1. 日本新聞協会トップページ
  2. 声明・見解
  3. NHKの在り方に関する総務省「論点整理」に対する意見

NHKの在り方に関する総務省「論点整理」に対する意見

2001年11月8日
社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会

はじめに

総務省が10月18日に発表したNHKに関する「論点整理」に対し、以下に新聞界の意見を述べます。

まず「論点整理」の各章について意見を述べる前に、この「論点整理」の位置づけとパブリックコメント募集の在り方について、基本的な問題点を指摘しておかなければなりません。

新聞界はこれまで機会あるごとに、公共放送・NHKの問題は日本の将来のメディア環境、ひいては民主主義の健全な発展に重要な影響を及ぼす事項であり、NHKの役割や業務範囲などを含めデジタル時代のあるべき姿を幅広く検討すべきであると訴えてきました。ところが、今回の論点整理はNHKの子会社とインターネットへの参入問題というきわめて限定的な範囲についてしか扱われておらず、ここからはNHKのあるべき姿は見えてきません。また、検討対象期間を3年間と区切っていますが、本来はNHKについての長期展望を描いた上で、当面の政策を考えるのが妥当と考えます。

さらに、貴省が「論点整理」のなかでも触れられているとおり、NHKの在り方については貴省の局長の私的諮問機関である放送政策研究会が継続的に審議を重ねてきたはずです。新聞界はかねて局長の私的諮問機関では位置づけが明確ではなく、国民的な議論の場にはふさわしくないと指摘してきたところですが、その研究会の結論も出ていない段階で、行政機関が整理・まとめを行い、パブリックコメントを募集するというのはきわめて異例であり、不自然なことと考えます。諮問機関の結論・答申を受けて行政機関が具体的な政策を立案し、その内容についてパブリックコメントを求めるというのが本来あるべき手順ではないでしょうか。仮にその検討段階で国民の意見を募るとしても、それは放送政策研究会が主体的に行うべきことです。貴省が行政機関としての責任の下に明確な方向性を打ち出すこともなく、両論を掲げて一般から意見を求めるという中途半端な方法が妥当なものだとは到底考えられません。今後、貴省がNHKの在り方に関する具体的な施策を実施する際には、その施策を電波監理審議会などに諮問し、あらためてパブリックコメントを求める必要があることを指摘しておきます。

「論点整理」の内容にも問題があります。賛否両論があるといいながら、方向としては肥大化を続けるNHKの現状を追認し、既成事実を後追いする形のものとなっています。しかも、貴省は既にNHKのインターネット利用(とくにニュース配信)を容認してほぼ1年が経過する今日になって「検討すべき課題と方向性」を整理しようとしていますが、本来は方向性が整理され、NHKのインターネット利用が認められたうえで開始されるべきであり、客観中立的に判断すべき行政機関の手続きとしては本末転倒と言わざるを得ません。インターネット業務に対し、法制度、産業政策、民主主義のいずれの点からも根底的な疑問が提示されている以上、結論が出るまでは業務を凍結するのが、行政機関として必要なことではないでしょうか。にもかかわらず、これを凍結することもなく、なし崩し的に追認する結論に導こうとしているのは大変遺憾です。

放送政策研究会が範囲や期間を限定して検討していることに加え、「論点整理」の内容にもこれから述べるように納得できない部分が多くあります。こうした問題点を解決するために、NHKのあり方を幅広く検討する国民的な議論の場を設けることをあらためて要望します。

第1章 我が国の放送における二元体制について

「論点整理」は、公共放送と民間放送の二元体制を評価し、それを維持することを前提に今後の方向性を検討していますが、現状の二元体制は本来想定されていた姿とは異なるものになっていると言わざるを得ません。なぜなら、現在のNHKは本来公共放送として担うべき役割、業務範囲から逸脱し、民間に委ねるべき分野にまで事業参入して、さまざまな問題を生じさせているからです。こうした現状は小泉内閣が掲げる「民にできることは民で」という方針に逆行します。このままNHKの業務拡大・肥大化、民業圧迫の現状を放置すれば、例えば、「論点整理」の中で二元体制の目的の一つに掲げている「放送における言論表現の多様性・多元性を確保し、健全な民主主義の発展等に寄与」を損ねる重大な結果を招きます。

その意味からも、NHKの役割・業務範囲の明確化が重要と考えます。行政改革推進事務局が8月10日、「特殊法人等の個別事業見直しの考え方」で示した「民間と競合する新たな業務の拡大を抑制する仕組み」に関して、この「論点整理」ではインターネットや子会社等の問題にのみ言及するだけであり、十分ではありません。政府の規制改革委員会から出されている、NHKの保有メディアの在り方、受信料制度の在り方、民間事業者との公正競争条件等に関する問題提起については、まったく触れられていません。このようにNHKの役割・業務範囲を明確化することなしに現状の二元体制を是認し、今後の放送制度を議論することには大きな疑問があります。

