衆参両院憲法調査会の最終報告書が出そろった。衆議院の調査会は15日、参議院の調査会は同月20日にそれぞれ議決、各議長に提出した。両報告書は、プライバシー権、知る権利、マスメディアへのアクセス権などといった「新しい人権」の憲法への明記に言及。衆院は、この3つの権利を明記すべきとする「多数」意見を紹介し、参院はプライバシー権の明記を「すう勢」意見とした。報道の自由との関連では、両院とも、知る権利に奉仕する意義を評価する意見と併せ、人権・プライバシー侵害などのマスメディアの問題を指摘する意見も紹介。第三者機関の設置などマスメディアの自主規制に対する評価も、積極、消極両論を盛り込んだ。憲法改正手続きに必要な国民投票法案を審議する後継機関の扱いは両院議長らに一任され、今後は、憲法改正と論議とあわせ同法案の扱いに焦点が移る。
憲法調査会は、憲法について「広範かつ総合的に調査を行うため」、2000年に設けられた。衆議院50人、参議院45人で構成。最終報告書は衆参両院とも、自民、民主、公明三党の賛成多数で議決。共産、社民の両党は反対した。
報告書では、意見が分かれたもののうち、衆院は、約20人以上が発言した項目について、全体の3分の2以上が一致したものを「多数」意見とした。参院は、自民、民主、公明三党がおおむね一致したものを「すう勢」意見とした。
「新しい人権」の憲法への明記の是非について、両院ともに賛否両論を併記した上で、個別の権利についてマスメディアとのかかわりに触れた。
衆院では、
1) 知る権利を「国民が政治的意思決定に関与するという自己統治の価値にとって前提となる」
2) アクセス権を「マスメディアの巨大化および情報の寡占化が進んでいる」
3) プライバシー権を「情報化社会の進展が著しい」
――などの理由で規定すべきとする意見が「多数」だった。
表現の自由については、参院が「メディアやIT技術の発達に即した規制のあり方については、意見が分かれた」として両論を併記。
中でも、報道の自由に関連しては、両院とも、国民の知る権利に奉仕する重要な意義を持つとする意見を紹介する一方、「マスメディアの影響力の増大、商業主義に流されがちであること等から、報道される側が権利的にも低位に置かれ、多くの人権侵害がみられる」(衆院)、「報道の行き過ぎによりプライバシーが侵害されるなどの問題面が認識されるようになった」(参院)との意見も紹介した。
衆院では、表現の自由とプライバシー権が衝突した場合も議論され、「表現の自由がより尊重されることが普遍的な公理」とする意見とともに、「それがマスメディアの報道の自由である場合、弱者としての個人のプライバシー権を守るために一定の配慮が必要」との意見も併記した。
また、報道の自由と個人のプライバシーの調整に関しては、マスメディアの自主規制について次のような肯定的意見と否定的意見の双方が記載された。
<肯定的意見>
「マスメディアに対する法的な規制は絶対にあってはならず、自主的な判断に委ねなければならない」
「自主規制が当然で、それにはマスメディアが自主的に設置した第三者機関によるチェックが有効だ」
<否定的意見>
「自主規制だけでは足りない」
「行政から独立した第三者機関を設置し、報道の自由の保障と個人のプライバシーの保護の双方を図るべきだ」
「裁判による事後的な調整に当たっては、懲罰的な損害賠償制度を導入すべきだ」
参院でも、マスメディアの自主規制について、「政府機関に委ねるとどちらか一方に軍配をあげることになる」「自主規制はあまり成功例を聞かない。仲間をかばうための隠れみのと言われないような第三者の介入や公開があれば、もう少し進むのではないか」など、積極、消極評価の両論が盛り込まれた。