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NSK ニュースブレチン オンライン
2002年11

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*新聞離れの現実を直視、商品としての質の向上を--新聞大会、名古屋で開く
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新聞界が若年層に向けて新聞キャンペーン
*日韓編集セミナー開催、W杯共催で相互理解深まる--記者は民間交流促進に貢献を
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*Topics
--ジェファーソン・フェローシップ計画、日本で実施
--在京社会部長会、韓国の社会部長らと懇談
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今月の話題>>>
拉致被害者をめぐる取材・報道で個別取材規制
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新聞離れの現実を直視、商品としての質の向上を-- 新聞大会、名古屋で開く

 今年で第55回を迎えた新聞大会は16、17の両日、愛知県名古屋市の名古屋国際会議場で開催された。新聞協会賞の授賞式が行われた後、ノーベル化学賞を受賞した野依良治名古屋大学大学院教授が「21世紀の『知』とは」をテーマに基調講演、午後の研究座談会では坂村健・東京大大学院情報学環教授が「ユビキタス・コンピューティングが開く未来」をテーマに講演したほか、読売、日経、産経、北海道、中日の新聞社5社の経営幹部が「新聞商品の魅力を高めるために」をテーマに討論した。

 討論では、「若い世代の間で新聞を読まない人が増えている現実を直視すべきだ」「新聞を読むことが知的な大人であることの指標でなくなってきている」など、最近の新聞離れに危機感が示された。これに対し、「新聞を商品として捕らえることに抵抗を感じるような意識を取り払い、商品改良に努めるべきだ」「信頼度を高めるためには、記者教育が重要だ」「地域に密着した読者サービスを進める」「すべての面において個々の新聞社が独自の個性を発揮する」「広告もニュースという原点に立ち返り、新聞にしかできない広告分野を開拓すべきだ」などの意見が出された。またデジタル化については、当面は紙の新聞とウエブサイトによる並存状況が続く見通しが述べられた。

 新聞大会関連のイベントしては、名古屋市で「新聞写真コンテスト」の入賞作品が展示された。また、16日から5日間「Read Me. PLAZA in 名古屋」を開催、名古屋市内4か所でさまざまな催しを行った。東京、大阪、名古屋、福岡では読者を招待して「記念の集い」が開かれた。

 毎年10月20日に定められた「新聞広告の日」の式典は、今年は20日が日曜日にあたるため、18日に東京・千代田区のパレスホテルで式典を行い、新聞広告賞の授賞式が行われた。「新聞配達の日」と「新聞少年の日」(10月20日)には、全国で新聞配達従業員や新聞少年・少女を慰労するための行事が行われた。



新聞界が若年層に向けて新聞キャンペーン

=「Read Me.」キャンペーン=

 新聞協会は、若年層の新聞閲読を促進することを目的に2000年度から3年計画で「Read Me.」キャンペーンを展開している。3年目の今年はキャンペーンの一環として、ブックレット「Newspaper Book」(A6判=写真)を作製した。線画で描かれた新聞のある情景60シーンに「新聞」をキーワードにしたコピーを組み合わせ、1シーンを1ページで見せる趣向だ。ユーモラスなコピーと線画の組み合わせの妙で、手にとった若者が日常のなかで新聞の存在を身近に感じるようになる効果を狙った。若者と新聞の距離をどう縮めるかは、新聞界の大きな課題。新聞各社においても、若者をターゲットとした様々な取り組みが進められている。

 「Newspaper Book」は10月16日から名古屋市で実施した新聞大会関連イベントの「Read Me. PLAZA in 名古屋」の会場で配布した。新聞各社の販促活動やセミナー会場での配布など、若者の無購読対策の冊子として多方面での活用が期待されている。

 「Read Me.」キャンペーンは、これまで「Read Me.」をキーワードに、協会加盟各紙のPR活動や販促活動にも連動した展開ができるよう、新聞広告やポスター、キャンペーン共通のロゴマークを作成、各社仕様で利用できるようにした。

