2009年 12月15日
戦略・指導力なく迷走

緊急経済対策をめぐる社説
規模先行、与党内に乱れ

第2次補正予算案に盛り込む緊急経済対策が8日、閣議決定された。政府が当初、2.7兆円程度に抑える考えだった財政支出は7.2兆円となり、建設国債も増発することになった。融資枠などを含む事業規模は24.4兆円。デフレに加え、11月27日には一時、14年ぶりの1ドル=84円台まで進んだ円高に対応し、日銀は12月1日に追加金融緩和策を打ち出していた。財源問題で連立与党の調整遅れが目立った緊急経済対策決定を、47本の社・論説が取り上げた。

デフレ、円高への対応遅れ

《中身の評価》読売「今回、公共事業として、都市の緑化、橋の補修、電線地中化などが盛り込まれた。だが、景気対策に即効性が期待できる公共事業を第1次補正から一度削り、今度は戻すのでは、その間の時間が無駄になっただけではないか。(略)今回の予算再配分先がよほど効率の高い事業でないと、『内閣発足直後の凍結作業は何だったのか』という批判も出かねない」、中日・東京「中身をみると、自民党時代のように相変わらず政府系金融機関や独立行政法人を使った手法が目立つ。たとえば住宅金融支援機構の住宅ローン金利を1%下げる措置を盛り込んだが、この独立行政法人が実施しているローン業務は民間と競合している。行政刷新会議の事業仕分けで見直しを指摘された団体ではないか」、西日本「少ない予算で最大限の効果を生む。追加経済対策は、規模ではなく、その知恵を競うものだったはずだ。雇用対策や中小企業支援などは必要だが、官から民へと経済の主役をバトンタッチしていかなければ日本経済再生はない」、日経「今回の対策は応急策に加え、規制改革など中長期の成長を促す政策を柱の一つに据えた。民主党政権が成長戦略を重視し始めた点は評価したい。意気込みを生かすためにも、強力な成長策を着実に具体化して、企業や家計の投資や消費を引き出さねばならない」。

《財政と連立》河北「鳩山政権は来年度予算でのマニフェスト(政権公約)実現を優先させるため、当初、歳出規模を第1次補正予算見直しで確保した2・7兆円としていた。それが政府自ら『デフレ宣言』をしながら即座に対策を打ち出せず、急激な円高に追い打ちをかけられ浮足だった。そこに国民新党に揺さぶりを掛けられ、財政規模の拡大に追い込まれた」、産経「対策の決定にあたっては、国民新党の亀井静香代表(金融相)が予算規模の上積みを求めて策定がずれ込むなど、与党内の足並みが乱れた。このため、当初の計画にはなかった建設国債の追加発行を決めた。来年度予算の編成を控え、与党内の意思疎通に問題があれば、それだけで市場心理を冷やす材料になりかねない」、新潟「議論はあっていい。しかし連立維持に軸足を置きすぎるあまり政府の腰がふらつき、指導力を発揮しきれない迷走を印象付けた。規模の大小だけにとらわれ、本当に有効な対策の追求が置き去りにされたうらみがある」、毎日「今年度の国債発行額見通しが過去最悪の53.5兆円という財政の非常事態だ。(略)あと1000億円分、国債発行を増やしても大した違いはない、との声もあろう。しかし『国債の追加発行を伴わない経済対策』との約束をあっという間に覆した事実は、今後もずるずると財政規律が緩む一方ではないかと不安にさせる」。

負担と受益めぐり討議を

《難局打開の道》朝日「需要不足を補うだけの財政出動ではなく、民間の消費と投資を引き出す知恵が必要になる。そういう工夫が乏しかったのは、たんに政権発足から時間がないためというより、中長期の成長戦略や総合デフレ対策を持たず、負担と受益のあり方などを幅広く討議する場もないことが大きな要因だろう」、山梨「来年度予算の編成作業では、日本経済を立て直すための方向性と戦略を明示することが不可欠になる。限られた財源でより効果を高めるためにも、マニフェスト(政権公約)に掲げた政策を整理し、経済効果も踏まえて優先順位を付ける必要がある。財源確保のための議論も避けることはできないだろう」、高知「必要なのは、状況に応じた的確で機動的な対応だ。このままでは『経済に弱い鳩山政権』という印象を国民に植え付け、『鳩山不況』が現実化することにもつながりかねない。財政規律も十分に踏まえ、実効性ある機敏な対応を求めたい」、神戸「結束して難局を乗り切るメッセージを発すべき場面で政権運営の司令塔不在が露呈した。国家戦略室の機能不全だけでなく、連立与党の意思決定の透明性、鳩山首相の求心力にも不安を抱かざるを得ない。いつまでも世論の寛容さに甘えてはいられない。首相は『八方美人』を脱し、指導力を発揮すべきときだ」。(審査室)

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