記者が語る

「要因見つめ、読者の疑問に応える」

新聞協会賞受賞スピーチ

神戸新聞社・井上駿氏

神戸新聞社・井上駿氏が11月26日、新聞協会賞贈賞式で受賞スピーチをしました。「電子版に公開した教員間暴力を巡る動画は、インターネット上でさまざまな憶測を呼んだ。加害行為を扇情的に伝えるのではなく、要因を適切に見つめ、読者の疑問に応える紙面作りを目指した。断片的な情報を集める地道な取材だった。『ともに考え、ともに悩む』地方紙の役割を今後も果たしたい」と語りました。

スピーチ全文は以下の通りです。

まさかこのような賞をいただけるとは思っておらず、率直に驚いております。
過去に阪神・淡路大震災があった1995年、また2005年の震災10年のキャンペーン報道で弊社は新聞協会賞を受賞しております。わが社が力を入れてきたこの二つの震災報道に肩を並べること自体、信じられないという心持ちであります。

私事ではありますが、阪神・淡路大震災の発生時は6歳でした。復興とともに育った世代でもあります。東日本大震災直後の2011年に入社し、そして記者生活10年を前に取り組んだのがこの教員間暴力の一連の報道でした。

昨年10月、旧知の取材先から受けた「先生が先生をいじめている」との電話から今回の報道が始まりました。いじめを率先して防ぐべき立場にある先生が、幼稚な加害行為に加担していた。過去2年、教育担当としていじめ自殺の問題の報道に注力してきた私にとって、記事が現場に伝わっていないとふがいなさを痛感し、今こそ神戸の教育再生に取り組むべきだと思い立った瞬間でもありました。

激辛カレーを食べさせる動画は予想を超える反響でした。ネットやSNSには加害教員への誹謗中傷があふれ、真偽不明な情報が氾濫し、保護者や地域は混乱していました。

幼稚な加害行為をセンセーショナルに取り上げるだけでは読者の信頼に応えられない。なぜこんなことが起きたのかを多角的に見つめ、読者の疑問に応える紙面作りを目指し、教育分野での取材経験がない記者で取材班を結成しました。

それぞれの人脈をたどって取材先をかき集め、断片的な情報を拾い集めて突き詰める。そして一つの形にしていく。非常に地道な作業だったと思います。
幸いLINEの公式アカウントを使って読者と直接ながる「スクープラボ」の取り組みや、報道部への電話やメールも多く、神戸の教育を立ち直らせてほしいという切実な声が私たちの背中を押してくれました。

新聞の紙面に学校の話題が載らない日はありません。
日頃から学校現場に接しているからこそ、内情を話してくれる関係者も少なくありませんでした。

取材を進める中で「子供たちのため」という大義名分を盾にしてコンプライアンスや説明責任を軽視する姿勢や、内輪の論理で動きがちな教育委員会の組織風土に気づきました。さらに神戸方式と呼ばれる独自の人事ルールや長時間労働、いびつな年代構成など多くの課題も見えてきました。
学校と保護者、そして地域住民が同じテーブルについて教育について話し合ってもらうことを目指して「学校いま未来(あした)」というキャンペーンを中長期的に続けてきました。

神戸新聞社の編集局には「もっと近く、もっと深く」という編集理念を記した看板がかかっています。SNSをはじめ多種多様な情報が氾濫する中、読者によって立つ視点を心掛けてきました。
神戸の教育再生はまだ途上です。いち記者として、共に考え、共に悩む地方紙としての役割をこれからも果たしていきたいと思います。

<受賞者>

井上駿(いのうえ・しゅん)氏

神戸新聞社
編集局報道部
「教員間暴力のスクープと神戸の教育を巡る一連の報道」の取材班代表として、2020年度新聞協会賞を受賞。

(2020年12月15日)