 昨年8月には、キャンペーン専用サイト(http://www.readme-press.com/index.html)を立ち上げ、新聞に対する読者からの声を広く募集している。最終年度の3年目を迎え、来年2月には、新聞広告とラジオを有機的に使い、幅広いメッセージ発信を試みる。

 新聞広告(全15段・モノクロ)とラジオ広告(FM・AM各1系列=全国展開、20秒CMを1局あたり月間20本程度)で、若者に新聞閲読を促すメッセージを発信する。メッセージは、昨年発信した「知らないより知って生きていく」ことの意味を訴求する「キミはたくさん生きていますか」という主張と基本軸を継続、他媒体での話題づくりも意識した内容にする。

 新聞協会の岡田誠太郎・新聞PR部会長(読売東京)は、「新聞を手に取ったことはあるが5分以内しか読んでいない若者が、『新聞を閲読(購読)してみようか』という気持ちになるような、意欲的な仕かけで効果を高めたい」と語る。

Reading a newspaper Scrambling to get a newspaper left on a train rack Crack a round-tripper with a newspaper-made bat
A mobile newspaper A newspaper addict Newspaper is perishable
The day when a newspaper is not available
Swept Away Newspaper is tasty

=新聞各社の取り組み= 

 新聞各社は若年層を読者とするために、販促活動を展開するとともに、インターネット、他媒体とのメディアミックスなどに取り組んでいる。

 朝日東京は2001年9月、販売局、編集局、宣伝PR部、マーケティング室員などで構成する「未来読者対策委員会」を設置した。今年10月から広告局や電子電波メディア本部の担当者を加え、社会人、大学生、高校生以下それぞれのターゲットにどのようなアプローチが有効かの検討を始めた。

 毎日は、自紙のPR活動に力を入れるため、今年4月、社長室にPR事務局を作った。社員からアイデアを募集し、若者向けのPRにも生かしていく。

 10月から点字新聞をモチーフとしたテレビCMを始めた。「やさしさ」をキーワードに、80年間にわたり、同社が点字新聞を発行していることを語りかけている。

 読売は、若年層を中心とした活字離れが、次世代の思考力・創造力の低下など、様々な問題を生じさせているとし、プロジェクトを通じて活字文化の重要性を訴えている。

 2004年11月までに「21世紀活字文化フォーラム」を8回開催するほか、子どもを対象とした本の読み聞かせ運動、大学での市民公開講座、各図書館と連携した図書講座などを計画しており、紙面やインターネットとも連動させ、子どもや若者を含め文字に親しむための多角的な展開を行う。

 日経は、若者の大学入学時、就職活動時、新入社員時を、新聞を読み始めるきっかけの時期ととらえ、それに合わせた販促活動を展開している。

 大学に対しては、カリキュラムやゼミで新聞を活用することを提案、要望に応じて講義や就職ガイダンスに専任講師を派遣し、日経の読み方や活用法を講演する。大学1、2年のうちに経済の基本を学び、また進路を考える教材として有効であることをアピールしている。

 また、大学生、新入社員を中心に、新規購読者には、経済データや日経の読み方の基本などを分かりやすく解説した無料冊子「わかる!日経」をプレゼントしている。

 鈴木健司・販売局次長兼マーケット開発部長は、「大学入学時を起点に、定年後もずっと日経を読み続ける生涯読者を作りたい」と語る。

 信濃毎日は、結婚式場とタイアップした「ブライダルキャンペーン」を展開している。式場の予約者に、式場側が購読や試読を働きかける。申し込み者には、結婚式当日付紙面の一面をラミネート加工した記念日新聞をプレゼントする。

 対象読者に学生や若い女性を想定したPR誌の発行や、他メディアの情報誌と組んだ企画の展開、メディアミックスの試みも増えている。

 朝日東京は、1999年4月から今年の3月まで、J―WAVEで週1回若者向け音楽番組を提供し、新聞を読もうというメッセージを番組内で発信、番組のDJが本紙でコラムを連載した。

