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2003年11月
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第56回新聞大会開催――大会決議「使命達成に力注ぐ」

* 人権擁護法案が廃案に
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毎日がアテネに支局を開設――アテネ5輪に向け

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-- アセアン記者研修計画が終了
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今月の話題>>>
新聞大会研究座談会、「今日の新聞、明日の読者」で討議
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第56回新聞大会開催――大会決議「使命達成に力注ぐ」

新聞協会は10月15,16日熊本市で第56回新聞大会を開催した。新聞協会加盟社幹部ら507人が参加した。初日の大会式典では、箱島信一会長(朝日新聞社代表取締役社長)が「言論・報道の自由とメディアの独立を脅かす報道規制の動きには、今後とも監視を続け、場合によってはこれを阻止するため闘う覚悟も必要だ」「情報や記事がコンテンツと言い換えられ、伝達ツールが紙だけでなく電波や電子媒体などへと多様化することはあっても、その中核は常に新聞業界が担っていくことに変わりはない」などと表明。

続いて「激しく移り動く時代の中で、不安と緊張が世界に広がっている。新聞は報道機関の中核として、正確かつ迅速な報道と自由で責任ある言論により読者・国民の信頼にこたえ、安全で希望のもてる社会の構築に寄与しなくてはならない。第五十六回新聞大会にあたり、われわれ新聞人は、新聞のさらなる可能性を追求し、使命の達成に力を注ぐことを誓う」との大会決議を採択した。

午後の研究座談会では、新聞・通信五社の編集幹部が「今日の新聞 明日の読者」をテーマに討論が行われた。

(詳細は別項「今月の話題 」を参照)


人権擁護法案が廃案に

衆院は10月10日に解散された。2002年春の国会以来継続審議となっていた人権擁護法案は廃案となった。法務省は、社会情勢の変化や人権問題に関する新聞・放送界の自主的な取り組みを踏まえ、一定の修正を検討した上で再度の国会提出を目指す。

02年3月、政府は人権侵害の類型として、「差別」「虐待」「公権力による人権侵害」に「マスメディアによる人権侵害」を加えた人権擁護法案を国会に提出した。

法案は「人権擁護に関する施策の総合的推進」を目的に、国家行政法に基づく「人権委員会」を法務省の外局として設置。救済手続きとして助言、指導などを行う「一般救済」に加え、調停や停止勧告などができる「特別救済」を設け、後者の対象に、報道機関による人権侵害を含めた。

犯罪被害者と家族、加害少年らのプライバシー侵害や「つきまとい、待ち伏せ、見張り、電話をする、ファクスを送る」などを繰り返す取材が報道機関による人権侵害の類型として挙げられた。

これに報道界は一斉に反発。新聞協会、民放連、NHKは02年3月7日、「政府機関による報道への不当な干渉につながりかねず容認できない」とする共同声明を政府に提出。新聞協会は同年4月にも、個人情報保護法案とともに人権擁護法案に断固反対する緊急声明を発表した。

同法案は、人権委員会を入国管理や矯正施設を所管する法務省の外局と位置付けたことも強い批判を受けた。

法務省幹部は廃案について「国会では、審議の結果否決されたわけではないので、あくまで再提出を目指して努力する。ただしこれまでの経緯から、同じ法案を再提出しても成立の見込みは乏しい」と述べた上で、「新聞や放送界が、人権侵害の回避に前向きに自主的取り組みを進めたことは認識している。そうしたことも踏まえて総合的に勘案し、いつ、どういった内容で再提出するのかを検討したい」と話している。


毎日がアテネに支局を開設――アテネ5輪に向け

毎日新聞社は10月1日、ギリシャにアテネ支局を開設した。来年八月開催のアテネ五輪に向け、現地のさまざまな動きを伝える。

臨時支局のため体制は流動的だが、近く特派員を派遣する。これにより、毎日の海外の取材拠点は27となった。

アテネには毎日のほか、朝日新聞社、読売新聞社、産経新聞社、共同通信社が支局を開設しているほか、NHKが駐在員を置いている。


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アセアン記者研修計画が終了

新聞協会が実施する第26回アセアン記者研修計画は10月30日、29日間の全日程を終了した。10月29日夕刻には歓送会が開かれ、新聞協会の村上重美・専務理事からインドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの七か国十四人の参加記者に修了証が授与された(写真上)。

ラジオ「ベトナムの声」(ベトナム)国際局のゴ・ミン・ヒエン記者は個人取材期間中、漁業協同組合や魚市場などを訪問。ベトナムには漁師が多く、日本の漁業やそれに携わる人たちに関心があったからだ。「日本の漁師や市場で働く人たちはとても楽しそうだった。本当の日本の姿を体験できた。今年は日越国交樹立三十周年でもあり、この機にリスナーに日本の文化や社会を伝えたい」と語った。

マニラ・スタンダード紙(フィリピン)のホセ・サントス・パトロン・アルディビージャ・アート・ディレクターは日本の感想を7枚の漫画で表現。ホームレスの人が読み終わった新聞を毛布代わりに寝ている様子を「リサイクルは日本の現代的な生活の一部になっている」と風刺した(写真下)。計画の中では「引きこもり」の取材が印象に残ったと話す。「引きこもりはフィリピンではそれほど多くない。日本では推計で160万人もの人が引きこもりだという話に、日本の将来が心配になった。記事にまとめたい」と話した。

