2012年 3月13日
虚偽報告、見抜けず

AIJ年金資金消失問題をめぐる社説
企業側も慎重姿勢で臨め

企業年金運用会社のAIJ投資顧問が、企業から運用を任された約2100億円の年金資金の大半を消失していたことが2月24日、証券取引等監視委員会の検査で分かった。金融庁は、投資家保護のため同日、同社に金融取引法に基づく1か月の業務停止命令を出した。厚生労働省は2011年3月末時点で同社と契約があった企業年金は84で、加入・受給者は約88万人に上ると発表。多くが中小企業の従業員やOBの資産で、企業年金が出るのかと、不安が広がる。30本超の社・論説から。

検査態勢の弱さ露呈

《虚偽の果てに》信毎「運用状況についてAIJは顧客に虚偽の報告をしていた疑いが強い。『投資家に説明できない状況になっている』と金融庁に報告している。(略)消えた巨額の資金は、どこに無断で流されたのか、あるいは運用に失敗したのか。金融当局は解明を急いでほしい」、読売「AIJは、高い運用利回りを売り物にする会社として、評判だった。大手格付け会社が顧客を対象に行ったアンケート調査で1位を獲得したこともある。ところが実際は、顧客にも監督官庁にも虚偽の報告をして、好調な運用実績を装っていた。集めた資金を香港の金融機関に移すなどの動きもしていたという」。

《甘いチェック》北海道「首をかしげるのは、金融庁がAIJの不適切な年金運用を長年にわたって見逃してきたことだ。資金の消失が明らかになったのは、1月の証券取引等監視委員会の検査がきっかけである。それまで気付かなかったとは監督が甘すぎる」、日経「投資顧問が当局や顧客に提出する事業報告書は、中身の正しさを保証する外部監査が義務づけられていない。AIJも未監査の報告書を出していた。虚偽の情報があったとしても、発見は必ずしも容易ではない」、京都「投資顧問業者に対する検査態勢の弱さも問題だ。規制が厳しい銀行と異なり、投資顧問業は2007年から登録制になった。年1回の事業報告書の提出義務はあるが外部監査の必要はなく、財務状況のチェックは甘いとされる」

《老後に不安》高知「運用利回りの低下などで、多くの企業が退職者に支払う年金の積み立て不足に陥っているのが現状だ。そこに年金資産の消失が重なる企業も出てこよう。中小企業には大きな負担となるはずで、最悪の場合、年金給付の減額につながる恐れもあり、老後の生活設計に大きな影響を及ぼす」、産経「消失額が確定すれば年金資産に大きな損失が発生し、企業は穴埋めしなければならない。できなければ、年金給付を減らすほかない。各年金はこれを機に外部のコンサルタントに相談するなど、資産管理体制を総点検すべきだ」。

《カモにされない》朝日「問題は運用を任せる側の年金基金にもある。『投資のプロ』なら、自己責任で相手を選別するのが筋だ。しかし、専門家の助言も受けない小さな年金基金も多く、建前通りに行くとは限らない。問題のある業者が当局にすぐに通報されるようなガイドラインの整備など、『カモ』にされない支援態勢を整えるべきだ」、山陽「AIJの責任はもちろんだが、企業側の姿勢にも問題はある。リーマン・ショックの2008年度でも7.45%の利回りがあったとするなど、好業績が続いていることに不自然さを感じなかったのだろうか。中には疑問を抱き難を逃れたケースもある」、中日・東京「投資のプロであるべき基金の職員の多くが資産運用の経験がなかった点は問題だろう。(略)五年前に基金など企業年金制度の検証をした厚労省の研究会で、運用経験のある人材の配置を義務付けるべきだと指摘されていた。厚労省は問題を放置してきたと言わざるを得ない」。

事業報告書に外部監査を

《再発防止へ》毎日「長引く低金利で、企業年金は苦しい運用を余儀なくされている。年金不安に輪をかけることがあってはならない。監督当局は、ずさんな実態の全容解明を急ぐとともに、再発防止への手立てを講じるべきだ。(略)老後の大切な資金が損なわれることのないよう、『事後チェック』機能の立て直しも求められる」、熊本「投資顧問会社が顧客らに提出する事業報告書は、外部監査が義務付けられていない。運用情報の正確性は、各会社の倫理に任されているのが実情だ。報告書の信頼性を高めるには、外部監査の導入や検査体制の充実を図る必要がある」、新潟「年金運用などを行っている投資顧問業者は全国で260余りに上る。金融庁はこれらに対して一斉調査に入ることを決めたが、当然である。AIJが特異なケースなのか、同様の実態が他にもあるのか。きちっと精査し、再発防止を図っていかなければならない」。(審査室)

ページの先頭へ