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2006年2月
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犯罪被害者等基本計画で「実名・匿名は警察判断」残る――新聞協会と民放連が「遺憾」と共同声明

* 朝日が編集改革案を発表――記者研修を長期・充実化、東京本社の編集長を2人に
* 裁判所の記者席利用の請求退ける--「記者クラブに加盟する記者とフリーランスを区別する合理的理由ある」
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報道後に異例の協定結ぶ――仙台での新生児誘拐事件、県警の対応不備には抗議
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犯罪被害者等基本計画で「実名・匿名は警察判断」残る――新聞協会と民放連が「遺憾」と共同声明

 政府の犯罪被害者等基本計画が昨年12月27日、閣議決定された。計画には素案通り、被害者の実名、匿名発表について、警察庁が「個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」とする項目が入った。これを受け、新聞協会と民放連は同日、再三にわたる異議申し立てにもかかわらず同項目が残されたことに対し、遺憾の意を表明する共同声明(全文を別掲)を発表。あらためて匿名発表に対する危惧(きぐ)を示し、実名発表を求めたほか、「警察現場で、この項目が恣(し)意的に運用されることのないよう、私たちは国民とともに厳しく監視したい」と決意表明した。政府は、同項目は取材・報道を規制するものではないとしている。

 同計画は、犯罪被害者等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るために、5つの重点課題のもとに計258項目の具体的施策をまとめた。期間は2010年度末までの約5年間で、期間終了後、作り直す。また、犯罪被害者等のニーズや取り巻く環境の変化等を踏まえて、随時、見直す。

 具体的施策のうち、新聞協会が削除を求めてきた被害者の実名、匿名発表に関する項目の素案は、犯罪被害者等基本計画検討会が取りまとめ、犯罪被害者等施策推進会議が了承した。推進会議では、(1)取材・報道の自由に規制を加えるものではない(2)警察の事件・事故発表時に限定され、他に波及するものではない(3)実名発表を求める犯罪被害者等まで匿名にするものではない(4)警察の「恣意的な」判断や「安易な」匿名発表の拡大を認めるものではない(5)警察に新たな権限を付与するものではない(6)警察が匿名発表する場合は、その都度、マスコミに対し、匿名とする理由を説明し、議論に応ずる−−との補足説明が行われた。

 

朝日が編集改革案を発表――記者研修を長期・充実化、東京本社の編集長を2人に

 朝日新聞社は昨年12月26日、昨年の衆院選をめぐる元長野総局記者の虚偽メモ問題(昨年9、10月号参照)を受けて検討していた編集改革案を公表した。編集局幹部や現場の記者らで作る「信頼される報道のために」委員会で原案を練り、役員で構成する編集改革委員会で報告書をまとめた。新人記者の強化を目的とした研修期間の長期化・内容の充実化や、東京本社編集局長2人制、読者による記事評価制度の新設などが柱。縦割りの弊害があるとして、部制の枠組みも廃止する地方取材網の充実・強化も盛り込んだ。いずれも速やかに着手するとしている。また、同社は1月1日付で社内の法令順守などについて審議・決定するコンプライアンス委員会を新設した。

 報告書によると、記者教育に関しては、15日間だった記者の入社時研修を2006年度から約2か月間に延ばし、ジャーナリズムの基礎や取材に必要な法律の基礎知識などを指導する。入社15年目までの若手・中堅記者には、時代や社会の変化に的確に対応できるよう、ブラッシュアップのための研修制度を整備する。「朝日ジャーナリスト学校」と名付け、将来的には外部に開かれた教育・研究機関とすることを目指す。

 組織運営では、東京本社の編集局長を2人制にする。1人は編集長業務に専念させ、もう1人は記者育成や配置などの人事・管理業務を担当。東京、大阪両本社では部制をなくし、組織の風通しを良くする。また、調査報道型の取材体制強化を目指し、東京本社編集局に特別報道チームを設置、これら三点を一体として2006年度から実施する。

