NSK ニュースブレチン オンライン
2005年6月
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ウイルス対策ソフトに不備――報道機関の影響受ける

* 情報サミットテーマ別会合開く
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-- 朝日新聞阪神支局が立て替え――新しい建物内に襲撃事件のメモリアル・スペース設置
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JR尼崎駅付近で脱線事故――メディアの諸問題があらわに
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ウイルス対策ソフトに不備――報道機関の影響受ける

 共同通信など一部の報道機関で4月23日、トレンドマイクロ社が配布したコンピューターウイルス対策ソフトに不備があった影響を受け、コンピューターの処理速度が遅れたり、端末が起動しなくなったりするといった問題が生じた。共同通信では一般記事の配信ができなくなりファクスで送信して対応した。

 不具合が生じたのは、ウイルス対策ソフトがウイルスの有無を検索できるようにするため、ウイルスを定義付ける「パターンファイル」。トレンド社が23日午前7時33分から約1時間半、インターネットを通じて公開、配布した。ユーザーは定義ファイルを定期的にダウンロードし、増え続けるウイルスに備えている。今回、ファイルの更新後、対策ソフトがOSの一部の正常なファイルをウイルスだと誤認し検索・確認作業を行い続け、コンピューターに過度の負担がかかった。

 共同では午前8時20分ごろから、電子編集端末にログインできなくなるなどの障害が発生し、一般記事の読み込み、編集、出稿作業ができず配信が中断。ファクスで重要な記事21本を配信したほか、通常スポーツの記録などを処理しているシステムを利用して2本流した。配信システム自体に被害はなく、気象情報や市況データ、スポーツ等の「記録物」の配信に支障はなかった。10時半ごろに仮復旧し、配信を再開。11時2分に加盟社に「復旧のお知らせ」を流した。共同は現在、対処方法などを検討。当面の措置として、パターンファイルの取り込みをやめている。

 そのほか、パソコンが起動しない、処理速度が遅い、LANに接続できないなどの障害が出た新聞社もあったが、新聞製作に大きな影響はなかった。


情報サミットテーマ別会合開く

 国連の世界情報社会サミット(WSIS)のテーマ別会合「東京ユビキタス会議」が16、17の両日、東京で開かれた。総務省、国際電気通信連合、国連大学が主催。世界85か国・地域の政府代表者、専門家、市民団体などから、およそ600人が参加した。

 同会議では、いつでも、どこでも、誰でもネットワークに接続できるユビキタスネットワーク社会の実現に向け、今後の課題などを議論。セキュリティー・プライバシー保護やデジタルディバイド解消、技術の標準化などの問題点が指摘された。

 言論・表現の自由については、インドの通信技術情報省の担当者が「ユビキタスネットの構築によって権力者がどんな力を持ち、その国が誰に向けて構築するのか考えなければいけない。ネットワークが言論・表現の自由を促進するのか、管理するのか」「世界でこうした問題の答えを導き出さなければならない」と話した。このほか「ユビキタスネット社会ではすべての人に、自由に情報が提供されなければいけない。そのためには、言論の自由の確立が必要だ」(スイス連邦の通信委員会委員長)、「ブロードバンド化など物理的・技術的な情報社会の構築ではなく、言論・表現の自由が安定し生活の安全性が確保できるか、といった精神的な側面を追求し、情報貧困を回避すべきだ」(タイ視覚障害者協会会長)などの意見があった。

 WSISは、2003年12月にスイス・ジュネーブで第1回が開かれた。今回の会議を総括した議長報告は、11月にチュニジアで開かれる第2回WSISに提出される。



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朝日新聞阪神支局が立て替え――新しい建物内に襲撃事件のメモリアル・スペース設置

 朝日新聞阪神支局襲撃事件の現場となった同支局の建物が立て替えのために、取り壊されることになった。新局舎の完成は来年3月。「メモリアル・スペース」(仮称)を設け、事件当時の現場資料や取材で収集した資料などを展示、保存し、社員研修や言論の自由に関心を持つ市民・研究者に利用してもらう計画だ。

 朝日新聞阪神支局襲撃事件とは1987年5月3日、兵庫県西宮市内にある朝日新聞阪神支局に何者かが侵入、散弾銃を発砲した。この発砲で小尻知博(こじり・ともひろ)記者が死亡、犬飼兵衛(いぬかい・ひょうえ)記者が重傷を負った事件。

 朝日新聞社は事件後、毎年、5月3日には阪神支局に小尻記者を追悼する礼拝所を設置しているが、今年も同礼拝所に約430人が訪れ、小尻記者の遺影に花を添え、手を合わせたという。

