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NHKの「ハイブリッドキャストサービスに係るインターネットを利用したコンテンツ提供業務」に対するメディア開発委員会の意見

2013年10月29日

 「日本放送協会が放送法第20条第10項の認可を受けて実施する『ハイブリッドキャストサービスに係るインターネットを利用したコンテンツ提供業務』の認可申請に対する総務省の考え方」に対する日本新聞協会メディア開発委員会の意見

 日本新聞協会メディア開発委員会は、今般総務省が示した標記考え方に対して、下記の意見を述べる。

全般について

 当委員会はかねて述べてきた通り、NHKだけがインターネットを利用すべきではない、という意見は持っていない。しかし、放送法で規制され、現行の受信料制度で保護されるNHKのインターネット利用は、限定的なものであるべきだという立場にある。なぜならば、①租税に近い受信料制度で成り立ち、放送を主たる業務とするNHKの業務範囲が、「附帯業務」を拡大解釈し、「特認業務」という例外措置でインターネット業務に及び、それが肥大することは法の基本概念をゆがめる、②NHKのインターネット利用が無制限に拡大すると、民間による市場の自立・発展を妨げかねない――と考えられるからである。これらの主張は、公平な競争条件こそが、メディアの多様性、多元性を担保し、国民の情報選択の幅を維持するために必要であるという前提による。 
 貴省「放送政策に関する調査研究会」(放政研)の第一次取りまとめが8月に示され、法整備に向けて行政において検討が進められていることと認識している。同「取りまとめ」では、NHKのインターネット活用業務も含めた放送以外の個別の業務については、NHKが任意業務として実施し得るかどうかを検討する基準として、「公共性が認められること」「放送の補完の範囲にとどまるものであること」「市場への影響の程度」の三つが示された。この点については、当委員会も評価できるものとした。
 これらの観点から、今回の申請に対して意見を述べる。

放送法および受信料制度との兼ね合いについて

 受信料は公共放送を維持するための租税に近い負担金である。NHKが受信料の本旨を忘れ、過度な放送の高度化を模索した結果、その業務範囲が現行放送法の範囲を超えて拡大し、それが視聴者の受信料に跳ね返る、あるいは民間コンテンツ事業者からビジネスチャンスを奪うことになってはならない。
 今回の申請には、放送法の基本理念である公共放送の業務範囲と受信料の使途に必ずしも合致しない内容が含まれている。監督官庁である貴省には、公共放送の業務範囲と受信料の使途をより適正化するという視点から、今回の認可申請に当たっていただきたい。さらに今後の法整備に際しても、留意を求めたい。同時にNHK経営委員会にも、同様の視点から放送・通信の連携について執行部を監督するよう期待する。

「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務」との関係について

 次世代スマートテレビサービス、ハイブリッドキャストの技術開発に当たり、NHKが先導的な役割を果たしていることは理解できる。しかしNHKは前述の通り放送法を根拠に設けられ、受信料制度に支えられた組織であり、通信を使った業務の実施については抑制的な形で行うべきである。
 今回の申請に対して貴省は、ハイブリッドキャスト技術の検証が「放送及びその受信の進歩発達にも資するものであると考えられる」と判断している。しかし、申請内容を検証すると、スマートフォンやタブレット端末などと連携するサービスも含まれており、こうした業務はより通信に近いものとも考えられる。本来業務から外れたインターネットによる「通信」を利用したサービスは、あくまで放送の補完となっているか、市場への影響が限定的になるかを検証した上で、限られた範囲で認可すべきである。

費用について

 NHKは2014年度、ハイブリッドキャストサービスの試験運用に7億3000万円を投入するとしているが、民間感覚では多額の支出である。貴省は「著しく多額とは認められない」としているが、その根拠を示すべきである。
 受信料の多くが一部サービス利用者のためだけに使われることは、国民全員が公共放送を支える受信料の本旨にもとる。NHKによれば、現在普及しているハイブリッドキャスト対応受信機は10万台程度といい、1台あたり7000円(受信料半年分)を費やす計算になる。国内には1億台の受信機があるのに、0.1%の特殊な受信機所有者のために過剰なサービスを提供することは、NHKが自ら公平負担という受信料の大原則を崩すことにつながる。NHKは、視聴者や市場の動向をきちんと把握し、利用者が限られるインターネット事業への進出はやめるべきである。あるいは、対応受信機がある人だけが受けられる付加的なサービスとして、付加料金の導入など受信料制度との関係を整理すべきである。

番組関連コンテンツの提供について

 NHKの申請では、類型5として番組関連コンテンツの提供を挙げている。ここにシステム構築経費や編集作業に携わる人件費など多額が投資されるのであれば、有料提供されてきた分野や未開拓コンテンツの民間市場に影響が懸念される。
 放政研ではNHKのインターネット事業に関し、包括的な「実施基準」をNHKが策定し、認可を受ける方式が提示された。包括的な申請・認可方式では、このような具体的な民間市場への影響は検討から抜け落ちる可能性がある。あくまでも個別具体的な実施内容の申請を求め、審査すべきである。

知見の公開などについて

 仮に今回申請があった業務が実施されたとしても、それは放送及びその受信の進歩発達のための技術的検証が目的であり、ハイブリッドキャストが本格実施される際の実績として捉えることがないよう留意していただきたい。
 本業務で得られた知見については民間事業者に広く提供するとともに、業務にかかる費用を受信料のみで賄うことの妥当性、得られる効果が予算規模に見合っているか等についても視聴者・国民に説明し、その是非を問うべきである。

 

以  上

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