2010年 11月30日
裁く市民の負担軽減を

裁判員裁判の死刑判決めぐる社説
評議過程の情報公開探れ

生きたまま電動のこぎりで切断するなどした2人殺害事件で、裁判員裁判初の死刑判決が16日、横浜地裁で言い渡された。25日の仙台地裁では、3人を殺傷し元交際相手の少女を連れ去った事件で、裁判員裁判で初めて少年(19)に死刑判決があった。記者会見した裁判員が裁く重圧を明かし、横浜の事件では異例の形で裁判長が被告に控訴を勧めた。裁判員裁判制度をあらためて考えさせた2つの死刑判決を、70本を超す社・論説が取り上げた。

控訴勧める姿勢、妥当か

《重たい判断》北海道「クジで無作為に選ばれた国民が、好むと好まざるとにかかわらず極刑と向き合わなければならない。裁判員制度ができた以上、私たちのだれにでも可能性があることが今回、現実となったのだ。求められる判断の重みと、死刑制度の在り方をあらためて考えなければなるまい。判決をその機会と受け止めたい」、朝日「自分たちの社会の根っこにかかわる大切なことを、一握りの専門家に任せるだけではいけないという思想が、この制度を進める力となった。長年続いてきた『お任せ民主主義』との決別をめざしたと言っていい。きのう(16日)の判決はそのひとつの帰結であり、これからも続く司法参加の通過点でもある」、産経「凶悪で残忍な事件である以上、(事件当時)18歳といえども厳しく対処するという厳罰化の流れが裁判員に受け止められたものと考えたい。(略)死刑が審理される裁判はまだまだ続く。裁判に市民の目を取り入れるとした裁判員制度の意義が、これからも試される」、河北「スタートから1年を経て、実際に死刑求刑の公判が続くと、あらためて深い困惑にとらわれてしまう。この重みは、有権者の一人として引き受け、耐え続けるしかない新しい義務なのだろうか。困惑の中から生まれてくるのは、そんな思いだ」。

《控訴の勧め》読売「裁判長が、判決を言い渡した後、『重大な結論なので、裁判所としては控訴することを勧めます』と被告に語りかけたことも、論議を呼ぶだろう。それが仮に、裁判員の意向を受けた発言だったにせよ、裁判長が被告に控訴を『勧める』ことが妥当なのかどうか。判決に自信がないことの表れだ、と受け止められれば、裁判官と裁判員が熟議の末に出した死刑判決の重みを否定することにつながりかねない」、西日本「判決後に裁判長が被告に控訴するよう勧めた異例の説諭は、死刑選択への裁判員のためらいや悩み抜いた様子を言外にうかがわせる。もしかしたら、評議で意見が割れたのかもしれない。評議の過程や議論の内容が一切、公にされない現行制度では、裁判員と裁判官がどんな議論を交わしたのか、残念ながら知ることはできない」、新潟「求められるのは、上級審にあらためて判断を仰ぐという手法ではなく、制度そのものの見直しだろう。死刑反対の意見が多数決で安易に切り捨てられていいのか。評議過程での議論や評決の結果など、できるだけ情報を公開する必要がある」。

死刑制度深めたい議論

《制度の検証》日経「現在は、評議の中身や結論に至るまでの経過などが明らかにならず、裁判員には一生、罰則付きの守秘義務が課せられる。しかし、もし評議内容や少数意見の存在が分かるような判決理由であれば、裁判員の負担が軽くなる可能性もあるし、今後の裁判員の役にも立つ。評議の中身がすべて秘密であることは裁判員制度にとっていいことなのか。不断の検証が欠かせまい」、中日・東京「むろん裁判員には大きな心の負担がかかったはずだ。裁判の間はもちろん、一生引きずる重荷にもなりうる。だから、裁判員の心のケアには十分、配慮せねばならない。希望者には臨床心理士のカウンセリングが受けられるが、初の死刑判決を受け、その態勢の再チェックが求められる」、京都「少年事件は家庭や成育環境などが背景にあることが多く、更生の可能性について時間をかけて検討されるべきものだ。裁判員裁判は迅速な審理を一つの目標にしているが、事例によっては裁判員が納得できるまで日程を延ばしても良いのではないか」、愛媛「裁判に一般常識を反映させるため、あるいは死刑制度を考える契機になるとはいえ、市民がどこまで重責を負うべきなのか。対象とする事件の範囲も検討を求めたい」、毎日「今後も死刑求刑が予想される裁判員裁判が続く。改めて死刑の適用について議論を深めなければならない。そして、その延長線上には、死刑制度自体の問題もあるはずだ。千葉景子前法相が、死刑制度の存廃も含めた勉強会を法務省に設置した。市民が涙を流しながら、死刑に向き合っているのである。検討を加速させるべきなのは言うまでもない」。(審査室)

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