 西日本は、本紙の若者向けの紙面と自社ホームページを連動させ、読者参加型の紙面作りを試みている。



日韓編集セミナー開催、W杯共催で相互理解深まる
記者は民間交流促進に貢献を

 国交正常化後の1966年以来39回目を数える日韓編集セミナーが10月30日、東京・内幸町のプレスセンターホールで開催された。韓国側から15社15人、日本側から12社13人の報道関係者が参加し、「サッカーワールドカップ(W杯)共催後の日韓関係--今後の北東アジア情勢を中心に」をテーマに、最近の日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国交正常化交渉、拉致問題なども踏まえた活発な議論が交わされた。韓国側から金泰翼(KIM Tae lk)朝鮮日報文化部長、日本側から山本勇二・東京新聞外報部部次長が基調報告した後、自由討議を行った。

 金氏は、サッカーW杯後に韓国で起きた変化の一つとして、日本の植民地支配から解放された8月15日と、日韓併合で植民地支配の始まった8月29日の紙面展開を取り上げ、「これらの記念日には、日本の残忍性や、朝鮮民衆がいかに支配に立ち向かったかを大きく取り上げるとの不文律が韓国のマスコミには存在していた。しかし、今年の記念日に朝鮮日報は、民族の情緒に訴える記事は掲載しなかった。さらに重要なのは、読者からの抗議もなかったという事実だ」と話した。

 また、W杯の韓日共催は韓国に「開かれた民族主義」を出現させたと指摘。「韓国の伝統的な民族主義は、被支配の経験から由来した閉鎖的なもので、韓日関係の進展にも障害となっていた。しかし、今日の新民族主義は、W杯で若者が国旗をマントのようにまとうなど遊戯精神とも融合した自発的なものに変化した。これからの韓日関係を新しく率いる重要な力になる」と力説した。

 さらに、韓国で邦画「ラブレター」が大ヒットしたことを挙げ、「一人ひとりが相手側の具体的事項の一つ一つに、理解と愛情を持ち、そこから感動とヒューマニズムを見いだす努力をする時、韓日関係はさらに進展する」と結んだ。

 山本氏は、W杯共催の成果として日韓の相互理解の深まりについて、「金大中政権が日本の大衆文化を段階的に開放した影響も大きい。特に若い世代の交流が重要であり、記者は日韓双方の社会、文化の面白さと魅力を伝える義務がある」と話した。

 また、歴史教科書の問題に言及。「日本の教科書の内容に問題があるとの批判はあってもいい。しかし、駐日大使の一時召還や多方面における日韓交流事業の一時中止などといった外交圧力を強める方法には疑問が残る。正しい歴史認識を求める一方で、表現の自由を認める寛容さを持ってほしい」と提言した。

 教科書問題については、午後の自由討議で、李基昶(リー・キ・チャン)韓国日報編集副局長兼体育部長が「歴史教科書の記述では、若い世代に真実を伝えることが重要であり、表現の自由を優先させるべき問題ではない」との指摘に対し、山本氏が「両国の教科書の種類や記述されている内容の幅の違いをお互いに理解することが、共同研究のきっかけとなる」と応えた。

 このほか、「韓国には、様々な分野で日本の大学院学位をとった若手の知識人が大勢いる。彼らの中には職につけない者も多い。韓国と日本の橋渡しができる人材を活用する場の確保が必要だ。双方が相手国を学ぶための動機を提案するのもメディアの役割だ」(大澤文護・毎日新聞東京本社外信部副部長)との意見が出された。

 日朝の国交正常化交渉に関しては、安相倫(アン・サンユン)ソウル放送解説委員は「日本は北朝鮮のコミュニケーションの取り方に慣れる必要がある。彼らは局面転換を図るとき、レトリックを駆使して劇的効果を狙う。拉致や核問題であっさり真実を認めたのは、日本と対話を持ちたいとの意思の表れだ。その根源には北朝鮮の厳しい経済状況がある」と話した。日本側からは、北朝鮮が国際社会での話法を理解することも必要だとの発言もあった。

