2011年 9月6日
リビア再生へ支援を

カダフィ政権崩壊をめぐる社説
新体制移行は前途多難

北アフリカのリビアで、隣国チュニジアの「ジャスミン革命」に触発された民衆蜂起が始まって半年。反体制派は8月23日までに首都トリポリをほぼ制圧、最高指導者カダフィ氏の42年間に及ぶ独裁体制は事実上崩壊した。反体制派の代表組織「国民評議会」は拠点を首都に移し、欧米諸国や国連の支援で暫定政権樹立を目指すが、逃亡したカダフィ氏とその勢力は徹底抗戦の構え。リビア再生への道は険しい。カダフィ後の国造りを国際社会、日本はどう支援すべきか。30を超す社・論説が中東民主化の新局面を取り上げた。

内戦の泥沼化は回避

《「人道介入」》読売「反体制派の蜂起による内戦が始まって半年、米英仏の軍事介入から5か月が過ぎた。この間に多数の犠牲者が出たのは痛ましい。カダフィ氏はなお、徹底抗戦を叫んでいるが、これ以上の流血は許されない。リビア再建のため、直ちに戦闘をやめ、身を引くべきである」、産経「半年にわたる内戦は泥沼化が懸念された。情勢が急展開したのは、国連安全保障理事会のリビア制裁決議と北大西洋条約機構(NATO)軍による空爆などの反体制派支援が大きい。国民の改革要求を武力で弾圧した独裁体制に対する国際社会の『人道介入』の成果だと評価できよう」、朝日「英仏軍主導の空爆では民間地区への誤爆もあり、限界が表面化していた。今回、リビア民衆の主体的な動きで首都攻勢が成功したことで、内戦が長期化して国際社会が泥沼に入ることが避けられたともいえる。人道目的の軍事介入における反省としたい」。

《カダフィ後》山陽「政権は倒れたが、新体制移行の前途は多難だ。反体制派『国民評議会』は速やかな暫定政権樹立を目指し、8カ月以内に大統領選と議会選を実施する考えを示した。しかし、リビアは伝統的な部族社会であり、独自の『直接民主制』の下、憲法や選挙のない独裁体制が長年維持されてきた国だ。ゼロからの民主国家建設になる」、日経「国民は数百にも分かれる部族への帰属意識が強い。国民評議会は様々な勢力が反カダフィで結集しただけの寄り合い所帯の性格が濃い。政権打倒に深く関与した欧米はもちろん、日本を含む国際社会が新生リビアの国造りで果たすべき責任は重い」、徳島「これまでは反カダフィで団結していたものの、今後、豊富な石油資源などを背景に権力闘争が繰り広げられる可能性もある。さらに、カダフィ氏は特定の部族を優遇して権力維持に利用してきたことから、権力崩壊で既得権益を失う部族が不満を強め、国内的な対立が激化するかもしれない。そうした問題点の一つ一つを取り上げ、しっかりと話し合いを進めていくことが大切だろう」。

《国際支援を》琉球「円滑な政権移行と戦後復興には、息の長い国際的な連帯が不可欠だ。国連の潘基文事務総長がアラブ連盟や欧州連合(EU)、イスラム協力機構(OIC)などと協議し、国連が警察など治安能力整備を支援することで一致。選挙実施や行政機構の構築、経済復興支援の計画的実施なども検討、新政権樹立に向け動きが加速している」、北日本「リビアは原油埋蔵量が世界第8位の有力産油国である。復興の鍵を握る石油生産再開にイタリアやフランスなどが既に触手を伸ばしている。だが利権争奪に走り、リビア国民を置き去りにするようなことがあってはならない」、毎日「リビアでは石油関係、建設、通信など多くの分野に日本企業が進出していたが、最近は中国や欧州諸国に押されて日本の存在感が薄れているとの声もある。(略)原発事故で将来のエネルギー戦略が問われている日本としては、明確な戦略が必要だ。民主化を求める民衆を支援して、日本の存在感を高めたい」。

民主化運動に陰りも

《アラブの春?》上毛・岐阜・大分など「今年に入り政権が崩壊したチュニジアやエジプトとの違いは、米軍を中心とする北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入がなければ、カダフィ政権は倒れなかったとみられることだ。市民主導の『アラブの春』とは断言できず、各勢力がにらみ合う緊迫した局面は今後も続きそうだ」、中日・東京「中東民主化の動きは東西冷戦の崩壊にも匹敵する歴史的な出来事といえる。しかし、旧東欧諸国には西欧という地域的回帰先があったのに対し、新たな地域的枠組みがないのが中東民主化の大きな特徴だ。それだけに、一つ間違えば権力の空白がイスラム過激派の浸透につながる懸念が常にある」、北海道「チュニジアとエジプトで次々と独裁政権を崩壊させた後、運動には陰りが見え始めていた。シリアやイエメンでは政権側による反体制派などへの弾圧がやまない。中東や北アフリカに民主社会が広がるよう、国際社会はさらに目配りを続ける必要がある」。(審査室)

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