 支局の建て替えについて、事件当時、支局長だった大島次郎(おおしま・じろう)氏は「阪神支局は小尻君を追悼するためだけの場ではない。言論への暴力を断ち切ることを誓うための場でもある。建物は新しくなっても、その2つの意義はさらに深まるよう願っています」と語った。

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JR尼崎駅付近で脱線事故――メディアの諸問題があらわに

 4月25日午前9時18分ごろ、兵庫県尼崎市のJR西日本・尼崎駅付近で走行中の列車が脱線してビルに激突、運転士・乗客計107人が死亡する事故が発生した。報道関係者では2人が亡くなり、10数人が重軽傷を負った。

 報道各社は総力を挙げて事故の取材に当たったが、地元の報道各社は集団的過熱取材(メディアスクラム)の発生を回避するため、遺族の感情に配慮した節度ある取材を心がけるよう申し合わせた。また、死者107人のうち4人について兵庫県警が遺族の強い希望を理由に氏名を公表しなかったため、県警の記者クラブが実名による公表を申し入れた。

 写真・映像取材では、航空機による撮影のほか、新聞・通信社では異例の高所作業車を使った撮影が行われた。

 JR西日本の記者会見では、テレビで流れた記者の質問の仕方や態度について、世論の反発もみられた。

 事故発生から3日目、兵庫県内の報道責任者会は、尼崎市内の遺体安置所で、遺族らを集団で長時間にわたり取り囲むなど、メディアスクラムに発展しかねない過剰な取材がみられるとして、「遺族感情に十分な思いをはせて、より節度を持った取材を心がける」ことを申し合わせた。現場では、特に取材を嫌がる人への執拗(しつよう)な取材に対する苦情が、その場の報道陣やJR西日本の関係者、兵庫県警に寄せられていた。

 申し合わせを提起した地元の神戸新聞の高士薫(たかし・かおる)編集局次長兼社会部長は、「発生当日はもっと大変な状況だったが、取材を受ける側にやむを得ないという思いもあっただろうし、取材が1回で済んだ人も多かった。事故発生3日目となり、身内の安否を確認するために遺体安置所に繰り返し訪れる人や、泊まり込む人などに取材が集中し、当人にとって耐え難い状況が生じた。繰り返される取材が抗議につながった」と指摘する。

 事故発生当初、報道各社は負傷者が搬送された病院や遺体安置所、救助にあたる消防署などからの断片的な情報を集め、被害者に関する情報を伝えた。県警の発表がなかなか行われず、同編集部会幹事社が口頭で早期発表を申し入れた。県警が最初の発表を行ったのは25日午後9時55分。事故発生から半日が経過していた。

 その後、県警は速やかに発表するようになったが、現在まで死者のうち4人の氏名を公表せず、住所(市まで)、性別、年齢のみの公表にとどまっている。県警記者クラブは、これほどの大事故で被害に遭った人を特定することは必要不可欠であるとして実名を公表するよう要請したが、現在まで実現していない。

 また、初報で掲載・放送した氏名や顔写真について、遺族から出さないでほしいとの要望が寄せられ、各社とも対応に苦慮している。「奪われた命の重さを社会全体で共有していくことが再発防止の大前提だ。被害に遭われた方を広く紹介することには社会的意義がある」と話す高士氏は、遺族の理解を得るための努力を続けながら、粘り強く取材を続けていく必要性を強調している。

 今回の事故の取材、報道では、高所作業車が使われた。テレビ局が撮影に使うことは以前からあったが、新聞・通信社が使うケースはほとんど無かった。ヘリコプターによる航空取材は、騒音による救出作業への影響が大きいことから、今後、この作業車が使われるケースが増えることも考えられる。

 写真部関係者は「便利ではあるが、今回は現場周辺にスペースがあり、地権者との調整がついた特殊なケースだ。ただ、救出場面を撮るためにずっとヘリで上空を旋回するわけにはいかず、長期に及ぶ取材には使える」と話している。

 JR西日本の記者会見をめぐっては、厳しい口調で質問する記者の様子がテレビで流れた。これが読売新聞の記者だったことがブログなどで取り上げられ、激しい批判が起こった。この問題に関し、読売新聞社は5月13日付朝刊紙面で「会見での暴言を恥じる」とするおわびを掲載、「本社の社会部記者に不穏当・不適切な発言があり、読者の読売新聞及びジャーナリズムに対する信頼を傷つけたことはまことに残念です」などとし、当該記者を厳重注意した上で会見取材から外したことを明らかにした。

 

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