2020年8月30日の朝日新聞朝刊(1都6県+静岡県)に掲載された「としまえん」の広告は、大きな話題となりました。新型コロナウィルス感染拡大と8月末での閉園に伴い、広告の方向性は「94年間のありがとうを伝える」というものでした。お客様の心に響く、最も強い「ありがとう」の伝え方を考えてほしい、というのがクライアントからのオーダーで、掲載するメディアも含めて提案することになり、クリエイティブチームの皆で、としまえんらしい終わり方や、終わる広告とは何かといったことから考えました。
人を傷つけたり、ライバルを蹴落としたりはしないのが、「としまえんらしさ」の一つ。今回も「ちょっと先に行くわ」と、多くを語らず、後ろも振り返らず、さっといなくなる。そんな終わり方が、としまえんらしいのではないかと考えました。
そこで考えついたのが、漫画「あしたのジョー」のラストシーンと「Thanks.」というひと言のみの表現。としまえんの担当者の方が、打ち合わせのときに「燃え尽きたい」と言っていて、そのキーワードから出てきたのが、「あしたのジョー」の矢吹丈のラストシーンをメインビジュアルにするアイデアでした。去り際を一番かっこよく表現することが、私たちクリエイティブ担当の役目。としまえんは最後までお客さんを楽しませることに徹し、やるだけやって燃え尽きて、最後は真っ白い灰になって終わる、というイメージです。
新聞は掲載する日にちが設定できるメディアです。クライアントから「終わるちょっと前にお礼を言いたい」という意向を聞いたので、8月30日の掲載になりました。新聞1紙のみで30段、シンプルなメッセージのみで展開したほうがきっと広がる。これまでのクリエイターとしての経験から、そう考えました。例えば、一つの石をポツンと池のまん中に落とすと、波紋が広がっていきますよね。一方、たくさんの小石を池に投げ込んでも、石の波紋はたいして生まれない。情報の拡散は、それと似ていると思います。
そうした狙い通り、ツイッターをはじめ、SNSで情報が拡散されました。朝日新聞社メディアビジネス局「広告朝日」の公式ツイッターでもこの広告について情報発信したら、2.5万件の「いいね!」がついたそうです。いい広告は狙って作るのでなくても自然と口コミが生まれるものです。この広告では特に、SNSで思い出を語っている人が多かったことが印象的でしたが、余白の効果もあるだろうなと思っています。余白を使った表現は、ウェブ広告ではなかなか難しい。今回、新聞広告だからできることが分かったし、あらためて効果も実感できました。
もちろん、としまえんの広告は私たちクリエイターではなく、採用するクライアントの功績です。としまえんにはクリエイターの考えを尊重して信頼してくれるDNAがあります。今回も、社長の依田龍也さんが「この広告でいこう」と決断したからこそ、実現できました。私たちが言うのもおこがましいですが、としまえんの最後を飾るにふさわしい、長く語り継がれる広告になったのではないかと思っています。
広告主 |
豊島園 |
企画 |
博報堂 |
掲載紙 |
朝日 |
制作 |
博報堂、博報堂プロダクツ |
掲載日 |
2020/8/30 |
扱い |
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スペース/回数/色 |
二連版全30段/モノクロ |
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