2010年 3月9日
批判沈静化 まだ遠く

トヨタ社長の米公聴会出席をめぐる社説
経営の「カイゼン」急げ

トヨタ自動車の豊田章男社長が2月25日(日本時間)、米下院公聴会に出席、大規模リコール(回収・無償修理)問題で謝罪するとともに再発防止を約束した。急加速の原因ではと問題視されている電子制御システムの欠陥は否定したが、議員たちからは厳しい質問が相次いだ。トヨタ批判は沈静化するのか。41本の社・論説が取り上げた。

米議員らに政治的思惑も

《率直に謝罪》西日本「安全を最優先にしてきたはずが、過去数年間の急激な業務拡大とともに、その意識や優先順位が崩れ、顧客の声を聞く姿勢がおろそかになっていた。豊田社長はこのように述べて、率直に反省と謝罪の言葉を口にした。誤りは潔く認め、再発防止に全力を尽くすことを誓う。信頼回復の第一歩である」、中日・東京「米メディアの反応をみると、トップ自らの証言はトヨタバッシングの沈静化に向けて一定の効果を上げたといえる。その意味で、豊田社長の公聴会出席は適切な判断だった」、読売「予想通り、議員から厳しく追及されたが、トップ自らが問題解決に取り組む姿勢を、米国民に直接示すことはできた。信頼回復に向けた第一歩、と受け止められたのではないか。(略)それでも、米国に渦巻くトヨタ批判が沈静化するには、なお時間がかかるだろう」。

《火種は残る》毎日「トヨタ車の安全性を覆った霧がすっきり晴れたわけではない。(略)豊田氏が苦情を把握した時期や米当局とトヨタのやりとりに関する質問などで、回答にあいまいさが残り、『欠陥隠しではないか』との不信感が払しょくされたとは言い難い」、秋田「米国には、アクセルペダルとエンジンをつなぐ電子制御システムにこそ、根本的な問題があるとの疑念がくすぶる。公聴会でも、その点ははっきりしなかった。(略)火種は残ったままなのだ。顧客の安全を預かる自動車メーカーとしては、これを一日も早く一掃しなければならない」、北海道「品質問題への対処もさることながら、公聴会で何より問われたのは経営の姿勢だったと言える。アクセルペダルの不具合で、苦情を受けながら迅速な対応がなされなかった。都合の悪い情報や欠陥を隠そうとしたからではないか―。議会の一部には疑念や不信が根強い。プリウスのブレーキ不具合では当初『感覚の問題』としていた。運転する側に原因があるかのような対応はなお悪印象を残している」、上毛・長崎など「安全性の確保が不十分だったことや対応の遅さがトヨタバッシングを加速させた。(略)豊田社長は実態把握ができないまま公聴会への出席をめぐっても迷走したようにみえる。非常事態の認識が甘いと言わざるを得ない」。

《政治ショー》北國「他のメーカーにも急加速による事故の報告があり、少なくとも11人の死者が出ている。欠陥が疑われている電子制御システムは、トヨタ側がいくら調べても問題が見つからず、ここまで一方的にたたかれる理由がいま一つ釈然としない。(略)『政治ショー』としてトヨタたたきが絵になると思われたとしても不思議はない」、中国「中間選挙を控え、議員たちが存在感をアピールする『政治ショー』の側面もあるようだ。批判の一方で、工場がある州の議員らがトヨタ擁護に回るなど、米国内も一色ではない。ただバッシングを招いた責任は米国民の不満に敏感に対応してこなかったトヨタにあろう」、産経「日米関係は基地問題などでぎくしゃくしており、今回の問題が新たな摩擦に発展することのないよう日本政府も積極的に関与すべきだ。(略)一方で、米政府と議会には、政治的な思惑を排除し、法と証拠にもとづいて冷静に対処する姿勢を求めたい」。

日本産業の信頼にも影響

《今後に課題》日経「今回の問題で『トヨタは信頼できるブランド』という米消費者の評価は揺らいだ。連邦大陪審など米司法機関も一連の経緯について関心を示しているという。議会の公聴会を無難に乗り切ったとしても、それで問題が終わるわけではない。『顧客第一』『安全第一』の原点に立ち返り、失った信頼を取り戻すための第一歩を踏み出す必要がある」、朝日「トヨタを象徴する言葉として世界に知られる『カイゼン』。安全と品質や効率向上のために現場の知恵や工夫を生かす改善運動のことである。トヨタには創業以来のこの危機を克服してもらいたい。リコールの遅れや急加速の原因を徹底究明するとともに、外の声に耳を傾ける経営への『カイゼン』が急務ではないだろうか」、神戸「トヨタの対応を世界中が見守っている。その反応は一企業にとどまらず、広く日本産業の国際評価を左右する。ひいては、日本の技術力やモノづくりの信頼にも影響するだろう。トヨタは、そのことを肝に銘じて誠実に対応し、再生への一歩にしてもらいたい」。(審査室)

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