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記者クラブ制度廃止にかかわるEU優先提案に対する見解

2003年12月10日
社団法人日本新聞協会
記者クラブ問題検討小委員会

情報のグローバル化が加速し、日本国内での出来事に関する外国メディアの関心も年々高まっています。そんな中で2002年10月と翌2003年10月に、欧州連合(EU)の駐日欧州委員会代表部が日本政府に対して提出した「日本の規制改革に関するEU優先提案」に、日本の記者クラブ制度の廃止が盛り込まれていました。

EUの優先提案は

  1. 外国報道機関特派員に発行されている外務省記者証を、日本の公的機関が主催する報道行事への参加認可証として認め、国内記者と平等の立場でのアクセスを可能にすること。
  2. 記者クラブ制度を廃止することにより、情報の自由貿易にかかわる制限を取り除くこと。

の2点です。

 Aは日本政府に対する要望であり、日本新聞協会は異論を差し挟む立場にありません。しかし、Bの「記者クラブ制度の廃止」は日本の報道機関の役割に密接にかかわることであり、無視できない問題です。このため、新聞協会としても02年11月、「記者クラブ問題検討小委員会」(編集委員会幹事社15社の編集・報道局次長、部長らで構成)を改めて設置し、提案の前文で指摘された事例についての調査を実施するとともに、これまで10回にわたる会合で率直な議論を交わし、検討を重ねてきました。その結果、小委員会がまとめた見解を公表します。

 その歴史的背景から生まれた日本の記者クラブ制度は、現在も『知る権利』の代行機関として十分有効に機能しており、廃止する必要は全くないと考える-これが小委員会メンバーの一致した意見でした。記者クラブをより開かれたものにするため、新聞協会はさらに努力を重ねます。

 日本の記者クラブは、情報公開に消極的だった議会や行政といった公的機関に対し結束して情報公開を迫るという役割を、100年余にわたって担ってきた。現代においても言論・報道の自由と国民の知る権利を保障するため記者クラブの存在意義にいささかも変化はない。

 加えて記者クラブは、(1)公的情報の迅速・的確な報道(2)人命人権にかかわる取材・報道上の整理(3)市民からの情報提供の共同の窓口―といった機能も持っている。

 記者クラブは、公的機関などを継続的に取材する報道各社のジャーナリストらによって構成される「取材・報道のための自主的な組織」であり、そのことが報道される情報の質の向上、ひいては的確な報道につながっていると言える。災害関係など特に迅速に伝えるべき公的情報について、その目的を効率良く達成する上で、記者クラブという組織は大きな役割を果たしている。

 また、誘拐事件のように報道が被害者の生命に危険を及ぼしかねない事案においては、秩序ある取材・報道を実現する何らかの協定をメディア側が速やかに結ぶことが求められるほか、大きな事件・事故に際し、当事者や関係者のもとへ多数のメディアが殺到、プライバシー侵害や多大な精神的苦痛を与えてしまうおそれがあるような場合は、現場の記者たちで解決策、予防策を探る必要が生じてくる。記者クラブは、こうした協定の締結や取材・報道による被害防止などを行う役割も担っている。

 さらに、記者クラブは、市民や市民団体が気軽にメディアにアクセスし、自らの活動に関する情報などを提供できる場になっているほか、大きな事件・事故の際には、当事者らに取材による過度の負担をかけないよう、代表者や代理人が記者会見を行う場所を提供するなどの機能も併せ持っている。

 規制改革に関するEU提案は、「記者クラブ制度は、単一の情報源への過度の依存および情報の照合確認の怠慢を助長し、社会全般が得られる情報の質を低下させている」と言う。しかし、記者クラブが「単一の情報源への過度の依存」や「情報の照合確認の怠慢」を助長しているというのは、何ら根拠がないばかりか、そのような実態も存在しない。

 いうまでもなく、公的機関からもたらされる一次情報そのものでは報道の目的は果たせない。大部分のジャーナリストは、独自の取材と努力で一次情報の内容を深めることに日々努めている。それが報道の重要な使命である。