二元体制を今後も維持する場合には、NHKは放送を業務とする特殊法人として公共放送の基本に戻る必要があります。「肥大化ではない」「民業圧迫はない」「あらゆるメディアを使う」などとして、公共放送の立場から踏み込んだ行動をとり続けるならば、二元体制の根本的な見直し・検討が必要と考えます。規制改革委員会でも「二元体制を見直すべき」との指摘があります。

また、「論点整理」では諸外国の放送事情としてイギリス、フランス、ドイツの事例が紹介されていますが、アメリカなどの事情には触れられていないなどの偏りが見られます。結論を誘導するために都合のいい事例を列挙したのかとの疑問を抱かざるを得ません。英国BBCとNHKが似て非なるものであるように、放送制度は各国固有の発展の経緯、放送・通信環境、政策があって出来上がってきたものです。単純に諸外国の事情を拠り所としてわが国の放送制度を論じるわけにいかないことは言うまでもありません。

第2章 NHKの子会社等の在り方

「論点整理」では、NHKの子会社等の在り方に関して記述されていますが、まず問題点として指摘しておきたいのは、それら子会社・関連会社等の実態を把握するシステムが貴省において確立されていないことです。受信料をもとに子会社が他へ出資している企業数、その名前等は十分に明らかにされず、どのような業務にまで及んでいるのか不透明です。根本的な解決策は、正確な状況把握なしにはありえません。海外でのホテル経営や子会社による携帯電話での有料情報配信サービスなど、設立の趣旨から逸脱した実態を含めて現状を明らかにし、そのうえで措置を講じなければ、規制の実効性を検証することもできません。

また、子会社設立の目的としてNHK業務の効率性確保とともに、副次収入等による視聴者負担の抑制という観点もあげられていますが、実際に本体へ還元されている金額からは、現在の子会社等が負担抑制に寄与しているとは言えません。

NHKの子会社等の業務範囲については当然規制すべきものと考えます。

公共放送の本来業務はNHK本体が行い、それ以外の、民間と競合する業務は民間によって行われることが基本と考えます。さまざまな民間企業が成長、拡大している現状では、仮にNHKが子会社等により取り組むべき業務があるとしても、その範囲は極めて限定されるべきです。子会社・関連会社等を早急に整理・統合したうえで、民業圧迫がなくなるようにする必要があります。

とくに、公共放送の目的を達成するために出資が認められている子会社・関連会社等の業務範囲は、放送法の目的に沿うものでなければならないのは当然です。本体でできないことは子会社でもできないのは明白であり、制度として明確にすべきです。「論点整理」にある「NHKが実質的な支配権を有している子会社等」や、「出資比率からみてそれほどではないが、NHKが人事、資金、技術、取引等を通じてその業務の方針に重要な影響を与えることができる関連会社等」、いずれの場合も出資対象事業の範囲内とする規制は例外なく実施することを求めます。

「業務運営の公正性、適正の確保」の契約関係については、行政改革推進事務局が指摘した「子会社等との随意契約は他に委託先がない場合に厳に限る」との考え方を支持します。業務委託について、「論点整理」では、NHKが改善に向けて自己評価をすることになっています。しかし、これまでも競争契約が原則になっていたにもかかわらず随意契約の比率が高い状態を続けてきたNHKに、適正な自己評価を期待することはできません。競争契約については、NHKが「業務の専門性、特殊性等」を理由に、実際に行わない可能性があることから、数値目標の設定(例えば「5年以内に80%を競争契約とする」など)が必要です。

子会社等については、一層の透明性確保を早期に行うことが必要です。業務範囲の明確化とともに、情報公開のルール等の具体化、監視機能の整備・強化を求めます。子会社・関連会社等は民間企業とはいえNHKの受信料から出資を受けており、その在り方が厳しく問われるのは当然のことです。

「論点整理」では、NHKの自主的な情報公開を評価して、当面、実施を注視するとしていますが、情報公開制度が始まった中央官庁の水準にさえ達しておらず、これをNHK肥大化の歯止めと評価することはできません。他の特殊法人と同様、経営に関する情報については、現状以上に広範囲に公開すべきだと考えます。連結決算や外部の監査法人による会計監査の繰り上げ実施は当然のことです。これに加え、形骸化した経営委員会や監事制度の見直しなども急務です。

さらに、出資比率20%未満の法人に関する業務報告書への記載の基準、連結決算の対象などについても、実効性ある具体的なルールづくりを求めます。

実効性を確保するためにはチェック体制の整備が不可欠です。また、受信料の使途を明確にする観点から、国会に提出するだけでよいNHKの決算を国会承認案件とする等の方策を求めます。

