2008年 10月14日
危機連鎖を防げるか

最大七千億ドル(約七十五兆円)の公的資金で金融機関から不良資産を買い取ることを柱とする米の金融安定化法が三日、成立した。同日、米下院が上院を通過した法案を賛成多数で可決、ブッシュ大統領が即日署名した。下院は法案をいったん否決したが、上院が預金者保護の充実など修正を加えたため可決に転じた。米国発の金融危機を封じ込める対策がようやく動き出すが、実効性が不透明な上、実体経済の悪化が進むとの懸念から、法の成立後も世界的に株価が急落するなど楽観できない情勢だ。金融安定化法成立と世界株安を論じた八十本を超す社・論説から。

不良資産処理、迅速に

〈一歩前進〉信毎「世界が注視する中での法案審議だった。『マネーゲームに走ったウォール街の連中を救済するのか』といった批判を浴びて、法案はいったんは否決されている。今度も否決されたら世界経済に深刻な影響が及びかねなかった。可決・成立は朗報だ」、読売「危機の回避に向け、一歩前進といえよう。下院が2度目で可決できたのは、法案を修正し、預金者保護の充実や、税の優遇措置の延長などを追加したことによる。これで公的資金投入に反対していた議員の多くが賛成に回った。(略)財政への悪影響が懸念されるが、金融危機回避には、やむを得まい」、山陽「米政府は四十五日以内に具体的な指針を策定し、サブプライム関連の証券化商品など不良資産の金融機関からの買い取りを、年内にも始める見通しだ。今後の焦点は、不良資産の処理がいかに迅速に進むかに移ってきたといえよう」、日経「米国の金融システムを立て直すための抜本的な対応策がようやくスタート地点に立つ。重要なのはスピードである。法律だけできても、対策の柱である不良資産の買い取りが進まなければ意味がない。目に見えた成果が早期に出るよう、米国の政策当局は全力をあげてほしい」。

〈追加対策を〉京都「最大の課題は、不良債権の買い取り価格をどう決めるかだ。土地などに比べて、証券化商品を評価するのは難しい。高すぎれば国民負担が膨らみ、安いと損失が拡大する金融機関が売却に尻込みするジレンマが残る。(略)一時国有化など政府主導の思い切った手法が必要な局面もありそうだ」、産経「不良資産の買い取りは、将来の国民負担を考えて簿価より低い価格で購入せざるをえない。その場合、金融機関は多額の損失計上を余儀なくされる。(略)買い取り後の資本不足を補ってやる必要がある。いずれ抜本的な公的資金による資本注入は避けられまい」、西日本「(金融機関の)経営不安が強まったいまとなっては、増資などの自助努力には限りがあろう。ここでも、やはり政府が、反発はあっても金融機関に公的資金を投入することが欠かせないのではないか。米政府は追加対策の検討に、すぐに着手すべきである」。

 

〈実体経済も悪化〉毎日「(危機は)実体経済にも波及している。米国の景気指標は、雇用や企業の景況感をはじめ軒並み急激に悪化しており、すでに景気後退局面に入ったとの見方も支配的になってきた。悪循環がどんどん進み、長期にわたって深刻な不況が続くという事態は何としても防がねばならない」、中日・東京「(米国では)危機の深まりとともに、雇用が落ち込み、実体経済も急速に悪化し始めた。それがまた住宅価格の下落を招くかもしれない。金融と景気の悪循環スパイラルが進む中、時間との競争でもある」、北海道「米国発の金融危機は欧州にも飛び火し、金融機関の国有化や再編が相次いでいる。この問題の処理が長引けば、影響は金融の世界にとどまらない。日本を含め景気が後退局面入りしている各国の経済をより悪化させることにもなるだろう」。

日本も悪影響を抑えよ

〈世界株安〉中国「米ニューヨーク市場の平均株価が一万ドル割れしたのを受け、きのう(七日)の東京市場の日経平均株価も一時一万円の大台を割り込んだ。欧州、アジア市場の株価も総崩れの様相だ。(略)不安の連鎖をどう防ぎ、歯止めをかけるか。グローバル化した世界経済が直面するかつてない危機だ」、神戸「株急落に加え、外為市場では対ドルや対ユーロで円の独歩高が進んでおり、輸出への打撃や景気後退の加速が憂慮される状況だ。その打開には、まず米国や欧州が断固たる行動をとる必要がある。日本も悪影響を最小限に抑えねばならない」、朝日「株安は金融不安が極度に高まったことを示している。(略)危機に直面している欧米諸国が、まず金融システムを守り、貸し渋りを防いで、金融収縮と景気後退の複合を食い止める。そのために公的資金の投入へ大胆に踏み出す―。これがいま最優先で取り組むべきことだ」。(審査室)

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