 菅原紀夫・北海道新聞東京支社国際部長兼論説委員は「小泉純一郎首相の訪朝に関するホワイトハウスの声明は、同盟国でありながら支援ではなく評価にとどまっている。日本の外務省は、北朝鮮の核問題に米国がこれほど敏感とは考えていなかった。日本も北朝鮮も米国の出方を読み誤っていると感じる」と言及。李光埴(リー・クワン・シク)江原道民日報論説委員からは、「北朝鮮が核保有を発想したとしても、攻撃のためではなく、米国の攻撃を阻止するためだ。中長期的には平和的解決は可能と考える」といった意見が出された。

 自由討議の後、矢野哲郎・外務副大臣をゲストに招き、日朝正常化交渉への外務省の対応などについて意見交換した。

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ジェファーソン・フェローシップ計画、日本で実施

 ハワイの東西センターが主催する記者研修プログラムのジェファーソン・フェローシップのフェロー12か国13人は、10月26日から11月1日までの日本での研修を終えた。

 同計画は、1967年以来、アジア・太平洋地域、米国の諸問題について理解を深めることを目的に、27か国約400人のジャーナリストの研修、取材旅行を受け入れてきた。今回のプログラムは、「景気後退への対処」をテーマに、10月6日から11月2日の日程で実施され、ハワイでのセッションの後、ワシントン、シアトルを訪問、最後の1週間を日本で過ごした。

 日本経済の低迷について、朝日、読売、日経、産経の記者らからブリーフィングを受けたほか、塩崎恭久衆議院議員、高島肇久外務報道官などと懇談した。

2002年秋季ジェファーソン・フェローシップ計画参加者

◇ミャンマー(ラングーン)
ヤナントヒット誌・リーダーズ・ジャーナル誌・テット・ラン・ジャーナル誌・主筆 チット・ウィン・マウング

◇カンボジア(プノンペン)

カンボジア・デーリー紙・副編集長  テト・サンバト

◇中国(成都)

成都テレビジョン・記者兼キャスター  楊   少 萍

◇インド(ニューデリー)

エコノミック・タイムズ紙・副編集長 ジャイディープ・ミシュラ

◇インドネシア(ジャカルタ)

週刊コンタン・エコノミック&ビジネス誌・編集局長

アーディアン・ゲスリ

◇日本(東京)

東京新聞・経済部次長 安 田 英 昭
◇韓国(ソウル)
朝鮮日報・産業科学担当記者 カン・キュンヒー

◇モンゴル(ウランバートル)

ツデー紙・記者  ベクバヤル・ダムディンドルジ

◇パキスタン(カラチ)

インダス・ビジョン・テレビジョン・キャスター兼記者 シャヒーン・サラフディン

◇ソロモン諸島(ホニアラ)

ソロモン諸島放送・報道担当マネジャー ウォルター・ナラング

◇台湾(台北)

工商時報・政治経済担当デスク 林   文 集

◇米国(サンフランシスコ)

サンフランシスコ・クロニクル紙・産業担当記者 キャリー・カービ

◇米国(アトランタ)

CNNインターナショナル・プロデューサー兼キャスター グレン・ヴァン・ズットフェン
 以上12か国13人


在京社会部長会、韓国の社会部長らと懇談

 韓国言論財団主催の視察旅行により来日した韓国主要新聞、放送局の社会部長ら11人が10月15日、東京・内幸町の日本記者クラブで在京社会部長会のメンバー10人と、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による日本人拉致事件を巡る日本の対応などについて懇談した。

  韓国側からは、「日本のマスコミは拉致事件を騒ぎすぎていないか。北朝鮮との交渉を有利に進めようとするために、あえて問題を大きくしているとすれば、日本にとってかえって不利な結果を招く」「韓国には、日本が戦争責任問題を解決していないにもかかわらず、北朝鮮から謝罪されたことに何とも言えない感情を持つ人々がいることも事実だ」などの指摘があった。

 また、「北東アジアの平和のためにも、日本はあまり過去の問題に執着せず、北朝鮮との対話を進めるべきだ」「北朝鮮で重大な変化が起きているこのタイミングを逃してはいけない」など、今後の交渉に期待する意見が出された。

