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2006年4月
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記者クラブ見解を改定――新聞協会

* 取材源秘匿で裁判所が異なる判断示す
* 特殊指定堅持、強く要求――新聞協会が特別決議
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今月の話題>>>
活字文化があぶない!――メディアの役割と責任めぐりシンポジウム開催、新聞協会
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記者クラブ見解を改定――新聞協会

 新聞協会は3月15日、インターネットの急速な普及や多メディア状況を踏まえ一部改定した「記者クラブに関する編集委員会の見解」を公表した。改定は2002年以来4年ぶり。情報が氾濫するネット時代にあって、報道倫理の順守がより強く求められていることから、加盟要件にかかわる部分を補足するとともに、情報公開を迫るクラブの社会的責務を強調。クラブ構成員にはクラブの役割が求められる点にも説明を加え、入会や会見出席の要請に対する判断材料として示した。

 今回は見解の「取材・報道のための組織」の章を中心に改定した。ネットを利用した情報発信が常態化し、「情報の選定が公的機関側の一方的判断に委ねられかねない時代」との認識の下、「報道倫理に基づく取材に裏付けられた確かな情報こそがますます求められる」ことを強調した。その上で、クラブは公権力を監視し、情報公開を迫るという社会的責務を負っており「クラブ構成員や記者会見出席者は、こうした重要な役割を果たすよう求められる」ことを確認した。

 改定の趣旨については、見解とその解説の前文に付した。解説では「新たなメディアからの記者クラブへの加盟申請や記者会見への出席要請に対して、報道という公共的な目的を共有し、報道倫理を堅持する報道機関、記者クラブの意義・役割を理解・尊重し、運営を行う報道機関には、クラブは『開かれた存在』であり続けることを確認するためである」としている。

 


取材源秘匿で裁判所が異なる判断示す

取材源の秘匿について、東京地裁と東京高裁で異なる判断が示された。

東京地裁は認めず

 米国の健康食品会社が同国政府に損害賠償を求めた民事訴訟の嘱託尋問において、読売新聞記者が取材源に関する証言を拒否したことの当否をめぐる裁判の決定が3月14日、東京地裁で出された。決定は「記者が公務員等から守秘義務違反になる情報を得た可能性がある場合、取材源の秘匿は認められない」などとし、尋問時の質問項目の大半について、証言拒否の理由がないとした。読売は同日、「取材源が公務員の場合、記者に証言拒絶権はないとする特異な判断で、報道を制約し、国民の知る権利を損なう」との声明を発表。15日、東京高裁に即時抗告した。今回の食品会社の訴訟における嘱託尋問では、読売のほか共同通信、NHKの記者も、取材源に関する証言を拒否している。昨年10月11日の新潟地裁決定は、NHK記者の証言拒否を妥当だと認めている。

 問題となったのは、一九九七年十月十日付朝刊の記事。読売は、同食品会社日本法人の所得隠しが、日米両国税当局の調査で分かったなどと報道し、他のメディアも同様に報じた。食品会社は、記事により信用が失墜したとして、米アリゾナ地区連邦地裁に提訴。「日本の当局に情報提供したことで損害が発生した」との理由から、米国政府に賠償を請求した。東京地裁は国際司法共助により昨年11月、読売の当時の国税担当記者への嘱託尋問を行った。同記者は取材源に関する質問項目への証言を拒否。その当否が同地裁で争われていた。

 決定は、取材源が民事訴訟法上の「職業の秘密」に当たるとした上で、記者が公務員への取材から、その守秘義務に抵触する内部情報を入手した場合は「特別な事情」に当たると述べた。その場合、「取材源の開示を命じられると、それ以後同様の取材源からの協力を得ることが困難になることが予想される」としながらも、「それは、刑罰法令違反行為が行われなくなったことを意味するので、法秩序の観点からはむしろ歓迎すべきことだ」とした。「公衆は、刑罰法令により開示が禁止された情報の流通について、適法な権利(知る権利)を有していない」とも述べた。

 同記者が嘱託尋問で証言拒否した21の質問項目のうち、「記事の情報源は誰か」など7つの質問に対する拒絶は認めた。「日本の政府職員のいずれかが記事の情報源か」など14の質問への証言拒否は、認めないとした。

 読売は同日、声明を発表するとともに、15日付朝刊に「報道の意義を否定する決定だ」と題した社説を掲載。「報道が公的機関の発表だけに頼っていては、真に国民が必要とする情報を提供することができず、民主主義社会は成り立たない」と述べ、決定を強く批判した。

