取材を振り返る〖寄稿〗

治療最前線を迫真の映像で【寄稿】

新聞協会賞「コロナ重症病棟 医師たちの闘い」受賞報告

フジテレビジョン・佐野純氏

中国・武漢で原因不明の肺炎が報告された2019年末以降、新型コロナウイルスは瞬く間に全世界に広がり、社会のありようを一変させ、現在も私たちを脅かし続けている。私たちテレビや新聞、通信各社は、未曽有の感染症の脅威とそれによるさまざまな影響について、番組や記事で間断なく伝え続けてきた。

医療崩壊を食い止める最後の砦

佐野氏(フジテレビジョン提供)

フジテレビでも1月以来、感染者の推移や、経済・社会への影響、政治・行政の動きなどについてニュースや情報番組で毎日幅広く報じている。緊急事態宣言が全国に拡大された4月中旬、私はコロナについて掘り下げた報道ができないかと考え、日曜朝の報道番組や単発の特別番組などを企画制作する報道番組部を中心に、コロナ特番を作ろうと呼びかけた。いくつかの取材・番組案が出た中、プロデューサーの加藤健太郎が焦点を当てたのが、当時最大の懸念となっていた「医療崩壊」だった。治療法やワクチンが確立されていない中、重症患者で病床が埋まり医療態勢が逼迫しつつあった。加藤は、医療崩壊を食い止める「最後の砦」となる大病院で、ある程度長期的な取材を行うことで、コロナ重症化の実態や医療従事者の生の声を伝えることができるのではないかと考えた。
今でこそ、新型コロナウイルス感染で重症化する割合はそれほど高くないことがわかってきた。しかし、当時は著名人が急速な病状悪化の末、命を落としたというニュースが大々的に報じられるなど、重症化は社会の脅威だった。そもそもコロナに感染すると最悪どのようなことになるのか。それまで患者の治療に当たった病院・医師への取材や回復した患者などの証言で、断片的には伝えられてきた。だが、実際に病棟内で患者の治療の様子や医療従事者の姿を長期にわたって取材したものは、ほとんど見られなかった。感染リスクの高い病棟内での取材自体が極めて難しいからだ。
フジテレビは当初からコロナに関わる取材の指針をまとめており、医療現場について①感染者の直接取材はしない②濃厚接触者も直接取材は避け、テレビ電話などでの間接取材を検討する③感染者の自宅や病室など密閉空間内での取材はしない─などのルールを決めて、現場で周知徹底を図っている。

ルール徹底し院内で取材開始

一方で私たちは、普通の人が入れない、見られない現場だからこそ、それを映像で捉え、何が起きているのかを知り、伝えたいとシンプルに思っていた。「患者はどんな症状なのか」「特効薬がない中、どのような治療が行われているのか」「現場で患者と向き合う医師たちは、どんな知見を得ているのか」「感染拡大や世の中の動きについてどう思っているのか」─などを伝えたかった。 チーフプロデューサーの石田英史と私、それに加藤プロデューサーは、医療崩壊を食い止めようと闘う医師の姿を縦軸にしたドキュメンタリーを制作する方針を固めた。取材に当たっては、病院内の安全なエリアで撮影するほか、感染リスクの高いエリアでは、医師や看護師に小型カメラを装着して撮影することも選択肢に入れて取材すると決めた。

未承認薬アクテムラの投与
=フジテレビジョン「コロナ重症病棟」2020年7月11日放送
(フジテレビジョン提供)

ディレクターの今井恵介は、コロナ患者を受け入れている首都圏の複数の医療施設と取材交渉を行ったが、応じてくれる病院を探すのには時間がかかった。取材者を受け入れることは、ただでさえ逼迫している医療現場にとって負担になる。テレビで取り上げられること自体が医療従事者への偏見につながりかねないと考える医療施設もあった。最終的に取材先が、自治医科大附属さいたま医療センター(さいたま市)に決まったのは5月下旬だ。部内での協議や、病院側との打ち合わせの結果、①病院内に入るのは今井ディレクターとカメラマンの2人のみとする②感染リスクの高いエリアには絶対に入らない③日々検温など体調チェックを行う─などのルールを徹底し、5月27日から取材を開始した。この2日前に緊急事態宣言が全国で解除され、感染者数は減りつつあった。

ECMO交換映像のインパクト

今井ディレクターとカメラマンは病院内で朝から夜まで待機し、コロナの疑いがある患者が運び込まれると医師たちの動きを撮影した。重症患者が入院している感染リスクの高いエリア内では、私たちが用意したGoProというウエアラブルカメラを医師に装着してもらい撮影することとした。カメラを取り付ける部位については、頭や首など場所を変えて何度も検証した結果、医師の視野に最も近い映像が撮れ、息遣いも捉えられるとして、胸部へのバンドによる装着とした。医師が向いた方の患者や機器がうまく映るよう、カメラの位置や角度を工夫した。撮影が終わったカメラは医師による消毒後に今井の手元に戻る。今井はその映像を毎日チェックして翌日以降、何を撮影するかを医師と話し合い、決めていった。一方で、重症病棟の患者の一部は、安全なエリアからもガラス越しに撮影することができ、カメラマンがその姿を追い続けた。