 日本側からは、「日本国民の多くが、北朝鮮との国交正常化交渉を進めたいと考えているが、拉致事件を軽視して、物事を進められる雰囲気ではない。拉致事件の全容を明らかにすることが、次のステップにつながるのではないか」「多くの新聞は、事件の真相解明と交渉を同時並行で進めるべきだとのスタンスに立っている」などと発言した。

韓国言論財団は政府傘下の機構で、報道支援として研修、研究、国際交流活動などを行っている。

 上毛新聞社で「読者委員会」発足

 上毛新聞社は11月1日、創刊115周年を機に読者による提言機関「読者委員会」を設置した。群馬県在住で経済、福祉など様々な分野の第一線で活動している20代から60代までの読者30人で構成。日々の紙面に対する感想や提言、要望を受け付け、紙面作りの参考にすることが狙い。

 委員のうち1人が男子大学生で、女性は10人。委員の任期は1年で、任期中は同紙を無料で提供する。意見は電話やファクス、電子メールなどで受け付け、定期的に紙面化する。事務局は編集局内に設置した。

 事務局長を務める萩原哲・編集局次長は「各社が設置している有識者数人による第三者委員会では、委員の人選やテーマ設定が難しいと考え、読者の意見を反映できる独自の組織を作った。かつてオピニオン欄に寄稿してくれた人などを対象に、地域的にバランスを考慮して委嘱した」と話している。


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今月の話題>>>

拉致被害者をめぐる取材・報道で個別取材規制

 10月15日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による拉致事件の被害者5人が一時帰国して以来、報道各社の記者らの間にはなかなか5人に直接取材できないもどかしさが広がっている。

 直接取材できない背景のひとつに、一時帰国と前後して、「家族会」(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)、「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)が、新聞協会などを通じて報道側に「節度ある取材」を要請した経緯がある。報道界としても、集団的過熱取材(メディアスクラム)発生時に対応する機関が全国各地でほぼ整備されたタイミングでの拉致被害者帰国は、放任すれば過熱取材は必至と思われる超弩級のニュースだったため、在京社会部長会、警視庁の記者クラブ、被害者の実家がある地域の報道責任者会などが、集団的過熱取材(メディアスクラム)の発生を防ぐために尽力する初めてのケースとなった。

帰郷先の新潟県真野町役場を出る拉致被害者を取材する報道陣

 当初「一時帰国」ということで帰国した拉致被害者5人の身柄は、その後、事実上正常化交渉の行方にあずけられる状況になった。結果的に個々の社が本人らにそれぞれ取材できない状態が続いている。一方、死亡したとされる被害者の娘を3社が平壌でインタビュー、この報道を家族会、救う会が厳しく批判する一幕もあった。

 こうした状況下、メディアスクラム予防の重要性は認めつつも、直接取材できない状態や取材制限を当然視する傾向を危惧する声も出始めている。

《帰国時》=報道各社「真意つかめぬ」焦燥感=

 帰国当日には、帰国した被害者本人と家族による記者会見が東京都内の赤坂プリンスホテルで実現したが、これも直前まで本人らが出席するのかどうか分からなかった。本人らへの質問は許されず、被害者は一言あいさつしただけで退席した。

 翌16日、被害者5人の家族は連名で報道各社あてに、移動中、到着後の自宅、宿泊先とその周辺での取材を固く断る旨を伝えてきた。新聞協会の編集委員会は在京社会部長会を通じて、直接取材の機会をつくってほしい旨要請した。

 被害者は17日、2人が新潟県柏崎市に、1人が同県真野町に、2人が福井県小浜市にそれぞれ帰郷した。

 各地の報道責任者会議は、「取材に当たっては本人・家族のプライバシーや人権に配慮し、周辺住民に迷惑をかけることのない、節度ある姿勢を保つ」ことを確認し、具体的な禁止事項を定め、県外メディアにも協力を呼びかけた。ヘリコプター取材や追いかけ取材も禁じられ、役所、警察も巻き込んだおおがかりな取材規制が実施された。