 取材源の秘匿と公務員の守秘義務の関係については、1978年、毎日新聞記者の外務省秘密電文の入手をめぐる最高裁決定がある。同決定は、記者を有罪とはしたが、公務員からの内部情報の入手が、報道目的によるもので手段、方法が社会観念上是認されるものである限りは、正当な業務行為だと述べた。取材源が「職業の秘密」に当たるとの判断は、1979年の札幌高裁決定で示され、最高裁も支持している。

東京高裁は認める

 米国の健康食品会社が米政府に損害賠償を求めた民事訴訟の嘱託証人尋問において、NHK記者が取材源に関する証言を拒絶したことの当否をめぐり、東京高裁は17日、食品会社側の申し立てを却下した新潟地裁決定を支持、「『職業の秘密』に属する取材源について証言を強制すべき特段の事情があるとは認められない」などとして、同社側の即時抗告を却下する決定をした。決定は「(本件では)取材源の秘匿によって保障される報道機関の取材活動の持つ民主主義社会における価値に勝るとも劣らないような利益の侵害は生じない」と言明。取材源の所属組織名のような間接的に取材源を特定する情報についても、秘匿が認められる場合もあり得るとした。また、公務員への取材については、1978年5月の最高裁決定を踏襲している。

 決定は、報道機関の取材活動を「民主主義社会の存立に不可欠な国民の『知る権利』に奉仕する報道の自由を実質的に保障するための前提の活動だ」と認定。取材源は「職業の秘密」に該当し、原則としてこれを秘匿するための証言拒絶は理由があるとした。その上で、「取材活動の持つ(前述のような)価値に匹敵する以上の社会的公共的な利益が害されるような特段の事情が認められない限り、取材源秘匿のための証言拒絶は許されるべきだ」としている。

 食品会社側は、証言拒絶による保護利益について「守秘義務違反を犯した取材源に保護利益はなく、保護は法違反事実の隠蔽になる」などとも主張。これに対しては「(保護利益は)取材源の公表によって深刻な影響を被り、以後その遂行が困難になる報道機関の取材活動上の利益だ。主張は当を得ない」とした。

 その上で、「報道機関の公務員に対する取材は、真に報道目的で手段・方法が社会通念上相当と是認できる限り、違法性のない正当な業務行為だ」とした最高裁決定を引用し、「取材活動が取材源に国家公務員法違反の行為を要請する結果になるとしても、直ちに違法となることはない。取材源秘匿の必要が相応に認められることに変わりがない」と認定。本件では「取材活動の目的、方法の適否判断を離れ、取材源の法違反の存否を検討する必要性はないし、相当ともいえない」と判断した。

 また、取材源の所属組織名に関する証言についても、「(証言だけでは)取材源の特定が困難であるとまではいえないし、報道機関と取材源との信頼関係は、取材源を直接特定する情報のみの秘匿で維持されるとは断じがたい」と指摘。本件では「所属組織名の証言を得る必要性は、取材の自由の価値、利益を凌駕(りょうが)するほど強い社会的公共的な利益に基づくものとまでは到底認められない」とした。


特殊指定堅持、強く要求――新聞協会が特別決議

 新聞協会は3月15日に開いた会員総会で、公正取引委員会に対し新聞特殊指定の堅持を求める特別決議を採択した。再販制度を骨抜きにする特殊指定見直し(2005年12月号参照)は、価格競争による配達区域の混乱、戸別配達網の崩壊を招き、多様な新聞を選択できるという読者・国民の機会均等を損なうとして、現行特殊指定の維持を強く求めている。総会での特別決議の採択は初めて。総会後、記者会見に臨んだ北村正任会長(きたむら・まさとう)は、旧来に増して重要となっている新聞の公共的役割を果たすため、特殊指定の堅持をあらためて訴えた。新聞協会はこの問題で、4月6日の「新聞をヨム日」に公開シンポジウム「活字文化が危ない!――メディアの役割と責任」を開催した(今月の話題参照)。

 決議では、特殊指定見直しの問題点を指摘するほか、「文字・活字文化振興法」が昨年7月に施行されるなど、文字・活字文化の振興が時代の要請であるにもかかわらず、特殊指定の見直しはこれに逆行するものだと主張した。

 総会で北村正任会長は、「広く世間から、われわれの主張へのバックアップを得なければならない」などと述べ、紙面などを通じた社会全体へのアピールを強く訴えた。

 会見には北村会長、再販対策特別委員会の秋山耿太郎委員長(朝日東京)が出席。北村会長は「信頼できる情報をすべての人に届けるという新聞の社会的使命は、一層大きくなっている。しかし、このところ公権力の側から、新聞本来の使命を果たしにくくする動きが出てきている。その一つが特殊指定の見直しだ」と述べ、公取委を批判。新聞協会の会員全社が規定維持に向けて決意を表明した点を強く主張した。