 コンプライアンス委員会は、秋山耿太郎・代表取締役社長が委員長を務めるほか、社外から2委員を招いた。同社では昨年、虚偽メモ問題をはじめ多くの問題が噴出したことなどから、コンプライアンス体制の整備が急務と判断した。4月にコンプライアンス規定と行動規範を施行、内部通報制度を発足させる予定。



裁判所の記者席利用の請求退ける--「記者クラブに加盟する記者とフリーランスを区別する合理的理由ある」

 司法記者クラブに加盟する報道機関の記者にのみ、記者席を利用させ、また判決要旨を提供するのは、取材・報道の自由を侵害する――などとして、フリージャーナリストが、248万円の損害賠償を国に求めた訴訟の判決が1月25日、東京地裁民事第50部であった。

東京地裁は、「報道機関が裁判所に対して、傍聴席の確保や判決要旨の交付を請求する権利はなく、(請求に応じなくても)取材・報道の自由を侵害する余地はない」などとして、フリージャーナリストの請求を棄却した。

 判決によると、このフリージャーナリストは2003年4月、札幌地裁で開かれた、ある事件の公判に際し、あらかじめ申し入れた傍聴席の確保と判決要旨の交付を同地裁職員に断られた。

また、同年7月、東京地裁で行われたある事件の公判で、記者用の傍聴席に着席していたところ、同地裁職員に離席させられた。フリージャーナリストは、これらの行為は取材・報道の自由を侵害するほか、クラブ加盟記者と合理的な理由なく差別するもので憲法違反だと主張していた。

 これに対し東京地裁は「取材・報道の自由は、報道機関の行為に対して国家機関が介入してはならないという消極的な自由を意味するにとどまり、国に対して一定の行為を請求できる積極的な権利は含まない」と指摘、傍聴席の確保や判決要旨の交付は司法行政上の便宜供与に過ぎないと認定した。

 また、便宜供与の範囲をクラブ加盟記者に限っている点については、「裁判所が、要請の都度、その当否を判断することは事実上困難で、客観的に明確な基準を設けることは必要だ」と指摘。北海道、東京それぞれの司法記者クラブは「速報性のある新聞、放送等の分野の報道機関の記者によって構成され、取材拠点として一定の役割を果たしており、裁判の内容が迅速かつ正確に国民に対して報道されることに寄与することが期待できる」などとして、フリージャーナリストとクラブ加盟記者とを区別して取り扱ったことには合理的理由があると判断した。

 

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日本海側で記録的大雪――新聞発行、配達にも影響でる

 昨年12月から日本海側は記録的な大雪に見舞われている。屋根からの落雪や除雪中の事故で亡くなった方が90人を超えるなどの大きな被害をもたらしている。また、東北、北陸の日本海側地域を中心に、新聞各社の新聞発行、配達などにも影響が出ている。

新潟県では12月22日、送電線への着雪を原因とした65万戸に及ぶ大規模な停電が発生、新潟日報は翌23日付朝刊を減ページで発行した。1月初めには秋田県で、豪雪のため店着、配達に大きな遅れが出たほか、長野県では一部の孤立する集落で配達不能になっている。

例年雪の多い2月を控え、各社は引き続き状況を注視している。

 新潟県内では12月22日、午前8時ごろから、最大大規模な停電が発生。全面的な復旧には、翌日午後3時過ぎまでかかった。新潟日報は、22日付夕刊の印刷を自家発電で対応。刷り上がった新聞をトラックに運ぶまでの系統が使用できず、人手での搬送となった。翌23日付朝刊の作業では、電源供給が不安定だったため、通常の32ページを24ページに変更。刷り出しの時点で電源は復旧したが、輪転機の稼働中に電源が落ちる万一の事態も考え、減ページのまま印刷した。

 発送、輸送の関連では、販売店着時間の遅れはあったが、降版時間を早めて対応したこともあり、大きな影響はなかった。

 秋田県の豪雪は、1月5日から6日にかけてピークを記録。各社の発送、配達に影響が出た。秋田魁新報社の配布エリアでは、一部で配達が遅れたり翌日配達となる地域が出た。「都市部より周辺部の方が除雪作業に慣れているため、販売店に着いてしまえば、配達はスムーズに行える。むしろ都市部のほうが、大雪に慣れていないため交通網が混乱し、配達に時間がかかった」という。新聞制作、取材等に大きな影響はなかった。

