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2013年 1月29日
信頼に関わる問題相次ぐ

2012年の新聞報道と紙面企画の状況
震災復興に向け多様な企画

2012年は、誤報や写真の誤配信など報道の信頼に関わる問題が相次いで起こったほか、死刑が確定した元少年の報道で、実名か匿名かで報道機関の判断が分かれた。紙面刷新では、東日本大震災を踏まえた企画のほか、前年に続き子供向け紙面の拡充に取り組んだ社が多かった。

元少年報道で判断割れる

《誤報》人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床応用が実現したとする森口尚史氏の説明を読売が10月11日付朝刊1面トップで「iPS心筋を移植 初の臨床応用」として先行。共同も読売の報道を追う形で同様の記事を配信、東京、産経大阪、北海道など複数の新聞社が夕刊1面で掲載した。その後、説明が虚偽であったことが判明、各社はおわび記事とともに検証結果を掲載した。一方、朝日、毎日、日経、時事は事前取材で森口氏の説明に不審な点が浮かんだことなどから報じなかった。

《写真の取り違え》大分県日出町の女児不明事件で、2月5日に死体遺棄容疑で母親の江本優子容疑者が大分県警に逮捕された。共同は同日夜、江本容疑者と女児の写真を配信したが、ともに別人だった。41紙が6日付朝刊や夕刊に掲載した。兵庫県尼崎市の連続変死事件では、複数の報道機関が、角田美代子被告だとして別の女性の顔写真を掲載・放送した。読売や毎日はおわび記事を掲載するとともに11月1日付朝刊で経緯を説明、共同も10月30日、写真を取り消し、取材経緯を配信した。共同の誤配信は産経東京など30紙以上が掲載した。NHKや民放各局も30日以降、番組内で訂正、謝罪した。いずれも社内での原稿の確認体制の不備や関係者への取材不足等が主な原因であった。一方、朝日、日経、東京、産経大阪、神戸は関係者への取材で本人との確認がとれず掲載しなかった。

《実名・匿名》1999年に山口県光市で起きた母子殺害事件の差し戻し控訴審で死刑判決を受けた犯行時18歳1か月の元少年の上告審で、最高裁は2月20日、被告側の上告を棄却し、死刑が確定した。報道各社はこれまで、将来の更生や社会復帰を阻害しないよう、本人の特定につながる報道を禁じている少年法の趣旨を踏まえ、少年を匿名で報じてきた。報道各社は最高裁の上告棄却の判断を受け、元少年の実名を報じるか匿名を維持するかで判断が分かれた。朝日、読売、日経、産経は実名に切り替え、共同、時事も実名を伝えた。読売と産経は顔写真も掲載した。NHKや民放キー局も実名に切り替えた。事案の重大性、国家によって生命を奪われる刑の対象者は明らかにされるべき、死刑が確定すれば更生(社会復帰)の機会がなくなる、というのが理由であった。一方、毎日、東京、西日本は死刑が確定しても再審や恩赦の制度があり、元少年の更生の可能性が消えるわけではない、少年法の理念を尊重し、原則を変えるべきではないとの理由で匿名を維持した。また、8月31日夜に東京・渋谷のライブハウスでガソリンをまいた23歳の男が殺人未遂容疑で現行犯逮捕された事件で、毎日、読売、産経は、容疑者の少年時代の前科・前歴を掲載した。一方、朝日、日経、東京は掲載しなかった。そのほか、大津のいじめ自殺報道では、学校や教育委員会に警察が家宅捜索に入ったことを理由に東京のみ中学校名を報道した。

《指摘件数》新聞協会審査室が新聞倫理綱領、新聞広告倫理綱領の精神に照らし、協会会員の紙面に掲載するのは不適当と判断した2012年の総指摘件数は159件で、前年(522件)を大きく下回った。内訳は写真が49件、イラスト・漫画が110件だった。

子供向け紙面を拡充

《震災復興に向けて》東日本大震災からの復興に向け被災3県の各紙はさまざまな企画で被災者を勇気づけ、防災意識の向上に取り組んだ。河北は毎月11日付朝刊に見開きで「防災・減災のページ」を連載、岩手日報は被災地に焦点を当てるため地域面を再編した。福島民報は県内でボランティア活動に取り組む人々を紹介するなど復興活動を後押し、福島民友は「ふたばネット」を始め、県内外に避難している人向けに地域の話題や避難者の情報を伝えた。

《NIE企画》新聞活用を盛り込んだ新学習指導要領の中学校での実施を受け、中学生を対象とした紙面作りに取り組んだ社が見られた。朝日は4月から「新聞でまなぶ」面を見開きに拡充、西日本も同月から朝刊で「もの知りタイムズ」を新設した。四国、佐賀、宮崎日日は5月、新潟は9月に子供向け別刷り新聞を発行した。そのほかにも子供向け紙面を充実した社が複数あった。さらに、琉球は4月に「就活面」を新設、北海道も10月16日から「はたらく・COM(ドットコム)」を始め、就活に関する情報を提供している。(審査室)

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