2010年 8月3日
子供の脳死判定慎重に

改正臓器移植法施行をめぐる社説
救急医療体制の整備が急務

改正臓器移植法が7月17日に全面施行され、脳死状態に陥った本人の意思が不明でも家族の承諾で臓器提供が可能になった。15歳未満の子供からの臓器移植にも道が開けた。ただ、子供の脳死判定は極めて難しく、虐待の有無の判断も欠かせない。疲弊した現在の救急医療体制では十分に対応できない恐れが大きい。40本の社・論説が取り上げた。

提供側へのケア充実を

《本人意思と家族の負担》 産経「自らの意思をドナーカードに示したり、運転免許証や健康保険証に新たに設けられる欄に記入したりしておくことも忘れないようにしたい。家族の判断で提供できるとはいえ、本人の意思がはっきりしていればそれにこしたことはない」、朝日「家族にもこれまで以上の負担が生じる。本人が拒絶する意思を示していない限り、臓器提供について家族が重い決断を迫られるからだ。ふだんから家族で話し合い、一人ひとりが意思を示しておくことが一段と重要になる。決して十分ではなかった改正案の審議の中でも、本人意思を尊重する旧法への支持は強かった」、毎日「改正は『救われる命』に重きを置いた結果だが、臓器を提供する側のケア充実を忘れてはいけない。今後、運転免許証や健康保険証の記入欄も本人意思確認のひとつの手段となる。家族で話すきっかけとしてはいいが、意思表示がその人の治療に影響を与えるようなことがあってはならない」。

《子どもの判定》 読売「生命力の強い子どもの脳死判定は、大人よりさらに厳密に行う必要がある。親の虐待で脳死状態になった子が、その親の承諾で臓器提供者になることもあってはなるまい。厚生労働省は、子どもの脳死判定や虐待可能性の判断について指針をまとめているが、疑問が生じないように厳格な運用が求められる。事後検証も重要だ」、茨城・岐阜など「脳の発達が十分でない幼児ほど脳死判定は難しい。退院して帰宅し、人工呼吸器で生き続ける『長期脳死』のケースもあり、幼児の脳死を判定するにはまだ疑問が多い。児童虐待でないことの徹底的確認も欠かせない。子どもでは、早過ぎる脳死判定検査の開始を防ぎ、児童虐待の疑いがないことを確かめる仕組みがぜひ必要である。(略)物言わぬ子どもの権利を侵害することがないよう特に求めたい」、山陽「ドナーが子どもの場合、状況は大きく異なる。突然のアクシデントで驚きと悲嘆のただ中にある親が、温かい体で呼吸する子どもの『死』を受け入れ、臓器提供を承諾できるかどうかは大人の比ではあるまい」、中日・東京「心配されるのは、虐待による脳死の子供が提供者に紛れ込むことだ。改正法に基づく指針は、脳死判定を行い、臓器提供する医療機関に対し『虐待防止委員会』の設置を義務付けている。子供の脳死判定・臓器提供には慎重を期してもらいたい」。

国は現場任せにするな

《体制の不備》 徳島「厚労省は法改正への対応を現場任せにすることなく、医療機関の取り組みを全力で支援しなければならない。移植医療を担う病院の多くは、過酷な勤務実態を強いられている地域の拠点救急病院である。(略)とりわけ判断が難しい子どもの脳死判定を委ねるのは、疲弊している救急現場に追い打ちをかけるようなものだ」、西日本「小児用の集中治療室(ICU)の不足が、子どもの脳死移植を時期尚早と反対する論拠の一つになる。脳死判定などにかかわる医師や医療機関にかかる負担、遺族の心のケアなど、現状では移植医療を進める環境が整っているとは、とても言い難い」、日経「家族が後で悔やむことのない判断を下せる環境を整えるのは、脳死者の家族と移植を待つ患者側を仲立ちする移植コーディネーターの役目だ。その仕事は以前にも増して大切になるが、国が認めた橋渡しの組織である日本臓器移植ネットワークや都道府県に所属し働くのは約70人。育成・増強が必要だ。(略)多くの患者の救命に忙殺されている今の救急病院では対応が難しいとの声もある。厚生労働省は、救急医療の充実などの対策を早期に講じるべきだ」、北國「海外に頼らないシステムをつくることは大事だが、そのためには脳死患者と向き合う救急医療の体制充実が急務である。移植医療も、救命治療が尽くされたという信頼感があってこそ成り立つ。国も現場任せにせず、家族のケアに当たるスタッフの増員を含め、手厚い支援策を講じてほしい」、秋田「それぞれのケースについて、問題がなかったかどうかを詳細かつ慎重に分析することが必要だ。にもかかわらず、厚生労働省の『検証会議』が昨年3月から開かれていない。そのため、2007年5月以降に国内で実施された計32例の検証作業が宙に浮いているという。大きな問題である」。(審査室)

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