2008年 7月15日
国に政策転換を迫る

国営諫早湾干拓事業で有明海の漁場環境が悪化したとして、福岡、佐賀、長崎、熊本四県の漁業者ら約二千五百人が堤防撤去や常時開門を求めた訴訟で佐賀地裁は六月二十七日、中長期調査のため堤防の排水門を五年間常時開放するよう国に命じた。三十本の社・論説の大半が判決を評価し開門調査を求めた。国は十日に控訴、一方で開門した場合の影響を調べる環境アセスメント実施を表明した。

国の不誠実さ厳しく非難

〈画期的判決〉佐賀「判決は国の巨大公共プロジェクトがもたらす環境問題を解決するための指針、手順を道理を尽くして示した歴史的なものとなった。(略)漁業環境の悪化と干拓事業の因果関係を究明せよという今回の判決の意図をくみとり、国は速やかな対策を取るべきである」、熊本「環境悪化への因果関係がある程度推認されるなら、開門して調査すべきだ―とした今回の判決は、国に施策の転換を迫っており、その点で画期的と言える。国は判決を重く受け止めるべきだろう」、中日・東京「水門を中長期にわたって開く調査に国が応じていない。これについて、判決文には『(原告の)被害の立証を妨害するもの』という言葉がついた。司法が不誠実さを厳しく非難したことに、国は真正面から応えるべきだ」、神戸「『判決を契機に、速やかに開門調査が実施され、適切な施策が講じられることを願ってやまない』との付言も異例で、国の対応へのいらだちすら透けて見える」、西日本「先送りは問題を難しくするばかりだ。結局、早くやっておけばとなる。なのに国はまだ先延ばししようとするのか」。

〈営農に支障〉長崎「農水省をはじめ本県や干拓農地の入植者らにとっては、予想もしなかった衝撃的な判決だ。調査準備のために三年間は開門が猶予されるとしても、その後五年間にわたり排水門が開けられるとすれば、本格的にスタートしたばかりの営農そのものに大きな影響を及ぼすことは避けられないだろう。特に心配されるのが干拓地にある農業用水への影響だ。農業用水は調整池からの取水で賄っているが、開門された場合、調整池への海水の流入によって深刻な塩害が発生する恐れはないのだろうか」、読売「実際に調査する場合、地域の防災や干拓事業そのものに、かなりの影響が避けられない。漁業被害の調査が、他の地域住民に被害を与えてはなるまい。(略)開門で、新たな環境被害が生じる恐れもある。たまったヘドロが排水門から諫早湾に流れ出し、海水を汚すとの懸念だ。こうした現実を考えれば、開門調査のハードルは極めて高い。少なくとも、地元自治体を含む地域住民の合意は大前提だろう」。

〈工夫こらせ〉琉球「確かに、開門した場合、海水が調整池に流れ込んで干拓地の営農に支障が出かねない。入植者が最も心配するところだ。それでも、判決は『漁業行使権の侵害に優越する公共性や公益があるとは言い難い』と指摘した。農業用水を確保する手段はほかにもあるはずだし、適切な施策を考えよ、ということであろう」、下野・岐阜・日本海など「注目されるのは、潮受け堤防の排水門を常時開放するまでに『判決確定から三年』の期限を置いたことだ。(略)国側が受け入れられるような和解案を示し、具体的解決を目指した判決だといえるだろう。佐賀地裁が行った工夫の趣旨をくみ、国が大胆な政策転換に踏み切ることを期待したい」、中国「一度スタートさせた公共事業を方向転換するのは容易ではあるまい。しかし、島根、鳥取両県にまたがる中海の干拓・淡水化事業の例がある。農業や水産、環境など多角的に干拓の影響を調べて、〇二年に中止することを決めた。結果はともかく、きちんと調査した上で判断する方法は参考になるのではないか」。

何が何でも続けるでなく

〈事業に警鐘〉朝日「諫早湾干拓事業は、文部科学省の外郭団体が科学技術分野における重大な『失敗百選』に選んでいる。なにしろ干拓に2533億円の巨費をかけながら、将来の農業生産額は2%にも満たない年間45億円である。無駄な巨大公共事業の典型である。すでに完成した公共事業も必要なら大胆に見直す。そんな時代が来たことを農水省は肝に銘じてほしい」、毎日「何が何でも続けるということは、ニーズにそぐわないものを作ることである。財政的には無駄な歳出を重ねることになる。経済社会面からのアセスメントが欠如していたことの結果だ。一方、漁業者らが問題にしている環境アセスメントも全く不十分と言わざるを得ない。(略)諫早干拓は二つのアセスを怠った典型例である」、日経「一度着工すると見直しを拒み、国が果たすべき役割をおろそかにする点は、他の大規模公共事業にも通じる問題だ。(略)今回の判決は公共事業に対する国のかたくなな姿勢への警鐘でもあると受け止めたい」。(審査室)

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