2010年 5月18日
関心の低下を憂慮

63回目の憲法記念日の社説
今こそ議論深める時

憲法施行から63年。18日には改憲手続きを定めた国民投票法が、成立3年を経て施行された。しかし政権交代の下、憲法論議は低調で国会の憲法審査会は休眠状態だ。46本の社・論説は、関連の法整備がなされないままの投票法施行に懸念を投げかけ、憲法論議を棚上げにしている政治の怠慢を批判する一方、あらためて憲法の理念を考える時だとの論調も目立った。

国民投票法施行を危惧

《転換点だが》山陽「戦後日本の羅針盤の役目を果たしてきた憲法がかつてない大きな転換点に立とうとしている。改正の手続きを定めた国民投票法が18日に施行されるからだ。(略)憲法を変えるのか、変えないのか。国民一人一人が真剣に向き合わなければならない時代に入ったといえる」、徳島「気に掛かるのは、国民投票法の施行が迫っているのに、衆参両院の憲法審査会が2007年8月の設置以来一度も開かれていない上、施行までに予定されていた民法の成人年齢や公職選挙法の選挙権年齢の18歳への引き下げ、最低投票率の導入などが実現していないことだ。多くの問題点を抱えながらの法施行を危惧(きぐ)する」、茨城・日本海・長崎など「政権交代騒ぎで各党は政争に気を取られ、憲法論議は棚上げされたままだ。衆参両院の憲法審査会も休眠状態が続いている。憲法への関心低下は憂えるべき事態だ」、北國「政権交代とともに憲法問題はさらに政治の後景に追いやられた印象がある。参院選を7月に控え、民主も自民も選挙に勝つことに必死である。63回目の憲法記念日が映し出すのは、憲法を論じ合うエネルギーも生まれない政治の停滞、混迷ぶりである」。

《活性化訴え》読売「最大の責任は、政略的思惑から改憲論議を棚上げしている民主党にある。さらに改憲を党是としながら、推進力を欠く自民党の責任も否めない。(略)政治の現場で、『国のかたち』や中長期にわたる政策課題をめぐる議論が衰えている。そうした議論を盛んにしていくためにも、いま一度、憲法改正論議を活性化させていく必要がある」、産経「危機の増大を目の当たりにしているのに国民の平和と安全を守る議論を退行させることは許されない。(略)日本を取り巻く情勢の変化に対応し、憲法改正論議を始める意思がないのは、政権政党の責務の放棄である」、日経「国会が今すぐ改正を発議する状況にはないとしても、様々な課題をめぐる国民的な議論は重要である。衆参の憲法審査会を少しでも早く動かし、21世紀にふさわしい憲法をつくる意識を明確にしてほしい」。

《考える好機》西日本「改憲が直ちに政治日程に上る状況にはない。国民投票法の施行で政治的には動ける状況が整ったのに、あえて動かない。憲法はいま、そんな状況のなかに置かれています。(略)むしろ、政治の場で憲法論議が過熱していないときだからこそ、立ち止まって憲法を考える好機と言えます」、神戸「改正を急ぐことなく、もっと論議を深める方が重要ではないか。憲法がどれだけ暮らしの中に根づき、個人の権利に反映されているか。そう考えさせるような出来事が暮らしの周りで起きている」、中日・東京「いまこそ憲法が生まれた歴史的背景、経緯を正しく語り伝え、六十年前の初心を再確認しなければなりません。(略)歴史に学んで第九条の現代的意味を追求し続けることが、改正手続きを定めた国民投票法の存在感肥大化、独り歩きを防ぎます」、毎日「本社世論調査によれば、憲法改正の動きが進むことを『期待する』50%、『期待しない』48%という拮抗(きっこう)する結果だった。改憲を急ぐというより、どのような改憲が必要になるかを慎重に論議しようという世論と見ていいのではないか。21世紀の日本の『国のかたち』を練る『論憲』を進めるときである」。

現実社会にどう生かす

《理念再確認》北海道「きょうの憲法記念日は、日本国憲法の理念を確認し、いまの政治が憲法の目指す方向に合致しているかを点検する絶好の機会だ。(略)今月18日には改憲手続きを定めた国民投票法が施行される。憲法に向き合う国民の姿勢が試されることを忘れてはなるまい」、朝日「鳩山政権の支持率はつるべ落とし。政治は期待通りに動いていないという気分が広がる。多くの国民は、本当に主人公かどうか、自問し始めているだろう。(略)国民が主権者であり続けるには、民意を育む新しい公共空間を広げ、『数』に還元されない民意を政治の力にしていく知恵と努力が必要だろう」、信毎「憲法について私たちがいま考えなければならないのは、憲法を変えることではないだろう。憲法の理念が揺さぶられてきた現実を踏まえつつ、今の憲法が備えている懐の深さ、幅の広さを現実社会でどう生かすか、追求することではないか。言い換えれば、とことん使いこなすことを通じて憲法を強化することである」。(審査室)

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