 秋山委員長は「公取委が6月ごろまでに結論を出したいとしているため、今の時期に新聞側の主張を広く理解してもらうことが必要だと考えた」などと述べた。

 <新聞特殊指定の堅持を求める特別決議>

 日本新聞協会は第83回会員総会にあたり、公正取引委員会に対し、「新聞業における特定の不公正な取引方法」(新聞特殊指定)の堅持を強く求める。

 新聞は、憲法21条によって保障された報道の自由を担い、国民の「知る権利」に寄与するものである。こうした使命は、自由で多様な新聞がつくられるだけでなく、公正な競争を通じ、住む場所を問わず、また災害など困難な状況下でも、同一紙同一価格で戸別配達により提供されることによって実現される。

 新聞販売店による定価割引の禁止を定めた特殊指定は再販制度と一体であり、その見直しは再販制度を骨抜きにする。販売店の価格競争は配達区域を混乱させ、戸別配達網を崩壊に向かわせる。その結果、多様な新聞を選択できるという読者・国民の機会均等を失わせることにつながる。

 昨年7月施行の文字・活字文化振興法は、すべての国民が等しく文字・活字文化の恵沢を享受できる環境の整備を国に義務付けている。公正取引委員会による特殊指定の見直しは、こうした時代の要請にも逆行している。

 われわれ新聞人は、公正な競争に一層力を入れ、特殊指定の維持に向け活動を強化していく。

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大津波の脅威を伝えたい――6社の写真記者22人が写真展を企画

 

神戸市の「人と防災未来センター」で今月、「インド洋大津波報道写真展」が開催された。朝日、毎日、読売、日経、産経、共同通信の6社の写真記者有志22人が、2004年末以降に撮影したインド洋大津波被災地の写真から、120点を持ち寄って展示した(写真=読売新聞大阪本社提供)。

大阪を拠点にする20代、30代の若い記者仲間の発案で、既に昨年末から1月にかけて京都市、大分県別府市、滋賀県草津市の3都市で写真展を開催。手作りの企画が評判を呼び、神戸での開催となった。横浜市の日本新聞博物館での巡回展も検討されている。

 いずれの写真記者も被災地を広範囲に取材し、大災害の諸相を克明に記録したが、日々の報道では紙面の制約もあり、十分な発表ができなかった。

 日々競争し合う各社の記者が協力して、手作りの写真展を開催するのは異例の取り組み。担当者は「現地の様子を日本の人に伝えたいという、若い記者たちの思いを感じ取ってほしい」と話している。

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今月の話題>>>
活字文化があぶない!――メディアの役割と責任めぐりシンポジウム開催、新聞協会

 4月6日、新聞協会主催の公開シンポジウム「活字文化があぶない!――メディアの役割と責任」が東京で開かれ、市民ら400人が参加した。シンポジウムでは新聞協会の北村正任(きたむら・まさとう)会長、文部科学相政務官の有村治子(ありむら・はるこ)・参院議員(自民)のほか、超党派の国会議員で組織する活字文化議員連盟代表幹事の鈴木恒夫(すずき・つねお)・衆院議員(自民)があいさつ。続いて作家・柳田邦男(やなぎだ・くにお)氏の基調講演と、大学教授らによるパネルディスカッションが行われた。鈴木氏はあいさつで、公正取引委員会による特殊指定の見直しに対し、議連として反対していくとの姿勢を示した。

 北村会長は、文字・活字文化をめぐる環境は悪化していると指摘。要因の一つとして今回の特殊指定見直しを挙げ、「全国にあまねく張られた戸別配達網は、文字・活字文化を守るライフラインだと確信している。文字・文化の世界にまで市場原理を持ち込み、戸別配達網をズタズタにしかねない公取委の方針には強く反対している」と強調した。その上で、「この問題にご理解いただき、今日のシンポジウムが、文字・活字文化の隆盛に向けた一里塚となることを願う」と述べた。

 小坂憲次(こさか・けんじ)文科相の代理であいさつした有村氏は「阪神淡路大震災や新潟県中越地震の際、新聞は被災者に『安心』と『希望』を与えてくれた」と述べ、新聞の持つ社会的・公共的使命の重さを訴えた。また、再販制度や特殊指定によって支えられる戸別配達により、全国どこでも同じ価格で、公正で幅広い情報に触れる機会が保障され、国民の知る権利が確保されていると指摘。「わが国が誇るべき戸別配達制度を可能にしている関係者の尽力に敬意を表したい」と述べた。

