2009年 11月10日
理念満載だが不透明

鳩山所信表明と代表質問をめぐる社説
与党質問見送りは疑問

鳩山由紀夫首相は10月26日召集された臨時国会で、就任後初の所信表明演説を行い、変革を強調した。28日から30日までの代表質問は、野党となった自民党が谷垣禎一総裁を先頭に臨んだが、論議はかみ合わない場面が多かった。衆院本会議では、与党の民主党が政府側に質問しないという異例の展開となった。所信表明と代表質問、それに続く予算委論戦を、100本を超す社・論説が取り上げた。

財源確保は果たせるのか

《道筋ない演説》読売「鳩山政治の『理念』満載である。(略)しかし、理念は、法案や政策として具現化されねばならない。今国会で、鳩山内閣は、その用意がどこまであるのか。子ども手当やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路無料化などの家計支援によって『人間のための経済』への転換を図ると言われても、首をかしげざるをえない。問題は財源をどう確保するかだ」、高知「一つ一つの方向性には共感できる部分も多い。だがそれらを実現する道筋は、依然として不透明感がぬぐえない。なぜだろうか。旧長期政権下で硬直した財政構造を抜本的に改革しようとすれば、それに伴う『痛み』や、国民も分かち合うべき『負担』も生じるはずだ。首相の所信表明には、その問いに対する答えが欠けている」、中日・東京「首相の意気込みは、近年の歴代首相の約二倍に当たる一万三千字近い字数、五十分を超える所要時間からもうかがえる。演説は全体に聞きやすく、政治理念を訴える力に満ちたものだった。ただ、理念を掲げれば、政策が実現できるというものでもない」、琉球「沖縄に関する言及は少なく、自公政権下の所信演説との明確な違いが見られない。普天間の移設先について言明はなく、『沖縄の方々が背負ってこられた負担、苦しみや悲しみに十分に思いをいたし、地元の思いをしっかり受け止めながら、真剣に取り組む』と述べるにとどめた」。

《物足りぬ答弁》北海道「本年度補正予算の見直しに関し、谷垣氏は特定事業を無駄と判断する基準を示すよう迫った。首相は『国民にとって本当に必要なものか見極める』と答えるにとどまった。これでは分からない。聞きたいのは見極めの際の基準である」、毎日「鳩山政権発足以来、既に40日以上。いつまでも前政権批判にとどまっているわけにはいかない。マニフェスト政策実現のための財源に関しても『一般会計と特別会計を含め予算を組み替え、財源は必ず確保する』と言い続けるだけでは、やはり限界がある」、日経「谷垣氏は沖縄県の米軍普天間基地の移転問題やインド洋での給油活動停止にも時間を割き、『日米同盟の弱体化につながりかねない』と懸念を示した。首相は『真剣かつ慎重に検討していく』と強調したが、代案がないまま結論を先送りするような手法は外交上避けるべきだ」、京都「天下り禁止を掲げながら、元大蔵事務次官を起用した日本郵政の社長人事についても、答弁は要領を得ない。自民・西村康稔氏の質問に対し、首相は『適材適所』と答えた。昨年『適材適所』を理由に福田政権が示した元財務、大蔵次官の日銀総裁起用を不同意としたこととつじつまが合わない」、山陽「首相の偽装献金問題で納得できる説明を求めたことに対しても『捜査に全面協力するよう指示した』などと述べるにとどまった」。

国民への重要な発信の場

《深い論議期待》北日本「委員会審議は一問一答式の真剣勝負である。質問、答弁ともに政治家としての力量が試される。この点では、初日の衆院予算委を見る限り、互いに手元の資料をなぞってやり取りする姿はあまり見られなかったようだ。丁々発止のやり取りは、委員会に緊張感を生んでいたように思われる」、産経「民主党は衆院で代表質問を見送った。『政府・与党は一元化し、質問は必要ない』という判断のようだ。(略)『国の唯一の立法機関』(憲法41条)の役割を自ら否定することにならないか。国権の最高機関にふさわしい与野党の真摯(しんし)で活発な論戦を国民は期待している」、朝日「政府の政策の誤りや矛盾、あいまいさを指摘し、問題点を突くのは野党の大切な役割だ。そこに有権者の期待がある。ただ同時に、自民党が再び政権を握ればどうするのかも聞きたい。この点で、明確なメッセージが感じられないのだ」、新潟「互いに言いっぱなし、似たような話の繰り返しで終わってはならない。臨時国会は短いが、政策論議を深く掘り下げてほしい。多様な意見をオープンにぶつけ合うことで鳩山内閣の針路が明確になる。与野党にとって国民への最も重要な発信の場が国会であると再確認したい。国会論戦もまた旧来の枠にとらわれず変わる必要がある」。(審査室)

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