2011年 10月18日
経営効率化の追求を

東電への経営調査報告をめぐる社説
不透明な料金体系見直せ

福島第一原発事故の賠償費用の捻出に向けて東京電力の経費見直しを検討してきた政府の第三者委員会「経営・財務調査委員会」が3日、野田佳彦首相に報告書を提出した。今後10年間のコスト削減額を、東電の当初計画の約2倍に引き上げ、計2兆5455億円とすることを迫った。また原発事故の賠償額は、2013年3月までに限っても約4兆5千億円に上ると試算。割高な現行料金制度の問題点を指摘し、抜本的な検証を求めた。38本の社・論説から。

公的資金投入は最小限に

《合理化徹底を》南日本「今回求められたコスト削減額は、東電が公表した合理化計画による削減額の2倍以上になる。報告書が東電の計画を『一過性の施策が大部分』と切り捨てたように、東電の努力不足は明らかだ。東電は公的資金の投入を最小限に抑えられるよう報告書の指摘を誠実に実行し、徹底的な経営効率化を目指すべきだ」、福島民報「放射性物質の除染や、住民帰還には長い時間がかかる。賠償支払いが二年足らずで終了するとは思えない。東電は経営改革を進め、費用確保に一層努める責任がある。ただ、自助努力は期待できない。政府は監視を強化すべきだ」、福井「公的支援を受ける以上、『追加のコスト削減や資産売却の拡大、経営陣の経営責任追及などを検討すべき』と報告書が厳しく指摘したのも当然だ。支援機構の目的は長期間にわたると予測される被害者への賠償を完遂させることにある。東電も苦難の道だが、徹底した経営効率化を求めたい」、静岡・日本海など「東電は報告書の指摘を真摯(しんし)に受け止め、電力の安定供給に必要な年間の利益と合わせて賠償資金も確保するため、徹底した経営の効率化を追求すべきだ」。

《料金制度》読売「報告書では、電力料金制度の問題点も取り上げた。東電が料金算出の根拠とする『総原価』は、必要経費に一定の利益を乗せて決められており、実態より割高に設定されてきたと指摘した。他の電力会社も基本的に東電と同じ料金体系だ。透明性を向上させる論議が必要となろう」、毎日「コストの中には寄付金や業界団体への拠出金、出向者の人件費なども含まれていたため、報告書は『原価主義の原則が維持されているか疑義がある』と指摘し、原価の対象は『電気の安定供給に真に必要な費用に限定』するよう見直しの方向性を示した」、北海道「いいかげんに経費を見積もり、料金に上乗せしていた可能性がある。コストは電力供給の事業に絞って認めるべきだろう。オール電化関連や広告宣伝費なども『経費』に算入するのは国民の理解が得られまい」。

《再稼働の思惑》朝日「報告書は、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働が見込めず、電気料金の値上げもしない場合、東電は最大で8兆円規模の資金不足に陥り、債務超過に転落するとの見通しを示した。こうした試算が、安易な原発の再稼働や値上げ容認論へとつながらないよう、注意しなければならない」、中日・東京「報告書は同じ東電の柏崎刈羽原発の今後の再稼働状況や、電力料金の値上げ幅を組み合わせた九通りの東電の経営予測を示し、『再稼働しなければ四兆~八兆円の資金不足が生じる』『著しい値上げをしない限り事業は極めて困難になる』とまで言い切った。原発再稼働への環境を整える意図が潜んではいないか」、新潟「東電救済のために、なし崩し的に柏崎原発が再稼働されたり、電気料金が上げられたりでは、安全に不安を持つ地元住民や東電管内の消費者はたまったものではない。原発の安全性は経済問題、ましてや東電の資金繰り問題とは切り離して考えるべきものだ」、産経「原発を再稼働させれば、値上げなしでも債務超過に陥らないで済むという。東電は賠償支払いを円滑に進めるとともに、電力を安定供給する使命を負っている。原発の再稼働は、政府の責務でもある」。

エネルギー体制見直しを

《電力改革》日経「経営・財務調査委は積み残しの課題として、発電と送電の事業を分ける発送電分離をあげた。これは日本全体の電力供給にかかわる重要テーマだ。東電の賠償問題との関連に限定せず、日本のエネルギー体制を抜本的に見直す作業の中で、電力自由化や発電の多様化などともあわせて議論を深めてほしい」、信毎「割高な料金になったり、ほかの発電事業者が参入しにくかったりしたのは、独占状態で競争のないことが大きい。国民負担を最小限に抑えつつ、原発事故の賠償をスムーズに進めるためにも、政府は電力制度の構造改革を避けてはならない」、京都「発電事業と送配電事業の分離も含め、報告書は改革の必要性を示している。東電だけでなく電力業界全体で受け止めてもらいたい」。  (審査室)

ページの先頭へ