2009年 7月28日
大きく変わる生と死

改正臓器移植法成立をめぐる社説
課題克服へ議論継続を

「脳死は人の死」を前提とする改正臓器移植法(A案)が13日、参院本会議で可決、成立した。本人の生前の意思が不明でも家族の同意で臓器提供できるようになり、15歳未満の子どもの臓器提供も可能になる。参院では「脳死は人の死」を臓器移植の場合に限ることを明記した修正A案と子ども脳死臨調設置法案も提出されたが、衆院と同様にA案が採択された。日本の移植医療を大きく変える法改正を38本の社・論説が取り上げた。

解散含みで駆け足採決に

《歓迎》産経「『脳死は人の死』を前提とし、遺族の同意で脳死者から臓器提供が可能になり、移植の条件が大幅に緩和される。歓迎したい。A案は1年後に施行され、ドナー(臓器提供者)が増える。これに十分対応できる態勢づくりを急がなければならない」、読売「移植医療は海外に頼ることなく国内で完結させるべきだ、との判断を多くの国会議員が共有したのだろう。(略)解散・総選挙が近づく中で、慌ただしく採決された印象は否めない。だが、ぎりぎりの政治日程をにらみつつ、臓器移植問題は結論を先送りできない、という切実な思いが強かったと見るべきだ」、日経「国内での脳死臓器移植は現行法が施行されてから12年間で81例にとどまる。国内で移植手術を受けられず渡航移植に踏み切る患者があとを絶たない。特に子どもの患者は事実上、渡航移植しか道がなかった。(略)国内での臓器提供を増やし渡航移植をなくしていく改正だといえる」。

《拙速》毎日「本来なら、腰を落ち着け、これまでの事例や法改正による影響を、細部まで検討した上で結論を出すべきだった。にもかかわらず、衆参両院での審議は駆け足だった。人の命にかかわる法律として、拙速との印象がぬぐえない」、中日・東京「総じて現行法がドナー側に軸足を置くのに対し、改正法は移植を受ける側に立つといえる。衆参を通し、合わせて六案の改正案が提出された。倫理観、死生観が絡む問題だけに意見が多様に分かれることを示しているが、(略)意見の収斂(しゅうれん)を図る努力は見られなかった」、信毎「改正法は『新法』に近い。生と死のあり方が大きく変わる。慎重に審議して、社会的合意を得るよう、私たちは求めてきた。けれど、衆院の解散含みの政局で、衆参両院とも生煮えの審議のまま、法案を通してしまった。残念でならない」。

《懸念》朝日「最大の懸念は『脳死は人の死』が前提とされていることだ。審議では、臓器移植の際に限られるとされたが、改正法に、それを明言した記述はない。この『死の定義』が移植を離れて独り歩きし、終末医療の現場などに混乱を招くおそれもある。政府は法の運用にあたって、この定義が移植の場合に限られることを明確にすべきだ」、静岡・長崎など「今回の改正は提供臓器を増やすことを目標にしたため、提供に迷う人々の権利がおろそかになる危険をはらんでいる。(略)脳死判定と臓器提供はあくまでも、死にゆく人の思いを代弁する家族の自発的意思によるべきで、決して強要や誘導があってはならない」、秋田「子どもの回復力は大人に比べて強く、脳死判定はより難しいとされる。虐待で脳死になった子どもの臓器提供をどう防ぐのかという問題が指摘されるなど、(年齢制限)撤廃に対し慎重な見方が多かった。小児に関する脳死判定基準は、あらためて入念に検討する必要がある」。

脳死判定、提供者の意思は

《課題》神奈川「国会審議を通してドナー(臓器提供者)の意思確認や子どもの脳死判定のあり方、救急医療現場の体制などに課題があることも分かった。脳死状態のドナーからの臓器提供は死生観が絡む難しい問題である。改正法の運用に際しては、浮かび上がった課題への慎重な対処と改善に向けた不断の取り組みが求められる」、神戸「脳死の取り扱いや提供者の意思、代理承諾といった問題は、引き続き議論を重ねるべきテーマだ。駆け込み採決のほころびがのぞけば、早期の法の修正もためらうべきではない」、愛媛「今後は臓器提供の判断をするうえで家族の負担がより重くなる。家族の心情を支える体制づくりや、移植コーディネーターの質の向上、人員拡充も求められよう」、中国「施行は1年後になる。具体的な手順や指針づくりの舞台は、厚労省に移る。国民の合意を得るためにも、幅広い議論を求めたい。透明性も大切だ。そのプロセスで問題点が見つかれば、柔軟に対応すべきである」、西日本「A案は国内の移植数を増やすのに最も有効な改正案とされた。だが、ルールを改めただけで変わるのか。十分とは言い難い国会の論議でも移植医療を進めるための条件整備が遅れていると感じた。(略)制度ができても国民の理解がなければ実効は上がらない。片付けるべき宿題を国会はまだまだ残した」。(審査室)

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