2012年 5月15日
政治的責任を問う

小沢元代表の無罪判決をめぐる社説
検察にも厳しい視線

資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で強制起訴された小沢一郎民主党元代表に対し、東京地裁は4月26日、無罪を言い渡した。小沢氏の虚偽記載への関与を認めつつも共謀の立証は不十分としたが、検察官役の指定弁護士は控訴した。判決を受け、民主党は同氏の党員資格停止処分を解除。党内対立激化で、消費税増税法案成立をめざす野田首相は厳しい政権運営を迫られる。約110本の社・論説が取り上げた。

「灰色」の印象は拭えず

《灰色》中国「共謀の疑いもあるが刑事責任を問うまでには至らない―。裁判長はぎりぎりの判断をしたようだ。『疑わしきは被告人の利益に』を貫いたといえる。弁護側は『完全な無罪』と胸を張った。しかしこれでは『灰色』の印象は拭えまい」、日経「『疑わしきは罰せず』を地で行く判決だろう。(略)判決は元秘書らによる巨額資金の簿外処理や、小沢元代表への報告・了承の事実を認定しながら、元代表本人の刑事責任は問えないと結論づけた。全体として『灰色』だが、罪に問われるような『黒』ではないということである」、福井「判決の文脈は、小沢氏が声高に訴え続けた『潔白』というより、『灰色』との印象は拭えない。刑事責任は免れても政治的責任はある。肝心な4億円の出所など明確な説明を求めたい」。

《断罪》琉球「小沢一郎民主党元代表への判決で、東京地裁は無罪を言い渡し、検察の手法を厳しく批判した。供述を検察が『ねつ造』したことが明らかになったからだ。(略)断罪されたのは検察の体質そのものと言える。もはや検察の調書は信頼できない。取り調べを全面可視化するほか信頼回復の道はない、と法務当局は認識すべきだ」、朝日「捜査段階の供述調書の多くが不当な取り調べを理由に採用されなかったばかりか、検事が実際にはなかったやり取りを載せた捜査報告書まで作っていた。あってはならないことだ。法務・検察は事実関係とその原因、背景の解明をいそぎ、国民に謝罪しなければならない。『検察改革』が本物かどうか、厳しい視線が注がれている」、産経「判決は、虚偽報告書が作成された理由、経緯などについても検察庁で調査、究明するよう求めている。検察の大失策が判決に与えた可能性も否定できない。大阪地検特捜部の郵便不正事件と合わせ、検察当局には猛省を求めたい」。

《不備》北日本「秘書が政治資金規正法に違反したにもかかわらず、その政治資金を使う政治家本人が責任を問われないのであれば規正法の趣旨にかなう効果があると言えるのか。不備を見直し、公職選挙法のように連座制の導入を検討すべきだろう」、京都「政治資金規正法の限界も明らかになった。公職選挙法のように連座制規定がなく、不正な会計処理があっても政治家本人の責任を追及しにくい。政治資金の透明化に向け、法改正を検討すべきだ」。

《是非》福島民報「強制起訴に導いた検察審査会の在り方も問われよう。検察が再度不起訴にした事件に対して、冷静な判断ができたのか。小沢元代表を最初から『悪者』のイメージに決め付けた先入観はなかったか。あぶく銭を手にする者を罰したい―という庶民の感覚は分かるが、法治国家としてルールの瑕疵(かし)はないのか。『一時的なムード』に染まりやすい国民性と無縁ではなかったような気がする」、中日・東京「一審無罪の小沢一郎民主党元代表を検察官役の指定弁護士が控訴するのは疑問だ。そもそも検察が起訴を断念した事件だ。一審無罪なら、その判断を尊重するよう検査審査会制度の改正を求めたい」、神奈川「判決を受けて強制起訴制度の見直し論が浮上しそうだ。市民感覚を司法に生かす改革の一環として、制度の意義が揺らぐことはなかろう。ただし、審査員が検討に用いる資料の公正性の確保など、改善すべき課題も今回の裁判で浮き彫りになった。幅広い視点から冷静な議論を求めたい」。

消費増税反対なら離党を

《政局》北海道「無罪判決を契機に党内の主導権争いが激しくなる可能性があるが、主眼はあくまで政策論議に置くよう求めたい。小沢元代表は野田佳彦政権をいたずらに揺さぶるべきではない。野田首相は『国民の生活が第一』と掲げた政策実現のため元代表と率直に話し合い、党の結束を図るべきだ」、読売「小沢氏は、党員資格を回復する以上、党の方針に従うのが当たり前だろう。それでも(消費税増税)法案に反対を貫く、というのであれば、離党するのが筋である」、毎日「元代表が有罪か、無罪かの問題と消費増税の是非とは本来、まったく関係がない話だ。民主党は何度も消費増税方針を決定し、既に法案を国会に提出している。元代表らがあくまでも反対だというのなら、もはや離党するのが筋ではないか」。(審査室)

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