2012年 4月17日
検察の「病弊」根絶を

特捜部証拠改ざん事件判決をめぐる社説
改革徹底し信頼回復図れ

大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件で、犯人隠避罪に問われた元特捜部長大坪弘道被告(58)と元副部長佐賀元明被告(51)の判決公判が3月30日、大阪地裁で開かれ、それぞれ懲役1年6月、執行猶予3年が言い渡された。岩倉広修裁判長は「検察組織への社会的信頼を大きく損ねた責任は重い」と指摘。「犯行は組織の病弊ともいうべき特捜部の体質が生み出したともいえる」と述べ、異常な捜査を生んだ特捜部の組織体質を批判した。両被告は即日控訴した。「特捜部の犯罪」を論じた34本の社・論説から。

取り調べの可視化進む

《病弊を断罪》日経「判決は『部下の元検事からデータ改ざんの報告を受けた佐賀元副部長が大坪元部長に報告し、故意の改ざんを過誤とすり替えた』と隠蔽行為を認定した。特捜部検事による証拠改ざんという大事件を、特捜部幹部がもみ消す。まさに『特捜部の犯罪』である。検察の信用失墜は極まったというべきだろう」、読売「判決は、『中央省庁の局長を逮捕した以上、有罪を得なければならないという偏った考え方が根付いていた』との見解を示している。こうした組織体質こそが、無実の厚生労働省元局長、村木厚子さんを無理やり有罪にしようという異常な捜査を生んだのだろう」、産経「被告の無実を証明する証拠を検事が改竄(かいざん)し、上司が犯行を隠蔽(いんぺい)するという、信じがたい犯罪だった。(略)検察当局には強く反省を求めたい。だが、それで検察が弱体化するようなことがあってはならない。判決を、正しく強い組織に再生する契機としてほしい」。

《捜査不信》北海道「威圧的な取り調べや自白誘導、調書の虚偽記載などの不祥事がその後も各地で報告されている。信頼回復に向けて再出発したはずが、どうしてこうなるのか。まずは供述偏重の姿勢を変えることだ。検事一人一人が客観証拠を重視し、積み重ねていくという捜査の基本に徹することから始めてもらいたい」、上毛・日本海など「小沢一郎民主党元代表が強制起訴された資金管理団体『陸山会』の収支報告書虚偽記入事件をめぐり、元特捜検事による虚偽の捜査報告書作成が発覚。大阪府警の警部は証拠品を捏造(ねつぞう)した。捜査に対する国民の不信は深刻だ」、朝日「(証拠改ざんを)個人の資質のせいにして済ませられる話ではない。問題は検察の体質そのものにもあったのではないか。不都合な証拠に目をくれず、あらかじめ描いた構図に沿って捜査を進め、否認しても聴く耳をもたない。村木さんの冤罪(えんざい)を生んだ背景には、そんな捜査手法があった」。

《全面可視化》中日・東京「取り調べの録音・録画の試行も始められ、特捜事件のほぼすべてで実施、そのうち約四割が全面可視化である。現場からは『自白が得られにくい』などの不満があるというが、適正捜査を志す以上、後退はあり得まい」、南日本「取り調べの可視化については、検事総長が積極的な実施を指示したことから、裁判員裁判対象事件や特捜事件に加え、知的障害者が容疑者の事件に可視化が導入され、全過程の可視化も増えた。ただ、次から次に不祥事が出てくるようでは、どれだけ立派な改革を進めても信頼回復にはほど遠い」、信毎「改ざんが発覚してから、検察は組織改革に乗り出している。取り調べを録音・録画する『可視化』も、その一環だ。自白の強要や誘導を防ぐ上で大切だけれど、一人一人の検察官の意識が変わらなければ、不祥事の連鎖を絶つことはできないだろう」、北國「特捜部や特別刑事部の被疑者取り調べで録音・録画も試行している。始まったばかりのこれらの改革を徹底し、検察理念の血肉化に努めてもらいたい」。

「公益の代表者」自覚せよ

《再生への道》京都「検察改革はまだ入り口にあるといわざるを得ない。まずは、『検察一家意識』を支える検察官で固めた硬直した法務人事を改めるべきだ。検察組織に弁護士や法律研究者ら外部の人材を登用することから始めるしかない。絶大な権力を握りながら、外部の批判が届かない、批判を聞こうとしない組織は必ず腐敗することを忘れてはならない」、毎日「最も大切なのは、『公益の代表者』としての検察官の役割を原点に返って自覚することだろう。検察官は、逮捕や起訴といった強大な権限を持つ。昨年定めた『検察の理念』では、権限行使が独善に陥らないこと、謙虚な姿勢を保つべきことなどをうたった。まさに、今回の地裁判決の指摘と重なる部分だ」、愛媛「検察や警察が、十分な法と証拠に基づかず、自ら描いた事件の『構図』に沿うよう、自白を引き出す。裁判所も結果的に、こうした手法がもたらすゆがみを追認する―。こうした司法全体のあり方を、今こそ抜本的に見つめ直さなければ『病弊』の根絶など到底望めない」。(審査室)

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