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《マス倫60周年記念シンポ》 「偽」の時代 裏取りが信頼培う 

デジタル活用で確度を担保

 マスコミ倫理懇談会全国協議会は6月26日、「変革のときにメディアの信頼を問う」と題した結成60周年記念シンポジウムをプレスセンターホールで開いた。インターネット時代の報道の役割について議論したパネル討議では、真偽不明の情報が飛び交う中で、裏付け取材を積み重ねることが記事への信頼につながるとの指摘があった。活字メディアがデジタル空間で取材にまつわる動画や音声を公開する動きについて、報道の確度を担保する手法として評価する声も上がった。約140人が聴講した。

 報道各社は近年、SNSから事件・事故の発生を探知し、取材や報道に取り入れている。読売東京の平尾武史社会部長は「SNSには間違った投稿も多い」とし、裏取りが欠かせないと指摘した。

 「駅のホームでスマートフォンを操作していた人が線路に落下」との書き込みをきっかけに取材したところ、実際はスマホを持っておらず、酒に酔っていただけだったこともあったという。平尾氏は「一つ一つ確認することが新聞記事への信頼につながる」と述べた。

 毎日東京の鯨岡秀紀統合デジタル取材センター長も「玉石混交の情報を整理して報じるマスメディアの役割は変わらない」と話した。ただしネット上で誰もが情報を発信できる中で「報道は『上から目線』ではなく、多くのメディアの一つという意識を持つことが必要だ」と語った。

 天野康代弁護士は分量の制限がないネットの強みを報道に生かしてほしいと要望した。事件の遺族のコメントを出すと、新聞記事で「『つまみ食い』され趣旨が伝わりにくいことがある」とし、デジタル版では全文を伝えてほしいと述べた。

 週刊誌報道では、入手した音源や取材中の動画をネットに公開する動きも出ている。小学館の田近正樹編集総務局シニアマネジャーは、文字で読者の想像力に訴える報道が変わってきたとし「情報の『確からしさ』を担保する手法として有効だ」と話した。

 岩手日報の川端章子釜石支局長は、ウェブサイトに米大リーグで活躍する大谷翔平選手の特集ページを設け、特派員のレポートや米地元紙の提供記事を掲載していると紹介。新聞になじみの薄い若い世代に訴求し、本紙の購読につなげる狙いがあるという。一部は英訳し「世界各国で読んでもらう」ことも意識していると語った。

実名報道 検討過程の開示を 当事者の理解得る力量必要

 パネル討議では実名報道の意義についても意見を交わした。事件・事故の被害者や遺族にその意義を理解してもらうには、記者が自ら必要性を説明することが必要だとの指摘があった。実名、匿名の判断については、検討過程を明らかにし、社会の反応を踏まえつつバランスを取るべきだとの意見も出た。

 読売東京の平尾武史社会部長は実名報道を原則としながらも、被害者への配慮から「社として協議するケースが増えている」と述べた。2016年に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件で、神奈川県警は遺族のプライバシー保護を理由に犠牲者19人の氏名を発表しなかった。読売は独自取材で全員の名前を把握。社内議論を経て実名は報じなかった。

 平尾氏は、被害者や遺族の理解を得るためには実名報道の意義を記者が自ら説明することが求められると指摘。記者教育も充実させていると話した。

 毎日東京の鯨岡秀紀統合デジタル取材センター長は、公人の氏名を当局が伏せるケースに注意が必要だと述べた。今年1月、群馬県の草津白根山の噴火で訓練中の陸上自衛隊員1人が亡くなった事例を紹介。「自然災害で公務中だったことから名前が発表されて当然」(鯨岡氏)ながら、陸自は当初氏名を伏せた。報道各社は取材に基づき実名を伝えた。

 鯨岡氏は実名か匿名かの最終判断はケース・バイ・ケースだとみる。「各社が検討の過程を明らかにし、その判断に社会から批判をもらいながらバランスを探ることが必要だ」と話した。

自前主義脱却 多様な連携を テレ朝HD・吉田社長

 パネル討議に先立ち、テレビ朝日ホールディングスの吉田慎一代表取締役社長が講演した。既存メディアは取材から発信まで自社で手掛ける「自前主義」を重視してきたものの、世の中の変化のスピードや多様性に対応できなくなってきたと指摘。他の報道機関やネットメディア、さらには有識者やNPOなどとの協業、連携を考えるべきだと述べた。

 複雑化する社会に切り込むため「根強い自前主義から自覚的に決別する時期が来ている」と語った。

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