「ありのままの重み再確認」――ジャーナリズムシンポジウム
朝日新聞社は6月22日、東京・有楽町の有楽町朝日ホールで、シンポジウム「事件や戦争をどう伝えるか――現場の目撃者として」を開催した。読者ら約450人が聴講した。1999年に米コロラド州コロンバイン高校で起きた銃乱射事件や、イラク戦争関連の報道でピュリツァー賞を受賞したロッキーマウンテン・ニューズ社の社長らも登壇。人権や国益とのかかわりの中で、報道が担うべき役割を議論した。
基調講演したロッキーマウンテン社のジョン・テンプル(John Temple)社長は、報道写真の在り方について人間性が重要であるが、「目撃者としての責任を果たすためには、人の心を乱すものであっても、重要な写真は掲載するという勇気が必要だ」と訴えた。
同紙は銃乱射事件の報道で、殺害され道路に横たわる少年の写真を掲載。遺族から強い抗議を受けた。しかし話し合いを重ね、相互理解を築いたという。
写真記者のトッド・ハイスラー(Todd Heisler)氏(現ニューヨーク・タイムズ紙)らによるイラク戦争の戦死者、遺族の姿を描いた企画も紹介。戦死した夫の棺に寄り添う女性の写真などについて「記者と遺族の深い共感が実現させた」と話した。
これらの事例を基にテンプル氏は「編集者はありのままの世界を伝えることが大事だ」と指摘。報道において、人々の生き方など「物語」を表現することの意義を説いた。

パネルディスカッションではまず「人権とジャーナリズム」をテーマに討議した(写真)。
早大の藤田博司(ふじた・ひろし)客員教授が司会を務め、テンプル、ハイスラーの両氏と、リチャード・ロイド・パリー(Richard Lloyd Parry)(英タイムズ・アジアエディター)、やなぎみわ(現代美術作家)、外岡秀俊(そとおか・ひでとし)(朝日新聞社ゼネラルエディター兼東京本社編集局長)の各氏が登壇。取材・報道を通じ公共の利益と人権、プライバシーの保護をどう調整すべきかをめぐり、意見を交換した。
ハイスラー氏は積極的な報道の重要性を強調した上で「1人の人間として、現場では撮影対象に静かに接することを心がけている」と述べた。駆け出しのころ「まず人間であり、次に職業人であり、最後に写真記者であるべきだ」と教えられたことを信条にしていると語った。外岡氏は「記事に具体性がなければ、事実は伝わらない。被害者のさまざまな思いを踏まえ、悩みながら新聞を作っていくしかない」と話した。
一方、やなぎ氏は「インターネットの普及により人々の情報に対する欲望が拡大していくなか、新聞のモラルはますます重要になっている」と指摘した。
パネルの第2部は石破茂(いしば・しげる)元防衛庁長官を交え、「国益とジャーナリズム」をテーマにイラク戦争の報道などを議論した。
石破氏は、ハイスラー氏の写真報道を踏まえ「つらく悲しいことも国民に見せ、判断の正しさを問うことが、政府の責任なのかもしれない」と発言。「メディアの批判に耐えられない国益は、その名に値しないのではないか」と述べた。
パリー氏は「ジャーナリストは、国益でなく読者の利益を考えなければならない」と強調した。