2013年 3月5日
強制起訴、課題多く

明石市雑踏事故の免訴判決をめぐる社説
真相究明には大きな役割

兵庫県明石市の花火大会の雑踏事故(2001年7月、死者11人)で、検察審査会により強制起訴され業務上過失致死傷に問われた県警明石署副署長に対し神戸地裁は2月20日、時効成立を認め免訴を言い渡した。これまで強制起訴は7件で一審判決が出た4件のうち無罪2件、免訴、有罪各1件となり、32本の社・論説は制度の意義を認めつつも改善を求める論調が多かった。

元副署長に事実上の無罪

《実質無罪》読売「裁判を打ち切り、元副署長を事実上、無罪とする判決である。元副署長は、警備の現場責任者だった明石署の元地域官(実刑確定)と共犯関係にあったとして、検察審査会の議決により、業務上過失致死傷罪で強制起訴された。(略)判決は、強制起訴された10年4月の時点で、時効(5年)が成立していたと判断した。時効が成立していれば、免訴とするしか選択肢はなかったと言える」、南日本「神戸地裁は判決で、時効成立を理由に裁判を打ち切っただけではない。元副署長の刑事責任を完全否定し、事実上の無罪も言い渡した。要するに、強制起訴は一蹴されたことになる」、北國「指定弁護士は控訴の方針を示しているが、共同正犯の立証は当初から難しいと見られていた。殺人や窃盗など故意の犯罪と違い、過失の罪で共犯関係を認めた判例は少ないからである。(略)共犯関係の認定といった専門的な法律判断を検察審査会が行うことの当否を問う声も出ている」、神戸「警備計画で元副署長は『総括指揮』の立場にあったが、判決は単独の過失も元地域官との共同過失も認めなかった。(略)しかし、『元副署長は元地域官とともに事故を防止する共通の注意義務があった』としたのが検察審査会の議決内容であり、判決が踏み込んでいないのは物足りない」。

《意義》朝日「法廷で初めて明らかになった事実も少なくない。だれが歩道橋の通行規制の必要性を判断するのか。主催者の市側と警察の連絡態勢は心もとないものだった。現場での警察官の具体的な行動計画も定められていなかった。(略)強制起訴の結果、警察の責任を幅広く見つめ直すことができ、事故から10年以上をへてようやく問題の背景を浮き彫りにできたのが、この裁判だった」、京都「判決後に会見した遺族からは『悔しい』の怒りとともに、『事実を知りたいという思いには応えた裁判だった』との声も聞かれた。(略)公判では遺族が意見を述べた。現場のビデオ映像が上映され、警備計画策定のやりとりも初めて明らかになった。検察が起訴権限を独占してきたことに風穴をあけた意義は大きい」、信毎「裁判では、事故の7か月前に同じ会場で開かれた年越しイベントの際、『パニック状態だ』『警察官が来ない』といった通報が殺到していたこと、暴走族対策のため当初29人を予定していた雑踏警備が16人に減ったこと、などが明らかになった。混雑に対する明石署の認識の甘さがうかがえる」、産経「生活の党代表の小沢一郎氏が強制起訴された政治資金規正法違反事件でも無罪が確定したが、公判は、政治家本人の罪を問うことが極めて難しい規正法の不備をえぐり出した。いずれも、検察官による不起訴で終わっていれば浮き彫りにはならなかった」。

検察審の透明性高めよ

《課題》日経「検察の独善を防ぐという理念は理解できるが、やはり設計に無理があるのではないだろうか。(略)明石の事故を含め、強制起訴には検察と違う立場で『法廷で真相を明らかにする』といった理由が目立つ。だが、あくまで裁判は被告の刑事責任を明らかにする場である。強制起訴の導入で検察の起訴との二重の基準が併存していることになり、長期間裁判の対応を迫られる被告の負担も大きい」、毎日「事故から8年を過ぎて被告となった元副署長は退職後の職を失うなど負担は大きかった。被告に苦痛を強いるのに、審査員に法的助言を与える弁護士がどう説明したのか、どのような資料をもとに議決したのかなど審査内容がわからない。審査過程を検証できるよう透明性を高め、審査対象者が反論する機会を義務化することなどを検討してはどうか」、中日・東京「検察審の場で、まず被疑者に弁明の機会を与えることだ。審査補助員という弁護士も一人では足りない。仮に法的なアドバイスに偏りがあったら、市民は誤った判断に陥る可能性があるからだ。密室状態の検察審でいいのかという課題もある」、北海道「注意しなければならないのは市民感覚を尊重しつつ、容疑者の人権に十分配慮する必要があることだ。真相究明や再発防止を過度に期待すれば、刑事責任を明らかにすることを目的とした刑事司法制度をゆがめかねないからだ」。(審査室)

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