 「臨時記者室」を設置、すべてのメディアに開放したところもあった。帰郷直後の記者会見でも、記者からの質問は許されなかった。

 当初は、家族が本人の意向を語る記者会見もなかったため、報道陣には「取材の自主規制の必要は理解するが、伝えるべきことが全く伝えられない」「拉致問題やその後の国の対応への感想など、肝心なことが聞けない」などの不満が広がった。

 家族が本人の発言を語り始めてからも、家族が発言の真意を誤解して伝えたため、それがメディアで紹介され、後日訂正するなどといった事態も出現し、報道陣には本人の真意が正確に把握できないといった悩みも募っている。

《3社がキム・ヘギョンさんをインタビュー》

 政府は10月24日、帰国中の被害者5人について北朝鮮には戻らせず、北朝鮮に残してきた家族らを日本に呼び寄せるとの方針を発表。29、30の両日、クアラルンプ-ルの日本大使館で2年ぶりに行われた日朝正常化交渉で、日本側は、拉致被害者の家族の帰国を強く求めたが、交渉は物別れに終わり、被害者とその家族の帰趨は宙吊り状態のままとなった。

 この間、朝日、毎日、フジテレビの3社が25日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に拉致された後、自殺したとされる横田めぐみさんの娘キム・ヘギョンさん(15)に、平壌市内の高麗ホテルで合同でインタビューした。この模様をフジテレビは同日午後6時前から放送、午後9時からは2時間の特別番組を放送、朝日、毎日は26日付朝刊で詳報した。拉致被害者の家族らはこの取材・報道を「帰国者の永住問題に悪影響を与える」「少女の立場への配慮もなく、北朝鮮に利用されたもの」などと批判。フジテレビは声明を発表したほか、朝日、毎日は取材の経緯などを紙面で報告した。

 3社の報道によると、キム・ヘギョンさんは「母が日本人だからといって日本には行けない。おじいさん、おばあさんにはこちらに会いに来てほしいと思う」などと語った。

 3社は、「北朝鮮側の意図は承知しつつ、拉致事件の真相解明や今後の展開を見極める取材の一環として行った。厳しい条件下で、本人、家族の思いを踏まえて取材に当たり、努めて冷静に報道したつもりだ」(朝日)、「北朝鮮が外交的狙いを込めたのは明りょうだ。このため、発言、表情をできるだけ忠実に報道するとともに、北朝鮮側が会見に応じた背景についても報道した」(毎日)、「北朝鮮のプロパガンダにくみしたことはなく、今後も一切ない。インタビューは、一連の拉致事件の核心と言える横田めぐみさん事件の真相解明には現地取材が必要不可欠として行ったもので、様々な取材要求を出したうちの一部として実現した。拉致された方々、家族の気持ち、立場を十分理解し、取材・放送にあたっている」(フジ)との見解を表明した。

《個別取材》=「家族会」事務局長が個別取材受け入れ=

 「家族会」の蓮池透・事務局長は10月31日、警視庁の3記者クラブを通じて、事務局長の立場で今後、報道各社の個別取材に応じると発表した。新聞協会は警視庁3記者クラブの要請を受け11月1日、蓮池事務局長の発表文書を集団的過熱取材対策小委員会委員、在京社会部長会会員、新潟県報道責任者会議幹事らのほか、民放連、日本雑誌協会に送付した。

 蓮池事務局長は日朝国交正常化交渉終了後、取材の申し入れが殺到するなかで、事務局長として取材に対応することを決めた。文書では「できる限り国民に理解してもらうため、事務局長の立場において取材を受けることとした」と表明。ただし、「市民生活を送る身にとってマスコミとの関係を日常的に維持することは困難」なため、取材を受けるのは在京時だけで、取材申し込みは米田建三衆議院議員の秘書を通じて受け付ける。

 蓮池事務局長以外の家族と拉致被害者への個別取材については、依然として承諾を得られていない。

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