室)

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