 鈴木氏は「特殊指定の見直しは、劣化の著しい日本社会のさらなる劣化を招く。市場原理第一主義による特殊指定見直しを阻まなければならない」と主張。見直しに反対する決議を、4月13日に開く議連の総会で採択する考えを明らかにした。さらに、「自民党の有志で、特殊指定撤廃を阻むための議員立法を作る方針を決めたと聞いている。われわれは政治の場で闘っていく」などと述べた。

<柳田氏の基調講演>

 なぜ公正取引委員会は特殊指定の廃止を強行し、新聞に介入しようとするのか。記者の証言拒否が東京地裁に認められなかった問題(別項参照)や、個人情報保護法施行に伴う過剰反応や警察の匿名発表の問題を含む取材・報道の危機的な状況について、その背景を考えなくてはならない。

 大きな背景として、インターネットの登場によるメディア状況の変化がある。

 ITを全否定するつもりはない。人間は歴史上、新しい便利な技術を捨てたことはなく、危険だと言ってみても戻れない力がIT革命にはある。大事なことは、新しい文化や技術の負の側面を見た上で取り入れることだ。

T革命の負の側面は、言語と心に現れている。

 新聞を購読せず、ニュースは携帯サイトで十分という人がいる。携帯サイトのニュースと新聞記事で致命的に違うのは、新聞には読む人の関心事以外のニュースも載っており、そこには世界がある。関心事だけを見ていては、世界が見えなくなる。

 戦後の行政制度は、細かく専門分化されてきた。司法や医療の分野にも、専門家社会の危険な側面がある。狭い視野の専門家が支配する現代日本に、いかにメスを入れるかが重要だ。

 新聞の特殊指定を外そうとしている公取委は、行政官としての狭い視野の中で、例外なき取引の自由化を貫こうとしている。この問題は生きた人間の問題として考えなければならないが、それが公取委に通用しないのは、自由化がイデオロギーとなっているからだ。

 新聞が果たすべき役割は大きい。新聞も努力して、事件だといって騒ぐだけでない、掘り下げた報道をしてほしい。

<シンポジウムのおもな内容>

――活字文化の現状、現在の「活字文化の危機」をもたらした背景をどう考えるか。

○ここ数年、「表現の自由の危機」「メディアの危機」が言われている。政治家や官僚、裁判官でさえ、表現の自由の規制は重大な問題であるとの認識が、不足しているのではないかと感じる。新聞特殊指定が見直された場合、新聞社の経済活動は自由になるかもしれない。だが、特殊指定という経済規制は、情報が日本全国にあまねく行きわたる流通プロセスの保護という役割を担っている。(指定の改廃で)宅配制度が崩れる可能性があるとも言われており、何の担保もなく廃止するのは乱暴だ。ドイツでは、情報の収集から編集、印刷、読者に届くまでのプロセス全体を「プレスの自由」として、憲法で保障している。競争が激化し中小新聞社が倒産すれば、集中独占が進む。それを防ぐとの理由からだ。日本でも、いくつかのメディア優遇政策の一つとして、特殊指定があるわけで、経済活動の自由だけで議論するのは問題だ。

○山川 表現の自由の中でも、民主主義社会で一番重要な役割を占めるのは「報道の自由」。それを最も活発に担うのが新聞だ。新聞は、印刷してどこかに置かれるだけでは不十分で、全国津々浦々に正確、迅速に届けられる必要があり、そうでないと、新聞の役割は制約される。また、民主主義社会では、多様な新聞が複数、存在することも重要だ。各国で消費税の免除、優遇なども行われている。日本には、独占禁止法の例外としての再販制度と特殊指定がある。公取委は特殊指定を見直したいと言うが、宅配制度にどういう影響があるのか。悪い影響は無いのか。配達システムは新聞の自由の不可欠な要素だ。いったん壊れてほころびが生じると、元に戻すのは難しい。

――新聞を取り巻く環境は厳しい。どう対処すべきか。

 ○新聞は、異なる二つの方向に対して緊張関係に立たされている。一つは、政府との緊張関係。日本の記者は国家権力に遠慮し、抑制的な態度ではないのか。知る権利に奉仕する積極的な取材を怠ってはいけない。もう一つは、市民一人一人との緊張関係だ。新聞は市民には、巨大な権力として現れる。個人の人権、名誉やプライバシーの問題にまじめに対応するのは当然だ。一方、犯罪報道などで匿名が増えているが、突っ込んで書かないと事件の背景が分からない場合も多い。書きすぎてもいけないが、書き控えもいけない。

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