2012年 3月6日
元少年死刑の意味は

光母子殺害事件の最高裁判決めぐる社説
厳罰化、冷静に議論を

山口県光市の母子殺害事件で殺人や強姦(ごうかん)致死罪などに問われた犯行時18歳1か月の少年について、最高裁は2月20日、上告を棄却。差し戻し後の控訴審の死刑判決が確定する。ただ、裁判官4人のうち1人が反対意見を述べ、極刑としては異例の判決となった。最高裁に記録が残る1966年以降では最年少の死刑確定を36本の社・論説が取り上げた。

判断の背景に国民感情

《妥当》産経「何の落ち度もない幸せな母子の生命を奪った責任の重さ、遺族感情や国民感情に照らしても他に選択肢のない妥当な判断だといえる。少年法は18歳未満への死刑を禁じている。公判の最大の焦点は、1カ月の差で死刑を選択できるか否かにあった。18歳が最高刑を受容できる年齢と認定された以上、20歳未満を『少年』とする現行少年法のありかたについても、広く検討すべきではないか」、静岡「悪質な犯行であり、18歳以上には死刑を適用する制度がある以上、やむを得ない判断だろう。(略)結果として厳罰化に傾くことになったが、裁判員裁判の導入や被害者遺族への配慮重視などの司法を取り巻く環境変化に対応し、機械的な基準の当てはめによる量刑判断から踏み出したといえる」、北國「今回の最高裁判断は、被告の年齢や被害者数よりも、犯行の性質や残虐性、遺族感情により配慮して導き出されたといえる。少年法の理念、精神は重視しなければならないが、最高裁判断は国民の常識や量刑感覚からも受け入れられるのではないか」。

《厳罰化》読売「厳罰により、少年の凶悪事件に歯止めをかけたいという最高裁の意向がうかがえる。選挙権年齢の18歳への引き下げが検討課題となるなど、年長少年を『大人』と見る風潮は強まっている。社会状況の変化も、最高裁の判断の背景にはあるだろう」、毎日「何が極刑選択を左右するのか。判決が投げかけた意味は重大だ。結果的に死刑の結論を支持した最高裁判決は、少年事件における厳罰化の流れを決定づけるだろう」、朝日「死刑を前提とする法制度のもと、悩み抜いて出された判決を厳粛に受け止めたい。だがこの結果だけをとらえ、凶悪な犯罪者に更生を期待しても限界があると決めつけたり、厳罰主義に走ったりすることには慎重であるべきだろう」。

《反対意見》日経「判決に関わった4人の裁判官のうち、宮川光治裁判官は『死刑判決を破棄し、改めて審理を高裁に差し戻すべきだ』との、死刑判決では極めて異例となる反対意見を述べた。『年齢に比べ精神的成熟度が低く幼い状態だったとうかがわれ、死刑回避の事情に該当し得る』との理由からだ。結局は、一つ一つの事件を慎重に検討していくしかないということである」、山口・デーリー東北「少年を大人並みに一刀両断にばっさり裁いていいというのはちゅうちょを覚える。今回の判決で4人の裁判官のうち1人が反対意見を書いているのは、注目すべきだ。(略)今後、少年死刑事件は何が『特に酌むべき事情』かが問題になる。ハードルは高いかもしれないが、少年には保護更生の視点が必要だ」、西日本「今回のように、最高裁の裁判官でも判断が分かれる少年への刑罰はどうあるべきか。『更生』を重視する少年法の理念の下、関係者は少年と死刑のありようについて冷静に議論を重ねるべきだ」。

世論の影響、検証不可欠

《世論》新潟「本件をめぐって形づくられた世論には、弁護団を攻撃するような動きなど、時に感情が先に立つ側面があったことは否定できまい。厳罰を求める声に押され司法の原則がゆがめられることはなかったか。検証が欠かせないだろう。マスコミも、責任ある報道のための自戒と自覚を深める必要がある」、愛媛「死刑か否か、ただ二者択一を迫るような『量刑判断の殻の中』に、社会全体が閉じこもってはいなかったか。無期懲役判決が出るなり、各界各方面から被告や裁判所に対する激しい異論が飛び交った。最高裁の裁判官がその影響を少なからず受けたことは否定できまい」。

《死刑制度》京都「2人の家族を奪われ、死刑判決を求めてきた(遺族の)本村洋さんでさえ、『社会でやり直すチャンスを与えるのか。命で罪を償わせるのが社会正義か。答えはない』と記者会見で語っていた。重大な事件を起こした少年にどう向き合うのか。死刑制度の是非と合わせ、一人一人が考えていかねばならない」、中日・東京「最高裁の判決後に本村さんは『判決に満足しているが、喜びは一切ない』と語った。むしろ事件からの十三年間、『元少年にやり直させるのが正義なのか、死で償いをさせるのが正義なのか、悩んできた』と述べた。(略)死刑は裁判員が直面する問題だ。『答え』の用意はどこにもない。この制度をどう考えたらいいか。遺族の問いに国民全員で論議を尽くすべきである」。(審査室)

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