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今月の話題>>>

新聞大会研究座談会、「今日の新聞、明日の読者」で討議

新聞大会では、新聞の今日的な課題を討議するため、日程の一つに「研究座談会」を組み込んでいる。10月15、16日に熊本市で開かれた第56回新聞大会の研究座談会では小林泰宏(こばやし・やすひろ)朝日新聞社常務取締役をコーディネーターに、朝比奈豊(あさひな・ゆたか)毎日新聞東京本社編集局長、国分俊英(こくぶん・としえい) 共同通信社編集局長、塩越隆雄(しおこし・たかお) 東奥日報社取締役編集局長、田川憲生(たがわ・けいせい) 熊本日日新聞社取締役編集局長が「今日の新聞 明日の読者」をテーマに討議した。

まず、各氏が現状における課題を提起した。

国分=新聞が基幹メディアであることは間違いない。専門記者が意味付けし整理して報じているメディアは新聞だけだ。テレビやインターネットはファストフード・メディアだが、新聞はスローフード・メディアだ。ファストフード・メディアが、複雑な世の中を分かりやすく伝えるのは難しい。

塩越=多メディア化が進むなか、新聞の相対的地盤沈下は、ある意味で当たり前だ。しかし、若者が新聞を読まないのは、新聞が面白くなくなっているからではないか。若い記者の意識も変化し、取材力が落ちている。「新聞記者」になりたいというより、「入社」志望で記者になっている者が増えている感がある。新聞は今、曲がり角に来ている。

朝比奈=新聞の将来を悲観的にとらえるべきでない。ただ、新聞が面白くないとの意見にも一理ある。新聞報道と人権、プライバシーの調整が重要な問題になったが、そうした批判の声に萎縮してしまう傾向がないとは言えない。また、当局の情報管理・操作が進み、政治家や当局のメディアの使い方も巧妙になっている。一歩油断すると、記者クラブで発表だけを書く危険もある。

田川=新聞がジャーナリズム性を失いつつあるのではないか。取材先の言い分に疑問を持つ記者が少なくなっている。また、新聞の読者離れに拍車をかけるのが報道規制の問題だ。警察による事件・事故被害者の匿名発表が広がっているが、記者が取材し実名を報道すると、読者から苦情が来る。かつては読者が新聞の味方だったが、いつの間にか、読者は警察を支持し、新聞が読者と対立する状況にあることを、忘れてはいけない。

続いてこれらの課題にどのように対処すべきかについて認識が示された。

塩越=部に所属しない編集委員を作り、各自にテーマを持たせプロジェクトを任せている。記者教育は、現場主義を基本とし、取材の基本を学べる警察取材からスタートさせている。

田川=新人記者の配属先は、警察担当、運動部、文化生活部の三個所だ。警察取材は取材の基本を学べるが、一般市民の目を忘れ、権力監視の基本姿勢を失う恐れもある。運動部は短時間で取材し人間ドラマを書くので、読者の立場から記事を書く訓練ができ記録の重要性も学ぶ。

朝比奈=記者は皆、支局に配属し、サツ回りと運動記者の両方を経験させて育てている。ただ、支局の実地教育の場としての機能が、10〜20年前に比べて落ちている。仕事が増え、支局の環境が変わってきたからだ。また、先輩や取材先と生身のコミュニケーションをとる機会が減っている。そこで、新人は支局配属後、6、9、11月に本社に集め再度研修し、取材の悩みを聞いたり、酒を飲んだりして相互に交流する場を作っている。

田川=組織の在り方が時代の変化に対応してない。企業の倒産は経済部が取材しても、従業員の生活の話はどの部署も書かない。年金改革についても、一般読者への具体的影響を示す社会部の記事が不十分だ。旧態依然とした取材体制がこの結果を招いている。

朝比奈=縦割りの組織編成に伴う弊害に対処するため、テーマごとに常時チームを作って、部際取材をしている。

国分=外信記者が政治部を経験するなど、局内各部の人事交流を行っている。また、テーマごとに打ち合わせを密にして、情報の共有を図っている。

朝比奈=96年春から署名記事を多用化している。各記者の視点と努力の成果がはっきり分かるので、記者の意識が高まる。

読者の信頼を得るための工夫として、外部から委員を招いた第三者委員会を設置した。読者からの苦情は委員会ですべて公開する。委員会の活動を通じて読者に、新聞社が苦情に適正に対応していることを示すことができる。

最後に、今後に向けて行うべきことについて発言があった。

塩越=新聞は、インターネットを取り込む努力をする必要がある。サイトの読者は明らかに新聞読者と違うニュースに反応を示す。ネットは若者の表現の場にもなっている。そういう読者を新聞に取り込むポイントは、「双方向性」ではないか。

田川=今年の年間企画では、30代記者の発案で、経済が落ち込んだ今日の日本の姿に重なる30代の実像に迫った。30代の記者をキャップにし、記者やカメラマンの氏名や年齢も掲載したところ、20〜30代の読者から、「新聞のタブーを破った」「取り上げられた人の生き方に共感した」など大きな反響があった。明日の読者を受け入れるカギがここにあるのではないか。読者に必要な情報を本当に伝えているか、共感できる紙面を作っているかを常に自問自答している。

朝比奈=がんで亡くなったある記者のルポ掲載したところ、10〜20代の読者から大きな反応を得た。死を身近に経験しない若い世代に、死という問題を突きつけることができた結果だと思う。若者の新聞離れというが、新聞が若者離れしていたのかもしれない。反省する必要がある。

国分=当たり前だが、検証報道を大事にしたい。メディアは、現在から未来を見る記事にシフトしがちがだが、過去・現在・未来を一体として見る検証報道に力を入れていきたい。

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