新聞大会では、新聞の今日的な課題を討議するため、日程の一つに「研究座談会」を組み込んでいる。10月15、16日に熊本市で開かれた第56回新聞大会の研究座談会では小林泰宏(こばやし・やすひろ)朝日新聞社常務取締役をコーディネーターに、朝比奈豊(あさひな・ゆたか)毎日新聞東京本社編集局長、国分俊英(こくぶん・としえい) 共同通信社編集局長、塩越隆雄(しおこし・たかお) 東奥日報社取締役編集局長、田川憲生(たがわ・けいせい) 熊本日日新聞社取締役編集局長が「今日の新聞 明日の読者」をテーマに討議した。
まず、各氏が現状における課題を提起した。
国分=新聞が基幹メディアであることは間違いない。専門記者が意味付けし整理して報じているメディアは新聞だけだ。テレビやインターネットはファストフード・メディアだが、新聞はスローフード・メディアだ。ファストフード・メディアが、複雑な世の中を分かりやすく伝えるのは難しい。
塩越=多メディア化が進むなか、新聞の相対的地盤沈下は、ある意味で当たり前だ。しかし、若者が新聞を読まないのは、新聞が面白くなくなっているからではないか。若い記者の意識も変化し、取材力が落ちている。「新聞記者」になりたいというより、「入社」志望で記者になっている者が増えている感がある。新聞は今、曲がり角に来ている。
朝比奈=新聞の将来を悲観的にとらえるべきでない。ただ、新聞が面白くないとの意見にも一理ある。新聞報道と人権、プライバシーの調整が重要な問題になったが、そうした批判の声に萎縮してしまう傾向がないとは言えない。また、当局の情報管理・操作が進み、政治家や当局のメディアの使い方も巧妙になっている。一歩油断すると、記者クラブで発表だけを書く危険もある。
田川=新聞がジャーナリズム性を失いつつあるのではないか。取材先の言い分に疑問を持つ記者が少なくなっている。また、新聞の読者離れに拍車をかけるのが報道規制の問題だ。警察による事件・事故被害者の匿名発表が広がっているが、記者が取材し実名を報道すると、読者から苦情が来る。かつては読者が新聞の味方だったが、いつの間にか、読者は警察を支持し、新聞が読者と対立する状況にあることを、忘れてはいけない。
続いてこれらの課題にどのように対処すべきかについて認識が示された。
塩越=部に所属しない編集委員を作り、各自にテーマを持たせプロジェクトを任せている。記者教育は、現場主義を基本とし、取材の基本を学べる警察取材からスタートさせている。
田川=新人記者の配属先は、警察担当、運動部、文化生活部の三個所だ。警察取材は取材の基本を学べるが、一般市民の目を忘れ、権力監視の基本姿勢を失う恐れもある。運動部は短時間で取材し人間ドラマを書くので、読者の立場から記事を書く訓練ができ記録の重要性も学ぶ。
朝比奈=記者は皆、支局に配属し、サツ回りと運動記者の両方を経験させて育てている。ただ、支局の実地教育の場としての機能が、10〜20年前に比べて落ちている。仕事が増え、支局の環境が変わってきたからだ。また、先輩や取材先と生身のコミュニケーションをとる機会が減っている。そこで、新人は支局配属後、6、9、11月に本社に集め再度研修し、取材の悩みを聞いたり、酒を飲んだりして相互に交流する場を作っている。
田川=組織の在り方が時代の変化に対応してない。企業の倒産は経済部が取材しても、従業員の生活の話はどの部署も書かない。年金改革についても、一般読者への具体的影響を示す社会部の記事が不十分だ。旧態依然とした取材体制がこの結果を招いている。
朝比奈=縦割りの組織編成に伴う弊害に対処するため、テーマごとに常時チームを作って、部際取材をしている。
国分=外信記者が政治部を経験するなど、局内各部の人事交流を行っている。また、テーマごとに打ち合わせを密にして、情報の共有を図っている。
朝比奈=96年春から署名記事を多用化している。各記者の視点と努力の成果がはっきり分かるので、記者の意識が高まる。
読者の信頼を得るための工夫として、外部から委員を招いた第三者委員会を設置した。読者からの苦情は委員会ですべて公開する。委員会の活動を通じて読者に、新聞社が苦情に適正に対応していることを示すことができる。
最後に、今後に向けて行うべきことについて発言があった。
塩越=新聞は、インターネットを取り込む努力をする必要がある。サイトの読者は明らかに新聞読者と違うニュースに反応を示す。ネットは若者の表現の場にもなっている。そういう読者を新聞に取り込むポイントは、「双方向性」ではないか。
田川=今年の年間企画では、30代記者の発案で、経済が落ち込んだ今日の日本の姿に重なる30代の実像に迫った。30代の記者をキャップにし、記者やカメラマンの氏名や年齢も掲載したところ、20〜30代の読者から、「新聞のタブーを破った」「取り上げられた人の生き方に共感した」など大きな反響があった。明日の読者を受け入れるカギがここにあるのではないか。読者に必要な情報を本当に伝えているか、共感できる紙面を作っているかを常に自問自答している。
朝比奈=がんで亡くなったある記者のルポ掲載したところ、10〜20代の読者から大きな反応を得た。死を身近に経験しない若い世代に、死という問題を突きつけることができた結果だと思う。若者の新聞離れというが、新聞が若者離れしていたのかもしれない。反省する必要がある。
国分=当たり前だが、検証報道を大事にしたい。メディアは、現在から未来を見る記事にシフトしがちがだが、過去・現在・未来を一体として見る検証報道に力を入れていきたい。