2011年 6月7日
原発安全強化で合意

G8サミット首脳宣言をめぐる社説
首相、議論をリードできず

主要8か国(G8)首脳会議(サミット)は5月26、27日にフランスで開催、原発の安全対策強化などの宣言を採択した。東日本大震災による東京電力福島第一原発事故を受けて、国際原子力機関(IAEA)の機能強化や新たな安全基準策定で合意。菅直人首相も太陽光など自然エネルギーの利用拡大を表明した。49本の社・論説が原発の安全策などを取り上げた。

具体的基準づくり難航も

《原発の安全対策》毎日「原発の安全が主要議題となり首脳宣言にも盛り込まれた。その意義を評価したい。(略)首脳宣言では、日本の事故から教訓を読み取ることの重要性を指摘。すべての原発保有国に安全点検をするよう促している。これは原発推進の立場を維持するか、脱原発にかじを切るかの違いによらず、当然の対応策だ。ぜひ、迅速に進めてほしい」、北國「福島第1原発事故を教訓に、原発の安全基準の強化を国際原子力機関(IAEA)に要請するのは今回のサミットの成果といえる。しかし、新興国や途上国を含め、原発に対する各国の姿勢、思惑は異なるため、具体的な基準づくりは難航が予想される」、京都「安全基準の厳格化は新たな財政負担の増加を招き、これから原発を導入する新興国や途上国の反発も懸念される。原子力安全の議論をG8だけで引っ張ることは難しくなっている。首脳宣言の内容を具体化させる6月下旬のIAEA閣僚級会合で、新興国なども交えた実効性のある議論を期待したい」。

《新エネルギー》読売「原発事故の影響で、原発の新増設は難しくなった。自然エネルギーの利用拡大に活路を見いだす狙いは、ある程度理解できる。しかし、20%の目標達成時期は基本計画よりも、唐突に10年程度前倒ししたものだ。実現に向けた具体的な方策は示していない」、中日・東京「(菅首相の)冒頭発言も、サミットでの議論の流れをつくるには至らなかった。発言内容からは、『自然エネルギーへの転換』を目指す明確な意思が読み取れないからだ。(略)サミットは、原発事故を契機に日本の高い技術力を活用した自然エネルギーへの転換をアピールする機会だったが、首相発言後の討議では原発推進発言が相次いだ。中途半端な姿勢では、国際社会をリードすることも、信頼を得ることも難しい」、岩手日報「福島第1原発事故が深刻な事態となっている今、自然エネルギーへのシフト強化に異論はない。実現を目指して推進すべきだ。しかし、事実上の国際公約となる重要な表明でありながら、唐突感は否めない」、朝日「あと10年余という目標期限を考えると、太陽光だけに頼っていては、目標達成は難しかろう。世界の趨勢(すうせい)をみると、太陽光より低コストの風力の広がりが顕著だ。風力の発電設備量は太陽光の4.5倍という統計もある。即戦力として、もっと風力に目を向けてもよい」。

《脱原発》徳島「首相が国内総電力の3割を占める原発をどうするかに踏み込まなかったことには不満が残る。原発推進を貫くフランスや米国に配慮した結果とみられるが、これでは原発依存からの脱却や再生エネルギーの推進で国際社会をリードしていく立場にはなり得ない」、山陽「国際社会では、G8が今後のエネルギー政策の中で原発をどう位置付けるかが注目されていた。しかし、原発の是非は封印され、安全強化で合意した。原発推進派のフランスやロシアなどと、『脱原発』にかじを切ったドイツなどとの溝は大きい。原発政策で一致するのは難しい面があり、ある程度予想された結果といえる」、琉球「菅直人首相は絶好の機会を逸してしまった。脱原発の世論の高まりを追い風にしつつ独伊と足並みをそろえて、脱原発へかじを切る方向に議論を誘導することができなかった。最大の理由は、菅首相が示した新エネルギー政策が中途半端な内容だったからだ」。

事故の検討結果共有を

《菅首相の責務》中国「菅首相は来年1月までに原発からの放射性物質放出を止めるなど、事故を早期に収束させると言明した。しかし現状では工程表通りに進む見通しが立っていない。実現できなければ、国際社会の批判にさらされよう」、産経「各国が首相の口から聞きたかったのは、原発政策であり、復興と経済再生への現実的な対処、そして、必要なエネルギーをこれからどうやって確保するかという足下の問題だったはずだ。今夏の電力不足や点検停止中の原発の再稼動といった、本質的な問題の解決策を率直に語るべきだった」、日経「首相はサミットで、原子力安全の国際会議を日本で開くことも提案した。問題はそこで何を話し合い、達成したいのか、である。日本に求められるのは福島事故を徹底的に検証し、その結果を包み隠さず各国と共有することだ」。(審査室)

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