 記者クラブを否定することは、メディア本来の責務を放棄することにもつながりかねない。まさにそれは「社会全般が得られる情報の質の低下」を意味するものだからである。

 EU提案はまた、「外務省発行記者証を、公的機関が主催する報道行事への参加認可証として認め、国内記者と平等な立場でのアクセスを可能にすべきだ」と言う。

 日本新聞協会は1993年6月10日付で、「外国報道機関記者の記者クラブ加入に関する日本新聞協会編集委員会の見解」を発表し、「記者クラブは、参入を希望する外国報道機関の記者については、原則として正会員の資格でクラブの加入を認めるべきである。公式、非公式記者会見への出席はもとより、取材源への公平かつ平等なアクセスを妨げてはならない」と明記した。公的な記者会見については、02年にまとめた見解で、「記者会見参加者をクラブの構成員に一律に限定するのは適当でない」とした。

 こうした見解を受けて、多数の記者クラブでは、外国報道機関に門戸を開放している。また、実際に官邸クラブなど主要クラブでは、入会した外国報道機関もある。記者クラブ主催の記者会見は、所属する会員以外にも開放されており、外国プレスがいう「排除」「制限」は一方的な見方であるに過ぎない。取材する側に不断の努力が求められているのは、万国共通である。「記者クラブがあるから記者会見の日時がつかめない」といった不満は、実はもっぱら公的機関側の姿勢や記者側のアクセス努力の問題である。

 EUの優先提案は、「公的機関が行う記者会見やブリーフィング、その他のメディア向け行事への参加は、一般的に各機関の記者クラブに所属する会員に限定されている」と主張している。しかし、公的機関が行う記者会見への参加が記者クラブ所属の会員に限定されている、との指摘には根拠がないことはすでに述べた通りである。さらにブリーフィングについては、その由来や趣旨について理解不足と言わざるを得ない。

 ブリーフィングや懇談など、それぞれ呼び方は違っても、基本的に各報道機関や記者が個別に行う取材を、取材対象者の都合で、集団の形で行う取材の形式である。この取材形式は、情報を隠したがる公的機関に対して、記者が集団で圧力をかけ、勝ち取ってきたものであり、たとえ、定例化していても、取材対象者と取材者の間に一定の信頼関係があることが前提となっている。したがって、記者なら誰でも自由に参加できる性質のものではあり得ない。ブリーフィングへの参加を認めるかどうかは、取材対象者が判断することである。

 記者クラブ組織が置かれている取材対象は公共性の高い機関が多い。そこでの記者活動は「公」と「民」を結ぶパイプの役割も果たしており、それは決して「日本のマスコミはお役所の広報紙になっている」といった批判を受ける形態のものではない。我々の視点は常に読者・視聴者の側にあり、公的機関に対しては遠慮なく批判、提言している。記者クラブ制度は、権力に迎合せず、国民の「知る権利」に応えるための横断的な組織であり、日本のジャーナリズムが構築した権力監視の対応策である。記者クラブは「社会全般が得られる情報の質」の向上に深く寄与しており、メディア及びジャーナリストがその責務を果たす上で欠かせない役割を持っている。

 それぞれの国には、それぞれの歴史的背景を持つ取材上の組織、ルールがある。日本の記者クラブも我が国の歴史から生まれ、発展したものである。EU提案は、そうした背景への理解が不足しており、「誤解」と「偏見」「事実誤認」に基づいたものと言わざるを得ない。

以上

(付記)

新聞協会は02年にまとめた見解で記者クラブを、「記者室」=取材・執筆などのためのワーキング・ルーム=という「場」としての概念から切り離した。それ以前は、「場」と「組織」の二つが混在していたために、日本のメディア自身にも混乱が生じ、海外メディアからも誤解される原因となっていたからだ。

 ただし、EU優先提案はこの点を主要テーマとしていないため、今回の小委員会の見解ではあえて、この点には触れなかった。

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