記者が語る

「首里城再建の過程 記録に刻む」

受賞スピーチ

沖縄タイムス社・崎浜秀也氏

沖縄タイムス社・崎浜秀也氏が11月26日、新聞協会賞贈賞式で受賞スピーチをしました。「報道写真は事象をより具体的に伝え、文字表現を補うものだが、時に写真自身が語ることがある。首里城火災の瞬間をドローンで捉えた1枚がそれだ。地域を熟知し、撮影ポイントを瞬時に見極めた記者の経験値と撮影技術が初動の遅れを取り戻す原動力だった。首里城再建の過程を細かに記録したい」と語りました。

スピーチ全文は以下の通りです。

首里城火災の発生は昨年10月31日未明でした。
電話やメールによる編集局員への連絡を急ぎましたが、厳しい時間帯だったこともあり、連絡がつかなかったりメールに気づかなかったりした局員も多くいました。
ウェブサイトの第1報が県内他紙よりも30分以上遅れたことは、覚知・初動の差といえます。

火災の翌日、11月1日付の1面と最終のテレビ欄を外した見開き紙面に大判で載った小型無人機(ドローン)による写真は、金城健太が撮影しました。
金城はその日午前4時50分ごろ、首里城の麓にある大きな池「龍潭」に到着。 すぐにドローンをセッティングし離陸させました。モニターには焼け落ちる首里城や、懸命に消火活動をする消防隊員が映っていました。
午前6時前、火の勢いが少しだけ弱まった時に撮影したコマが大判写真となりました。

写真は事象をより分かりやすく具体的に伝えるもので、文字表現を補完します。
しかし、時として文字や言葉は必要とせず、写真自身が語ることがあります。
手前みそではありますが、今回の金城が撮ったドローンによる写真がまさにこれに当たるのではないかと思います。

もう1枚、金城が撮ったドローン写真以外に高い評価を得たのが、田嶋正雄撮影の首里高校の女子生徒が涙に暮れる写真です。
雑観用として第2社会面に掲載されたこの写真は、世代を超えた喪失感を伝える1枚となりました。

女子高校生の写真には後日談があります。
火災から1年となる直前の今年の10月30日付紙面で、2人の女子高校生の思いが社会面で紹介されました。取材したのは当時2人を撮影した田嶋本人です。

首里高校生の2人は首里城に隣接する城西小学校の出身でもあり、首里城は散歩をしたり放課後を過ごしたりする思い出が詰まった場所でした。2人は「当たり前にあると思っていたものがあっという間になくなった」「身近にあるものや何気ない時間が大切だと感じるようになった」と語っています。
2人の女子高生と同様に多くの県民にとっても、首里城はあって当たり前、日常の風景でした。

今回、覚知・初動が遅れたのは事実ですが、地域を熟知した地元紙記者として、撮影ポイントを瞬時に見極める経験値と撮影技術が、初動から撮影までを短時間でやり遂げた原動力となりました。田嶋は「あの日、自分があの現場にいて撮影したのはたまたまでしかない。ただ、たまたま現場に居合わせるための準備と工夫が必要なことは、数々の失敗の中で学んできた」と語っています。
ある意味で、このプロ意識が覚知・初動の時間的遅れを詰め、挽回を生んだといえます。

首里城再建に関しては、今年度中に正殿の基本設計を終え、沖縄の本土復帰50年に当たる2022年に着工し、26年の完成を目指しています。
首里城が地域に愛される憩いの場としてその輝きを取り戻す日まで、地元紙の写真部としてその過程を細かに記録していきたいと思います。

<受賞者>

崎浜秀也(さきはま・ひでや)氏

沖縄タイムス社
編集局デジタル報道本部写真部長
「焼け落ちた沖縄の象徴」の取材班代表として、2020年度新聞協会賞を受賞。

(2020年12月15日)