人工肺「エクモ」の回路交換作業
=フジテレビジョン「コロナ重症病棟」2020年7月11日放送
(フジテレビジョン提供)

こうして7月上旬までの間、延べ300時間を費やして撮影した。中でも患者の命をつなぎ止めるECMO(体外式膜型人工肺)の回路交換作業は、これまで見たことのない映像だった。重症患者の血液を足の付け根の血管から体外に取り出して人工的に酸素を取り込み、首の血管に戻すECMOの管理は難しく、長時間の使用で装置内に血栓が生じるため、回路の交換が必要だ。医師たちは血流停止が許される約1分間のうちに呼吸を合わせ、交換作業を行っていた。また、飛沫感染を防ぎながら患者の体位交換やひげそりなどを行う看護師、生命維持のためさまざまな機器を操作する臨床工学技士たちの献身ぶりも映像に捉えた。
取材の過程で私たちが驚いたのは、コロナウイルスは肺だけでなく、脳や肝臓など多くの臓器をむしばんでいくことだった。カメラは、多臓器不全に陥った患者を前に、命をつなぐための選択肢を必死に探る医師たちの苦悩や葛藤、意見対立をも捉えた。また、医師が未承認薬の投与を決意し、家族の同意を求めるシーンや、ECMOを離脱できた患者が懸命なリハビリの末、家族との再会を果たす場面なども撮影した。さらに病院の資材不足や経営難など、コロナが日本の医療に及ぼしているさまざまな影響も浮き彫りになった。編集に当たっては、患者・家族のプライバシーに最大限配慮したうえ、実際の症状や治療法はCGなどを使ってわかりやすく伝えるよう努めたほか、医療従事者への偏見を生み出さないよう心がけた。
番組は7月11日午後4時から関東地区で放送された。緊急事態宣言が解除されて1か月あまりがたったこの時期、人々の動きが再び活発となったことを受けて感染が再拡大。東京で200人を超える新規感染者数を記録する事態となり、結果的に番組の放送が社会に一つの警鐘を鳴らすかたちとなった。

制約下での取材に必要な意志

コロナ禍でドラマやバラエティー番組などの制作現場が大きな影響を受けているのはご承知の通りだが、報道の現場もしかりだ。記者会見やインタビューもリモートで行ったり代表取材になったりすることが増えた。記者たちの働き方改革にも資するし、コスト削減ができるという声も上がっている。しかし一方で、そうした変化が、ややもするとジャーナリズムにマイナスとなる可能性があることも忘れずにいたい。画面を通じての質疑応答がかみ合わなかったり、不十分な答弁を再度質しにくくなったり、その場だからこそわかる表情や雰囲気を感じ取ることが難しくなったりする。自前で撮影せずに企業や団体などから提供された映像を放送することもあるが、気をつけないと提供者の言い分の垂れ流しになりかねない。

自治医大附属さいたま医療センターの小野将平医師
=フジテレビジョン「コロナ重症病棟」2020年7月11日放送
(フジテレビジョン提供)

今回の番組もコロナの制約の中で撮影しているし、番組には医師が撮影した映像も含まれている。選考の過程でこうした映像を新聞協会賞の対象にできるのかという議論があったとも聞く。報道機関のプロカメラマンからすれば、自分たちがファインダーをのぞいて撮影した写真や映像で勝負すべきだという意見が出るのはもっともだ。しかし、今回の番組は自分たちの撮影だけで成立させることはできなかった。すでに述べたが、医師にカメラを装着する際は、ディレクターが綿密に打ち合わせを行い、カメラの位置や医師の動線を確認したうえ、撮影された映像は毎日チェックして次の狙いを定めている。医師に完全に託したのでは、狙い通りの番組は作れなかったと思う。
新聞協会賞に選ばれたのは、そうした私たちの意志を感じ取っていただいた結果だろうと考える。テレビ報道人、映像取材者にとって、非常に意義深い議論をしていただいたと感じている。そして今後、取材現場でコロナによる制約が続く限り、私たちジャーナリストの強い意志こそが、より一層重要になるだろう。
新型コロナウイルスの感染が始まってまもなく1年。治療法やワクチンが確立されていない状況の中で、感染防止と経済活動のバランスをどう取るのか、明確な答えは見いだせていない。そして、私たちの取材や番組制作にも新たな手法が求められていくのだろう。しかし、知られていない物事を知って伝えたいという思いは変わらないはずだ。
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歴史と栄誉ある新聞協会賞の受賞を大変光栄に思う。上記制作陣に加え、全スタッフが力を合わせた結果と考えている。また、取材に応じていただいた讃井將満教授、小野将平医師をはじめとする自治医科大附属さいたま医療センターの皆さまに改めて心より感謝を申し上げるとともに、今も闘う全国の医療従事者の皆さまに敬意を表したい。

<筆者プロフィール>

佐野純(さの・じゅん)氏

フジテレビジョン
ニュース総局報道局報道センター報道番組部長
「コロナ重症病棟 医師たちの闘い」の取材班代表として、2020年度新聞協会賞を受賞。

(2020年11月6日)