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報道後に異例の協定結ぶ――仙台での新生児誘拐事件、県警の対応不備には抗議
 仙台市で1月6日、病院へ進入した男が新生児を連れ去る事件が発生した。宮城県警は当初、連れ去られたのが新生児で、生命に危機が迫る案件であることなどから事実を公表、報道各社は事件発生を大きく報じたが、その後、身代金を要求する脅迫状が見つかった。県警は7日、身代金目的誘拐と判断し、報道各社に誘拐報道協定の締結を要請。これを受け報道各社は同日午後5時30分、誘拐報道協定を締結した。

協定締結は今回で58件目となるが、事件発生を報道した後の締結は極めて異例で、1984年のグリコ・森永事件以来。協定には「協定締結前の略取事件の報道はこの限りではない」との一文を盛り込まれ、協定中に略取事件について続報する社もあった。

また、協定をめぐり、県警の対応が協定の趣旨に反して極めて不十分で不誠実だったとして、宮城県内の新聞・通信・放送13社で構成する宮城県報道責任者会が11日、文書で県警本部長に抗議した。

 事件はその後、翌8日午前5時38分に新生児を解放したとの電話があり、無事保護された後の同6時56分に協定は解除された。

 事件発生報道後の報道自粛という異例のケースだったため、報道各社間では、協定締結の方法が議論の焦点となった。県警の要請は、身代金誘拐事件に関する取材・報道は自粛してほしいが、略取事件については、協定の趣旨を踏まえた上での報道であれば構わないというものだった。

 略取事件に関する報道の扱いは、仮協定後の同責任者会でも、協議が難航。いったんは、一切の取材・報道を自粛すべきだとの意見が大勢を占めたが、民放局が夕刻の時間帯にニュースを組み込んでいるなどの事情から、協定に「協定締結前の略取事件の報道はこの限りではない」との一文を盛り込んで、協定が締結された。

 略取事件の続報は、民放局が同日夕刻に報じたほか、地元紙の河北新報が、8日付朝刊社会面で「遺留品など徹底捜索」などの見出しで報じた。河北の担当者は、「連日、大きく報道してきた略取事件の続報が全くなくなることで、犯人を刺激する可能性もあった。地元紙でもあり、不自然にならない程度の配慮をした」と話す。共同通信も略取事件の続報を配信した。担当者は「協定に触れない部分は、引き続き淡々と報道すべきだと判断した。加盟社が読者に説明できなくなるという問題もある」と語った。

 一方、全国紙各社は8日付朝刊では、協定の趣旨に鑑みて略取事件に関する報道も行わなかった。「事件が一切報じられなくなる不自然さは否定できないが、報じることによる危険性との比較で、声明を最大限優先した」「実際に事件は動いており、誘拐された事実に目をつぶって記事を書くことはうそを書くことにもなる」との判断もあったようだ。

 同責任者会から県警への抗議は、協定期間中に解放の電話があった点や、容疑者2人に任意同行を求めていた点を速やかに明らかにしなかったことなどに対するもの。

県警の対応が協定の趣旨に反しているとし、抗議文では(1)協定中は情報を逐一速やかに提供すべきところ、一部事実が秘匿され、公表された情報も極めて不十分で迅速さに欠けていた(2)県警側は「協定締結中の捜査経過の発表は刑事部長や幹部が行う」とし、報道側も定期的な会見を開くよう要請していたが、正式会見は1回にとどまった−−などと指摘した。抗議文提出に先立ち、同記者会も口頭で抗議した。

誘拐報道協定とは

日本新聞協会の「誘拐報道の取り扱い方針」では

「誘拐事件のうち、報道されることによって被害者の生命に危険が及ぶおそれのあるものについては、報道機関は捜査当局からすみやかにその情報の提供を受け、事件の内容を検討のうえ、その結果によっては報道を自制する協定を結ぶ。ただし、これが、単に捜査上の便宜から乱用され、あるいは報道統制とならぬよう厳に注意する。」とされている。

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