以上の諸点について、規制の指針を明示し、貴省において責任をもって対応する実効性のあるシステムを求めます。いまや検討の時期ではなく、ただちに実施すべき時期であります。

第3章 NHKのインターネット利用

この「論点整理」は、「NHKは何ができるか」という論点に偏っており、「インターネット市場はどのように発展するべきか」という、通信政策上の重要な視点が欠けていることをまず指摘しておきます。強制的に徴収する受信料という財源を得ているNHKは、政府の補助金を受けていることと同様であり、民間企業とは競争条件が違いすぎます。このため、そのインターネット利用は、民間サービスの発展・競争を阻害することのないように、「基本的に制限されるべき」というのが原則でなくてはなりません。したがって、多数の民間企業がしのぎを削っているインターネット分野に、NHKが参入する必然性はないと考えます。すでに民間企業により市場が形成されているこの分野では、技術や普及の面でNHKに先駆的な役割を担ってもらう必要もありません。

NHKの新たな分野への参入については、旧郵政省の「放送政策懇談会」の1987年4月の報告書でも「NHK以外の者のみでは当初におけるそれらの事業化あるいは普及が困難であり、NHKがその設備、ノウハウ、収支スケールを生かして参入することが、その後のNHK以外の者の参入を容易にするものであること」と指摘されており、この考え方はいまも有効であると考えます。

NHKのインターネット進出については、昨年3月の国会答弁で八代英太郵政相(当時)が「放送法の改正がどうしても避けられない」と表明しました。にもかかわらず、昨年12月から、放送法の「付帯業務」との拡大解釈でNHKのインターネットでのニュース提供が開始されました。これはなし崩し的な事業拡大であり、そもそも放送法に反し、NHKの本来目的から逸脱するものです。さらに、「付帯業務」の範囲内であれば可能との基準を示しましたが、基準が曖昧な上、その範囲内にあるかどうかを総務省が十分に監視していない現状では、その基準の実効性も期待できません。そして今回、これまでの矛盾を真摯に顧みることもなく、「一般論として社会的に有用」との認識を根拠にNHKのインターネット進出を認めようとしています。一貫性を欠く恣意的な判断が続けられていると指摘しなければなりません。したがって、「はじめに」でも指摘したとおり、結論が出るまでは業務を凍結するのが行政機関として必要です。

情報公開や透明性確保という観点から、NHKがインターネットのホームページで経営情報等を公開・開示することが仮に受け入れられるにしても、「独立情報」を掲載するなどは論外です。放送コンテンツの2次利用についても、これまで新聞界が指摘してきたとおり、その定義が曖昧で、的確なチェックも行われておらず、多くの問題があると言わざるを得ません。

この「論点整理」は、情報の形態、財源の在り方については、項目立てをして検討していますが、一番重要な情報内容については分析がなく不十分です。「民間との競合が少ない分野、公共性の高い分野」といっても、特定が難しく、公共性の名のもとに既成事実が積み重ねられるのは、過去の示すところです。仮に、インターネット業務を限定的に行わせるにしても、公共性という言葉だけでなく、例えば、例示されている「ニュース、教育、福祉の分野」の情報は民間でも提供しているのですから、より限定列挙しなければなりません。例えば「災害に関する情報」といった表示の仕方です。当然、ニュース等のように民間でも提供している分野をNHKが行うべきではありません。仮に災害情報のみの情報提供が認められたとしても、そのためのきちんとした「ガイドライン」を作成し、その順守が必要です。

「NHKが保有するコンテンツの活用」については慎重な対応が必要です。

NHKが保有する豊富なコンテンツは、受信料を支払っている国民共有の財産であり、一特殊法人であるNHKのものではありません。「論点整理」では、コンテンツ活用の仕組みが明らかにされておらず、判断材料が十分ではありませんが、民業圧迫につながるコンテンツ活用ならば認めることはできません。NHKの保有するコンテンツの有効活用は重要であるとはいえ、放送法に反する業務拡大が進むのではないかとの危惧があります。

NHKのコンテンツは基本的には視聴者に還元されるべきものと考えます。しかし、ブロードバンド時代において、NHK・子会社が直接的にコンテンツを還元することについては、通信業務等へのなし崩し的な業務拡大、肥大化にもつながることなどから、NHKのインターネット進出と同様の理由で反対を表明せざるを得ません。

さらに、NHKのコンテンツが国民の共有財産であるとの名目で、NHKおよびその関連会社が通信社業務へ進出することにつながるような「卸」提供は認められません。

今回の論点整理には盛り込まれませんでしたが、NHKはすでに地上放送、BSアナログ放送、BSデジタル放送さらにラジオと、公共放送の役割を果たすための十分以上のチャンネルを保有しています。地上波では、デジタル化に際して関東で新たに県域チャンネル確保の動きもあり、放送分野での肥大化も大きな問題です。

以上

ページの先頭へ