2012年 3月27日
国の仕組み再構築を

東日本大震災1年の社説(下)
共助の精神を生かそう

東日本大震災と福島第一原発事故。復興には難題が目白押しだ。原発事故の危機は今も進行中、除染、がれき処理、風評被害、賠償、政治の責任などが山積する。地方紙の社・論説から。

脱原発と再稼働

《原発》北海道「再稼働する原発がなく、泊3号機が5月上旬に定期検査に入れば、国内の全原発が停止する。原発にほとんど頼らない現状で大きな混乱もないことに、むしろ国民の多くは驚いているのではないか。期せずして到来しようとしている原発ゼロの季節を、節電を浸透させ、原発に代わるエネルギーを主体的に選択するための一歩と考えたい」、神戸「半年前、わたしたちは原発のない国を目指そうと言った。すぐには無理としても、たとえ効率が悪くても、再生可能エネルギー中心の社会にしよう、と。(略)第一、メルトダウン(炉心溶融)の原因さえ分かっていない。マグニチュード(M)9.0の地震の強い揺れが、原子炉本体や冷却機能を破壊した可能性を残す。もし、地震による損傷なら、国が各電力会社に求めた再稼働に必要な安全対策では不十分ということになる」、静岡「現政権が唱える『脱原発』は、原発の再稼働なしに実現できるのか。(略)膨大な費用と長い時間がかかる原発の廃止措置、旧式火発を再稼働させて供給力をかき集めている現状、産業構造や市民生活を勘案すれば『ソフトランディング』の道を探る必要もある」。

《がれき》沖縄「県も仲井真弘多知事が受け入れの検討を表明したが、沖縄タイムスが実施した県民意識調査で賛成38%、反対32%と割れている。(略)住民の不安を高めているのは、原発事故発生時から放射性物質による汚染に対する政府の場当たり的な言動や基準の変更に原因がある。がれきの処理を進めるには政府が安全性を保証することが大前提だ」、山梨「本紙の調査では、山梨県内の知事と27市町村長全員が広域処理は『必要』と答えたが、自らの自治体での処理には8割が難色を示した。まさに総論賛成、各論反対。(略)地震列島に住む私たち。首都直下型地震など、いつどこで大きな地震に見舞われるか分からない。『共助』は事前の備えだけにあるのではない。お互いさまの『すけっこ』精神を、がれき処理にも生かせないか」。

《支援を》秋田「『無駄なものは造らない』との方針から、復興交付金の1次配分額は要望の6割にとどまった。宮城県の村井嘉浩知事が『われわれが信用できないのならば、国が全部やればいい』と憤るのはもっともだ。国にはもっと被災地に寄り添う姿勢があってしかるべきだ。今は千年に一度の非常時である。従前の補助金審査のような処理をしていては被災地の信頼を失うだけだ」、山陽「自分に何かできることはないか。そう思っている人も多いだろう。募金や被災地の産品購入などの機会は身近にある。さらに、もう一歩踏み込んだ支援として企業の再建を1口数万円の出資で支える『市民ファンド』もある。被災地では今、仕事がないため若い人が古里を離れる事態が懸念されている。地場産業の再生は最優先で応援せねばならない。(略)『忘れはしない』とのメッセージを岡山から伝え続けていきたい」、熊本「故郷を汚染され、破壊された福島の不条理は水俣病問題にも重なる。福島県民が抱いている怒りと悲しみを、私たちも共有できるはずだ。福島の問題を決して一地域の問題として切り捨てさせない。熊本からそうした声を上げ続け、福島との絆を結んでいきたい」。

本格復興に向け前へ

《国のかたち》福井「大震災が浮き彫りにした政治の危機的現状が二つある。一つは政権の危機管理・対処能力の欠如。いま一つは与野党が協力できない政治の劣化だ。政治主導を掲げた民主党は官僚組織を活用できず、震災発生後の菅政権は迷走して危機対応が後手に回った。(略)特に政治は何をすべきか与野党が真剣に考えてほしい。失った信頼の回復、本格復興と原発事故対応に必要なこと。大震災を機に日本の将来像を描き直す骨太の論議に今こそ取り組むべきである」、新潟「大震災はこの国の弱点をことごとくあぶり出した。その一つ一つを検証する作業は始まったばかりだ。最大のものは原子力発電所の事故であらわになった。制御不能に陥った巨大技術の危うさであり、それに寄り掛かって築き上げられてきた経済社会の不安定さである。地震国日本の基盤に置かれていたはずの防災対策が、実は穴だらけだったことも衝撃的だった。(略)日々の暮らしや経済、政治が根底から揺らぎ、国の仕組みそのものの再構築が迫られた。しかも、今も進行中の危機なのだ。そのことを深く心に刻みながら、着実に前に進みたい」。(審査室)

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