記者が語る

「国籍問わず一人も取り残さない環境を」

新聞協会賞受賞スピーチ

毎日新聞東京本社・奥山はるな氏

毎日新聞東京本社・奥山はるな氏が11月26日、新聞協会賞贈賞式で受賞スピーチをしました。「社会から見えない状態に置かれた外国籍の子供の姿を数字とともに伝えた。一連の報道で、文部科学省が初の全国調査に乗り出し、就学に関する法律も成立した。新型コロナウイルス禍で失業が相次ぎ、子供の学費を払えない外国人労働者がいる。国籍を問わず一人も取り残さない環境を整える姿勢が、将来に大きな宝を残すと信じている」と語りました。

スピーチ全文は以下の通りです。

今まで取材した子どもたちの顔が浮かびます。

彼らの親は、政治的には選挙権がない。
経済的には非正規雇用の不安定な状態に置かれている。
地域社会とのつながりは薄い。
言葉の壁で、自ら直接声を上げるのは難しい。
そういう人が多くを占めました。

彼らの話を書いて、それがこの日本社会で長い伝統と高い格式を持つ新聞協会賞を受賞した。その喜びを、取材を支えてくれた全ての人と分かち合いたいと思います。

外国人の子どもにはこれまで、就学義務がないとされてきました。日本人とは異なり、学校に来なくても引き止める根拠がありません。
所在の把握は自治体に委ねられており、中には誰も知らず放置されたままの子どもがいました。全国の地方都市を歩き、そうした見えなくされている子どもの姿を追いかけました。

子どもにとって、学校は社会につながる窓口です。
けれど、今回の取材を共にした堀智行記者の言葉を借りると、外国人の子どもにとって、学校や社会とのつながりは弱々しい1本の細い糸にすぎない。

一度学校に通ってつながりができても、不就学になった途端に姿が消えてしまう。学校で日本語を教えてもらえず退学して非行に走った子、虐待で命を落とした子、15歳未満なのに働いていた子もいました。

学校の体制にも問題がありました。
日本語教育の体制がないため、先生やクラスメートが何を話しているか分からない。黒板の字が読めない。休み時間は一人ぼっち。そうした環境で日本語が話せるようになるでしょうか。
発達障害と誤解され特別支援学級に入れられた子、中学を卒業しても履歴書が書けず進学も就労もできない子がいました。
彼らの姿を数字と共に伝えました。

一連の報道によって、文部科学省は初めての全国調査に乗り出し、就学先が分からない外国籍の子どもが約2万人いるという事実が明らかになりました。
今年の6月には、日本語教育推進法の基本方針に、全ての外国人の子どもの就学を目指すという文言が盛り込まれ、一つの法的な根拠ができました。

しかし喜んでばかりはいられません。今また、外国人の子の就学を脅かす逆風が吹いています。
新型コロナウイルスの流行による不況で外国人労働者の失業が相次ぎ、学費を払えなくなった子どもが不就学になるという事例を見聞きします。
2008年のリーマン・ショックを思い起こさせるような状況です。

一方で希望もあります。
各地の支援団体が子どもの就学機会を失わせまいと活動を始めています。
オンラインの授業やこども食堂といった新たな仕組みに外国人の子どもが参加するようにもなり、支援の輪が広がっています。

今、日本では少子化が進む一方で、外国人または外国ルーツの子どもが増え続けており、存在感を増しています。
誰もが大変な時代に理想論かもしれませんが、国籍を問わず誰一人取り残さないという姿勢が、日本人の子も外国人の子も普通に日本で生きる、そういう環境を整える姿勢が、きっと将来に大きな宝を残すことになると信じています。

最後に一つ付け加えると、私は6歳の子を育てている母親であり、仕事に100パーセントの力を注げる人間ではありません。
そうした私の提案に耳を傾け、力を貸してくれた上司や同僚、そして毎日新聞という会社の懐の深さに感謝をして、このスピーチを終えます。

<受賞者>

奥山はるな(おくやま・はるな)氏

毎日新聞東京本社
人事部(前・編集局社会部)
「『にほんでいきる』 外国籍の子どもたちの学ぶ権利を問うキャンペーン報道」の取材班代表として、2020年度新聞協会賞を受賞。

(2020年12月15日)