2010年 11月24日
統治能力の弱さ露呈

中国漁船衝突映像流出をめぐる社説
暴露の正当化に疑問

沖縄県尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、海保撮影のビデオ映像が4日、ネット上に流出。神戸海上保安部の男性保安官が自ら流出させたと名乗り出たため、警視庁と東京地検は国家公務員法(守秘義務)違反容疑で事情聴取に入った。ただ、逮捕はせず任意で捜査を続ける。120本を超す社・論説が政府の映像非公開方針と海保保安官による流出の是非、情報管理の在り方、政府の責任を論じた。

非公開の根拠、説明せよ

《非公開の是非》西日本「『証拠映像』を流出させたとして過剰な罪を与えることに国民はどう反応するだろう。むしろ衝突の真実を隠し続ける姿勢が、政権に対する不信を助長することになるのではないか。いまからでも遅くはない。政府は映像を公開し、同時にこれまで非公開としてきた判断の根拠を丁寧に国民に説明すべきだ」、秋田「非公開にした判断の是非はあらためて問われなければならない。中国を刺激したくないという配慮があったとすれば、それが適切だったのか疑問だ。(略)中国や国際社会向けに日本の正当性を伝えるため、政府が積極的に公開すべきだったのではないか」、日経「公開してよかったものを中国への外交的配慮ゆえに公にせず、しかも非公開は刑事司法上の要請と強弁する、不適切、不誠実な対応を政府は改めるべきだ。ビデオ映像を巡る混乱に終止符を打つために、ビデオの全面公開を再度求めたい」、中日・東京「外交を考えると、確かに高度な政治的配慮や判断もあり得る。ただし、このビデオ映像が外交の〝切り札〟に該当するのかどうか。(略)公開されて当然の映像が、なぜ今なお隠され続けるのか。その意図を疑う国民も多いだろう」。

《流出への疑問》毎日「本来、政府が公開すべきものを職員が公開したと、その行為を正当化する向きの主張が一部にあるが疑問だ。国家運営に直接かかわらない公務員が『匿名』で政府方針に異議をとなえることは、国益を損なう恐れがある」、朝日「ビデオの取り扱いをめぐっては、非公開を決めた政府を批判する声と、理解を示す声との双方がある。だからといって、現時点での外交関係を踏まえた政府の高度な判断を、一職員が独自の考えで無意味なものにしてしまっては、行政は立ちゆかない」、新潟「流出後、海保に寄せられた電話などは『正しいことをやっている』など肯定的なものが多数を占めた。(略)だが、動機はどうあれ法は法だ。政府が映像を公開することと、個人がサイトに流すのとは話の次元が違う。このような行為を英雄視するようなことは厳に慎みたい。犯罪の称揚につながりかねないからだ」、熊本「政府が『国益』の立場から非公開にしたものを個人の判断で、しかも匿名でネット上に流出、暴露したことを単純に正当化はできない。報道機関への通報や組織内での告発であれば、その後の事情は随分異なったのではないか」。

《機密と情報管理》徳島「捜査資料の流出が国家公務員法の守秘義務違反に当たるのは言をまたない。事実が判明すれば、断固とした処置を下すべきである。(略)なぜ国の機密資料がこうも簡単に流出してしまうのか。そこに規律のゆがみや組織管理の甘さはなかったのか」、信毎「菅政権のダメージは大きい。不特定多数がアクセスできるインターネットへの内部情報流出は、内外に統治能力の弱さを印象付けた。日本は情報管理ができないとみられても仕方がないだろう」、河北「政府が当面隠したいと思うことが、簡単に機密扱いになっていいはずがない。情報統制国家ではないのだから、機密の範囲を狭く考えないで、公務員の守秘義務をできるだけ小さくとらえる構えが大切だ」、神戸「仙谷由人官房長官が『秘密保全に関する法制の在り方について早急に検討したい』と発言したことは見逃せない。罰則強化が念頭にあり、政府にとって都合の悪い情報が流れるのを制限することにつながりかねない。報道の自由を制約する恐れもある」。

政治の責任逃れは姑息

《政府の責任》北海道「鈴木久泰海上保安庁長官の責任は極めて重大だ。海保を所管する馬淵澄夫国土交通相らの監督のあり方も厳しく問われよう」、読売「仙谷官房長官は『政治職と執行職では、責任のレベルが違う』と発言している。馬淵国土交通相に監督責任が及ばぬよう予防線を張ったのであろうが、これは『政治職』の責任逃れではないか」、産経「職員の処罰で幕引きを図ろうという考えなら、筋違いと指摘せざるを得ない。(略)閣僚の進退問題に発展する事態は何としても食い止めたいとの判断だろうが、姑息(こそく)としか言いようがない。民主党が掲げてきた『政治主導』は政治家が最終責任をとることではなかったか」。(審査室)

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