2010年 6月1日
感染の拡大まず防げ

宮崎県の口蹄疫をめぐる社説
畜産農家救済にも全力

宮崎県で家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が猛威を振るい、牛と豚30万頭以上が処分対象となった。政府の対策本部が5月19日、発生地域から半径10キロ以内の牛豚にワクチンを接種して殺処分する方針を決定後、順次実行された。口蹄疫が国内で確認されたのは10年ぶりだが、処分が牛740頭だった前回とは比較にならない感染拡大。他県への広がりも心配されている。60本を超す社・論説が取り上げた。

初動から県・国、後手

《対応遅れ打撃》日経「県は緊急事態を宣言し、市民に不要の外出自粛を求めるなど対策を強めている。もとはと言えば、県の初動に抜かりがあったことは間違いない。3月下旬にすでに感染例があり、これを見逃していたことが明らかになった。韓国で口蹄疫がまん延していることを考えると、早い時点で詳しく検査しておくべきだった」、東奥「最初の感染疑い例が見つかった直後、農林水産省は、宮崎県が手を打っているので被害は広がるまいとみていたふしがある。赤松広隆農相が宮崎入りしたのは、大型連休中に海外出張した後の今月(5月)10日。鳩山首相を本部長とする国の対策本部が設置されたのは17日だった」、読売「長年かけて育て上げた種牛に、感染が広がったことも大きな打撃だ。宮崎産の種牛は評価が高く、子牛は県外に出荷され、松阪牛などのブランド牛として育てられるケースも多い」、北海道「(接種や殺処分では)政府は当初、対象となる家畜について一律の水準で補償するとの方針を示していた。ところが、地元から強い反発が出ると、これを撤回して時価評価で全額補償する措置に変更した。政府の対応が混乱し、後手に回っていることは明らかだ」。

《接種・殺処分》産経「家畜へのワクチン接種については感染力を弱める効果があり、防疫態勢を固めるための時間稼ぎには役立つ。しかしウイルスの根絶能力はなく、接種後は殺処分せざるをえないことに変わりはない。また、一度使うと発生が収まった後もしばらく出荷ができなくなるため、是非について専門家の間で見解が分かれている。だが、堂々巡りの議論を続けることで、いたずらに被害を拡大させるよりはましだ」、神戸「家畜伝染病予防法に定められたルールとあれば断固とした処分は致し方ない。つらい作業だが、歯を食いしばって乗り越えるしかない。口蹄疫の脅威が現実になり、あらためて見直すべき点は多い。和牛は気候や風土に合った形で改良が加えられてきた。簡単に育たないし、すぐに代わりが見つかるものでもない。そのことを踏まえ、普段から危機管理をしっかりしておくことだ」、北國「感染した牛や豚は、膨大な数のウイルスをまき散らす。早急に土に埋めないと危険である。封じ込めは時間との戦いだ」。

《警戒と備え》宮崎「宣言は、むしろ畜産とは無関係の一般県民にしっかりと受け止めてもらいたい。やるべき事はシンプルで、難しいことではない。不要不急の外出、特に畜産農家への訪問は差し控える。車で移動する場合、消毒ポイントできちんと消毒を受ける。多くの人が集まるイベント、大会、集会などは延期するか、やむを得ず実施する場合は出入り口での消毒など防疫措置を徹底する」、中日・東京「ウイルスは、人の移動や風に乗っても運ばれる。完全に封じ込めるのは難しい。他地域との情報交換を密にし、小さな異常もおろそかにせず、素早く対応するしかない」、熊本「万一の事態を想定した準備も怠ってはならない。(熊本)県畜産研究所が管理している種牛のあか牛12頭、黒毛和種4頭などを仮に分散させるなら、安全な地域を見極めなければならない。殺処分が避けられなくなった場合の体制と手だてを意思統一しておくことも必要だ」。

政争の具にするな

《説明と救済》朝日「消費者にも冷静な対応が求められる。感染した家畜の肉は市場には出回らないし、仮に食べても人には感染の恐れはない。風評被害で農家を苦しめるようなことは慎みたい」、毎日「夏の参院選を控え、鳩山政権の新たな失点としたい自民党など野党と、防戦に追われる政権側という構図となっている。しかし、被害の拡大は深刻で、政争の具にしていい状況ではない。感染の拡大を止め、被害を受けた畜産農家の救済に全力をつくしてもらいたい」、西日本「最も重要なことは、これからの被害を最小限にすることだ。政府は、今回の対策が口蹄疫を終息させる一歩であり、国としていま打てる最善の手であることを、生産者にきちんと説明し、理解と協力を得るべきだ」、京都「犠牲を強いる以上、政府は再起に向けた支援を惜しんではならない。決定済みの経済的な補償に加え、今後の生活支援にも万全を期してほしい」。(審査室)

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