記者が語る

「遺族の思い踏みにじる事態 看過できず」

新聞協会賞受賞スピーチ

NHK・木村真也氏

NHK・木村真也氏が11月26日、新聞協会賞贈賞式で受賞スピーチをしました。「ずさんな戦没者遺骨の収集が繰り返されている、との関係者の証言が取材のきっかけだった。遺族の思いを踏みにじる事態で、見過ごすことはできなかった。行政が不都合な事実を隠し、論点をはぐらかすのはこの問題に限らない。現場を駆け回って物証を捜し、説明の不備を突き、続報を重ねる。泥臭く、粘り強く取材を続けたい」と語りました。

スピーチ全文は以下の通りです。

「厚生労働省のタブーを知っているか。千鳥が淵には日本人ではない遺骨が眠っている」

取材は関係者のこんなひと言がきっかけでスタートしました。
それは、遺骨収集を集中的に進めるという政府の旗印のもとでずさんな収集が繰り返され、戦没者の遺骨の通り違えが相次いでいることを示唆する内容になっていました。

もしこれが事実であれば、遺骨の帰還を待ちわびるご遺族の思いを踏みにじる事態であり、絶対に見過ごすことができません。
そんな思いを胸に取材をスタートしましたが、厚生労働省が取り違えの事実を認めて再発防止策を講じるまでには、それから2年半以上の月日を要することになりました。

私たち取材班が最初に報じたのは、シベリアはなくフィリピンでの遺骨収集を巡る疑惑でした。日本人のものとみられる遺骨は一つもなかった、という専門家の鑑定結果を6年以上も公表していなかったことをスクープしました。

しかし、厚生労働省は「隠していたわけではない」「日本に戻した遺骨には問題がない」という説明を繰り返し、何事もなかったように従来どおりの方法で遺骨収集を続けようとしていました。

私たちが取材を続けなければ、このままずさんな遺骨収集が繰り返されてしまう。そんな危機感をもとに粘り強く取材を続けました。

取材班の記者の一人は、取り違えの決定的な証拠を求めて各地を駆け回り、ついに非公開の議事録を入手しました。
そしてシベリアに飛び、その通り違えの現場も突き止めました。

この問題に誰よりも早く注目していたディレクターは、集団自決で亡くなった妹の遺骨を探す男性に寄り添い続けました。パプアニューギニアでは、ずさんな遺骨収集の実態をテレビカメラに記録していきました。

別の記者は、なかなか取り違えを認めようとしない厚労省の担当者と対峙し、説明の矛盾を突いていきました。

都合な事実を隠し、論点をはぐらかし、真実を国民の目から遠ざけようとする。
こうした行政や政治の対応は、この遺骨問題に限ったことではありません。

現場を駆けずり回って物証を探し、説明の矛盾を突き、続報を重ね続ける。 隠された事実に迫るために、泥臭く、そして粘り強い取材を今後も続けていきたいと思います。

<受賞者>

木村真也(きむら・しんや)氏

NHK
報道局社会部副部長
「『戦没者遺骨の取り違え公表せず』の一連のスクープ」の取材班代表として、2020年度新聞協会賞を受賞。

(2020年12月15日)